小ネタ日記ex

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セブンスヘヴン(笛/三上シリーズリメイク編)。
2008年04月13日(日)

 きっとどこかにあって、いつか会える、そう思っている場所がある。








 長い間、何かを探している気がする。
 アルコールが入った勢いが、彩にそんな言葉を吐かせた。即座にしまったと後悔したのは、隣でグラスを傾けていた先輩がわずかな苦笑を見せたからだ。
「何かって?」
 オフィス街の中にひっそりと佇むようなバーは、秘密めいた空気を勝手に作り出す。思いがけず自分のプライベートの奥底まで曝け出してしまったような気がして、彩は取り繕うように曖昧に笑みを作る。
「わかりませんけど…何となくです。ずっと欲しいものがあるような感じがするんですけど、それが何なのかわからないんです」
「ふぅん」
 気になるな。そう続け、横目で見つめてくる同じ会社の二つ上の彼に、今度は彩のほうが苦笑してみせる。相手の好意が見え透いていて、対処に困るというのがおそらく正しい。
 来なければよかった、とは思わないが、突発的な誘いに乗ってしまった自分の外面がうらめしい。上手い断り文句が出てきていれば、今頃は自宅でゆっくりと金曜の夜を過ごせていたはずだ。
「意外に不器用なんだな」
「そうかもしれません」
 早くこの話題が終わればいい。彩はそう思いながら、磨かれたカウンターの上のグラスを手に取る。もうほとんど空のシャーリーテンプルは、飲み干そうにも氷が邪魔をして上手くガラスを伝ってくれない。
「見せればいいのに」
「え?」
「そういう途方に暮れた顔とか、困った顔とか。見せてよ」
「見せられません」
 駆け引きに向いていないことを示すように、彩の答えは素早かった。笑ってはみせるが、軽くいなすには相手のほうが上手だった。困っている、というのは図星だが、実際は酔いに後押しされたこの雰囲気がより居心地が悪い。
 相手は少し興を削がれたのか、面白くなさそうに息を吐き、彩から視線を外す。
「頑固だね」
「…そうですね」
 何を探しているのか自分でもわからないのに、相手を拒絶する。目の前にあるものが欲しいものであるかどうか判定もつけないまま、無いものねだりをする。そんな己を自覚し、彩はため息にならない程度に深呼吸をした。
「山口さんはさ、寂しいときに寂しいって言ってくれなさそうだね。甘えてくれなさそう。誰もいなくても、何でもひとりで乗り越えられそう」
 それを言われると、反論は決して出て来ない。
 グラスの細い足を両手の指先で掴みながら、彩はうつむきそうになる自分を叱咤する。今さら、そんなことを言われて傷つくとは思わなかった。平静を装って視線をカウンターの向こうに並ぶ酒瓶のラベルに向ける。隣の人の顔は見たくない。
「そうかもしれません」
 違う、そうだった。ずっとずっと前から。
 寂しいとか、会いたいとか、そんな言葉を伝えられなかった。そして思う。

『…あなたは、私がいなくても何でもできるんでしょ?』

 あんなこと、言うべきじゃなかったのに。
 自分の前で、最後まで弱気な姿を見せてくれなかった、かつて少年だったクラスメイト。彼を責めたあの日の自分の声が胸に鋭くよみがえる。あのときの自分の言葉に、別の人の口を借りて復讐されていた。
 あれは、最後の賭けだった。
 そう言って彼が引き止めてくれることを願っていた。そんなことはない、お前が必要だと、そう言って欲しくて賭けをした。駆け引きが苦手なことはその当時からわかっていたのに、無謀なことをした。
 そして賭けには負け、その恋を強制終了させた。
 本当は会えない時間は寂しく、長く、その時間をどうやり過ごすかいつも悩んでいた。そのくせ会えたときに心からの笑顔を見せられず、いつも後悔した。想いの発露の方法がわからなかった、まだ中学生だったあの頃。
 不安なんて口に出せなかった。あの頃好きだった人が好いてくれた自分は、いつも強い女だったから。その強さを崩して、弱さを見せて、彼に嫌われるのが怖かった。完璧な自分は、彼が好きになってくれた『山口彩』だったから。
 そのくせ、彼には彼の弱さを見せてくれることを望んだ。頭ではひとりで何もかも抱え込める人ではないと知っていたものの、いつも強気な顔ばかり見せた彼に苛立った。
 結局、人は変われないものなのだろうか。
 隣を置き去りにして、ぼんやりと彩は考える。
 外面ばかり気にして、本音を言えない関係は虚しさばかり伴う。そばにいる喜びもいとしさも、感情の発露が追いつかない。満ち足りていないとわかっているのに、満たすための努力を相手に押し付ける。
「これまで、好きな人とかいなかったの?」
 タイミングのいい問い掛けだった。
 今まさにその相手のことを考えていた彩は、小さく笑う。思い出すにはかすかな苦みが走るのに、彼への想いはこれまでの人生の中で色濃く、そして鮮やかだ。
「いましたよ。…誰よりも特別な人」
 幾度かした恋の中で、いつも胸にあったあの面影。
 三上亮。
 とても好きだった、一番最初に好きになった人。
 遠い昔、自分から別れを言った、はじめての人。
 それでもまだ、終わった恋は今も名前を見るだけで切ないぐらいの愛しさが込み上げる。きっとこれからもずっとそうなのだろう。
 彼にもう会うことがないと理解出来るようになった年齢で、たとえ他の誰かと一緒にいても。
 どこにいても。
 あの人が、他の誰かを選んだとしても。








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 ちょっと前に書いていた、三上シリーズのリメイク編です(わかりにくい)。
 数年振りに本編を読み返し、「イヤこれ今とキャラ違うし!」といかに当時適当に書いていたかを思い知り、ちょっと書き直してみようかな、と思ったのが始まりです。
 とはいえちょろっと書いただけで、しかもこの全く面白くない書き出しなので正規品にはなりませんでした。没ネタとしてこっちで使いまわしです。

 彩さんは書きながらどんどん完璧を求める優等生キャラになり、喋り方が固めになり(口癖は「〜でしょう?」/「う」までつくのが基本)、部活は不明ですとか言っときながら初期の頃ブラスバンド部であったことが判明し、うにゃらもろ。
 設定は 決めてから書こう 生みの親
 しかし有り難いことにうちのサイトの女性キャラ屈指の人気をいただいています(オリジナルキャラ自体そう数いませんけど…)。

 天国の第七階層、至上の場所。セブンスヘヴンという名前を聞いたとき、いつか小説のタイトルに使いたいなーと思っていました。




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