小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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再録:ヒーローインタビュー(笛/藤代誠二)。
2006年08月26日(土)

 好きな人を教えて下さい。







「えーと、とりあえず竹巳かな?」

 笠井竹巳さんのことでしょうか?

「そうそう。一番仲良いし!」

 ほかにはいらっしゃいますか? 女子生徒からの要望が一番高い質問ですので、よろしければ是非。

「好きとか言うんなら、ほかにもいっぱいいるじゃん、普通」

 そうですね。では、個人的に尊敬する方などは?

「あ、渋沢キャプテン! 尊敬っていうかライクっていうかむしろラブ? 俺渋沢センパイすっげー好きッス! 結婚するならあの人希望で!」

 愛の告白ですね(苦笑)。
 しかし、その渋沢克朗部長にはもう意中のお相手がいるようですが、そのことに関してはどうお思いですか?

「うーん、それは早いもん勝ちだからしょうがないかなー、とか」

 出会うのが早ければよかった、ということでしょうか?

「かもしんない。だってキャプテンのカノジョつったら幼馴染みで、幼稚園からの付き合いだっていうし、いきなり出た俺に勝ち目ないッスよ。あ、でもキャプテンがカノジョよりも俺のほう優先してくれたときは『これって愛?』とか一瞬だけ思う(笑)」

 …渋沢部長のこと、大好きなんですね(微笑)。

「大好きッス!!」

 仲が良いのは素晴らしいことだと思います。
 短時間ではありましたが、新聞部インタビューにご協力下さいましてありがとうございました。次の試合でも活躍を期待しています。











「…大好き、ね」

 ふふふと低い声で笑った少女の手の中で、本日発行の校内新聞がぐしゃりと音を立てた。
 間近でそれを見るハメになった笠井は、常ならぬ彼女の鬼気迫る横顔に怯えることとなる。

「あ…ほ、ほら、藤代の『大好き』ってさ、人間的に好きとかそういう意味で、別にそっちが心配してる意味じゃないと思うんだ。あいつって、それこそライクとラブを混合する言い方するんだよ」

 笠井としては決死のフォローだった。
 しかし例のインタビューにあった『渋沢克朗の(一応)彼女』として、藤代の言い草は捨て置けないものであったのだろう。藤代の発言は本気にしろ冗談にしろ、底が見えない。
 そんな藤代の爆弾発言の影響をまともに浴びている彼女は、冷えた瞳とひきつった口許を隠さない。

「笠井くんは『とりあえず』。克朗は『結婚したい』。…どうなの、それって」

 誤解と語弊を招くよりほかない言い方だった。

(あのバカ…!!)

 笠井は態度には出さないものの、頭を抱えた。
 よりによって校内新聞のインタビューであんな発言をする者がどこにいる。
 今頃は三年生の教室で、何やかやと言われている部長のことを思うと、笠井の胃がキリキリし始めた。…別段彼が気に病むことではないのだが、藤代の後始末役としては仕方ないことだ。

「藤代の結婚したい相手っていうのは、料理の上手い人って意味なんだと思う」
「…そう。それなら確実に克朗は好みなんだ」
「でもあんなの冗談に決まってるし、本気にしちゃダメだよ?」

 っていうかしないで欲しいよマジで。
 これで万が一、サッカー部の部長と彼女の間に何かあってみたりしたら、彼氏のほうは間違いなく藤代に八つ当たりの矛先を向けるだろう。
 そのとき必ず自分のところにもそのとばっちりが来ることを、笠井はほぼ正確に予測していた。悲しいことに前歴があるからだ。
 渋沢の幼馴染み、笠井にとってはクラスメイトの彼女は握りつぶした校内新聞を再度広げると、眉をひそめた。

「しかもこの記事、私が悪者みたい」
「…どのへんが?」
「だってこれじゃ、藤代が身を引いた側みたいじゃない」
「……………」

 そういう見方もあるのか。
 不機嫌な割には冷静に文面をチェックしていた相手に、笠井は男にはわからない女性の視点は怖いと思った。そして、このインタビュアーとなった新聞部員は絶対に女子生徒だと確信する。

「私、幼馴染みってだけで克朗と付き合ってるわけじゃないのに」

 唇を尖らせた彼女の横顔が、どこか悔しそうだ。
 笠井はそれに気づき、どうしてこういうことになったのかわからずとも、こういうときのフォローのために自分がいるのだろうと息を吐いた。

「だからさ、本気にしちゃダメなんだって」
「………」
「所詮藤代の言うことだし、読んでる人も本気で受け止めるわけないよ。気にしたら負け」

 軽く言うと、笠井は相手の手から例の新聞を取り上げた。

「藤代には俺からよく言っておくから。ごめん、変な思いしたよね」
「…別に、してないし」

 ばればれの嘘を吐いた彼女を笠井は敢えて指摘しようとは思わなかった。
 ただ、世の中には多くの見方や視点があるのだから『大好き』などという割と重い意味を持つ単語を軽々しく使うなと、藤代に言い聞かせる必要を感じた。

「…克朗のところ行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」

(渋沢先輩どうにかしてフォローを…!!)

 笠井が胸中で祈りと願いが入り交じった思いを彼女の背中に向けかけたとき、不意にその背が振り返った。笠井が不思議に思う前に、彼女は早口になって告げた。

「藤代に言っておいて。大好きでも、先に会ってなくても、絶対渡す気なんかないって」

 照れよりも意地の度合いが強い双眸が笠井を睨んだ。

「う、うん」

 驚きつつうなずいた笠井を確認すると彼女はそのまま踵を返す。
 心なしか乱暴な足取りを見送ったあと、笠井は彼女から取り上げた新聞に目を通す。
 藤代の問題発言を「仲が良いのは素晴らしいことだと思います。」で締めくくったこの新聞部は強者だと最初から思っていたが、あの彼女にあの発言をさせたことはさらにすごいと思った。

「…渡す気ない、かあ」

 一度は恋人にどこかで言って貰いたい台詞だ。
 きっと彼女は本人にそんなことを言ったなどとは、口が裂けても言わないに違いない。
 そう考えるとどこかおかしく、笠井は小さく笑った。

「あ! 竹巳ー!」

 そこに脳天気に響いた明るい声。
 笠井はわざとゆっくり振り返り、皺のついた紙を前に突き付けるとにっこり笑った。
 そもそも笠井は初めから藤代のインタビュー内容が気に入らなかったのだ。とりあえずって何だとりあえずって。
 いっそ何もつけないか、最初から俺の名前なんて出すな。

「藤代、話があるんだけど」








**************************
 過去小ネタ日記より再録。
 FDを整理していたら、前日記のデータがテキスト形式で入っていたものを発見しました。その中から、割と私が書きたかった森風景が入っているものを。
 …こういうアホっぽいのが、何だかんだで好きですよ…。

 前の日記のデータとか読み返すと、かなりこう、相模湾に身投げをしたくなる気分です。あとかなりムカつく。なんでこの人こんなにムカつく日記書いてんのかしら…(過去の自分ほど会いたくない人間はいない)。当時日記をお読みの方、ほんとすいません。

 最近ヤフーの無料配信で、楽しいムーミン一家を視聴しております。
 期間限定とはいえ、タダで見せてくれるなんて、ヤフー様素敵! …と思いました。






いまそこにあるらしい危機(笛/渋沢と三上)。
2006年08月25日(金)

 ご利用は計画的に。









 窓から見える空が、少しずつ茜色に染まりかけている。
 秋ならば烏の声でも聞こえてきそうな空の色だったが、生憎夏のいまは小さな蝙蝠が懸命に滑空している。空調設備などない男子サッカー部の部室は蒸し暑く、一つだけ置いてある扇風機もいまは止まっていた。
 その部室の中で、中央に置かれた長机に向かう長身の少年が、ひとり。
 ひい、ふう、みい。…古風な数え方がぼそぼそと響く。

「……足りない」

 ごくりと、この部屋の借り手の長は唾を嚥下した。
 足りない。その事実だけで、顔の血の気が失せていくのがわかった。
 わざと木目に似せた模様をつけた会議用の長い机。その半分以上を様々な帳面で埋めながら、渋沢克朗は思わず頭を抱えた。
 うつむくと、ノートの上に額がぶつかり、ごつりと音が鳴る。

「……どうしよう」

 平均より色が抜けた自前の茶髪を、惜しげもなくこまごまと数字が書かれたノートの上に散らす。
 …偶然、そこに入ってきた三上亮は後にこう語った。
 まるで、生活苦の貧乏学生のようだった、と。
 悲しいことにそれはそのときある意味で正鵠を射ていた。

「…何やってんだ、お前」

 三上が忘れ物のために部室に入ってきたときも、かの部のキャプテン渋沢克朗は机に突っ伏したままだった。
 夕刻とはいえ、夏の頃合だ。締め切られ、扇風機も回っていない部室内は運動部の汗と埃の匂いと、暑さでとんでもないことになっていた。まずその事実に、黒髪の三上亮は顔をしかめた。

「おい渋沢、こんなとこにいるなら扇風機回せよ。ったく何のためにあんのかわかんねーじゃねーか」
「…足りないんだ」
「は? ボールか、ビブスか、マネージャーか?」

 部員数が三桁の大台に乗った武蔵森学園高等部男子サッカー部の支援人員不足はいつものことだった。人数は多いが、マネージャーの比率が合っていない。三軍選手がマネージャーを兼務する場合は多いが、それでも足りていない。
 渋沢の珍しい撃沈ぶりをさほど気にせず、三上は部屋の隅の椅子に鎮座している扇風機に近づき、さっさと電源を入れた。

「使うな!!」

 そこに、神の一声が轟いた。
 唯一無二のキャプテンにして、不動の正ゴールキーパーの渾身の一声に、三上は思わず直立不動になった。
 声と同時に立ち上がったらしい渋沢の前の机には、白い紙切れが小山となって積まれていた。

「は?」
「やめろ。つけるな。飛ぶ」

 領収書が。
 唸る様にそう言った渋沢が、今日はデスクワークだから部室に篭る、と言っていたのを三上は覚えていた。長机の上に散らばる何冊かの開かれたままのノートと、渋沢の私物の筆記用具、そして電卓。それを見れば、彼がどんな事務作業をしていたのか検討はつく。
 はあ、と三上は息を吐いた。薄暗くなりかけている部室で、なぜ渋沢が電気を付けないのかわかった気がした。

「おい、俺、聞かなかったことにしていいか?」
「折角だから聞いていけ。よろこばしいことに我が部はこれから借金生活に突入だ」
「っへー、お前も部長から経理までって大変だよなー。その上しかも借金ってよー。バカじゃん? うちの部あの生徒会からどんだけ金もぎとってんだってさー」

 ハハハ渋沢くん嘘言っちゃいけないなぁ。
 似合わないさわやかな笑顔を振り撒く。三上亮は誰が何と言おうと、本気を出せばいくらでも演技派になれる。

「はは、そうだよな。あれだけ頑張って、前年度の使途不明金まで含んだ分を何とか生徒会に認めさせて受け取った部費だぞ? それが今後の遠征の交通費すら出ないなんて有り得ないよな?」
「そうそう、何かの間違いだろ。もう一度ちゃんと計算してみろよ。ちょっとうっかり何かを忘れているだけなんじゃないか?」
「ああ、きっとそうだよな。十回以上計算したって、全部間違えているかもしれないし、そもそもまた領収書のない使途不明金は四桁超えているし、生徒会からは夏休みの合宿費用の報告書出せってせっつかれているのに出来ていない。そういうのもきっと何かの間違いだな!」

 わはははははははは。

「……そんなワケあってたまるか」

 重低音の声で、渋沢克朗は今度こそうなった。瞳だけが底光りし、ぎらりと三上を睨む。

「お、おい俺カンケーねぇぞ! 俺は財務には関わってないからな! ピッチ外のことは管理者の責任だろ!」

 10番というエースナンバーを背負い、司令塔としてゲームメイクの権利は与えられているももの、外部からすれば三上は役職なしの部員だ。
 渋沢は沈黙のまましばし三上をにらみつけたが、やがて無意味だと気づいたのか再度椅子に腰を下ろした。

「……参ったなぁ。また生徒会に頭下げるのか」
「…いつお前が生徒会に頭下げたんだよ」

 徹底抗戦の上、グレーゾーンの支払い費用まで経費と認めさせた渋沢克朗の功績はもはや伝説だった。
 基本的に、渋沢克朗は戦いの場では頭を下げない。頼み込んで何かをさせるのではなく、とことんまで戦い、勝利して権利を勝ち取る。超がつく生真面目さと紙一重の頑固さが彼のウリだった。

「つーか、一体何にそんな使ったんだよ。今年特に設備増やしたりしてないだろ?」
「チリも積もれば何とやら、って奴だな。今年は暑かったし、飲食費が随分かさんだ。だからあれほどコンビニ使わずに遠くてもスーパーへ行けと言っていたのに…!」
「……………」

 意外と金策では切羽詰っていたらしい部の内情を知り、三上はひそかに背筋が冷えた。
 カネがなければ、ボールは買えない。夜間設備の電気代も払えない。遠征試合にも行けない。ないない尽くしのサッカーで、勝つというモチベーションを維持する難しさぐらい簡単に予想出来た。

「…とりあえず、無くても構わないものから切り捨てることになるから、まずはマネージャーに頼まれていた洗濯用洗剤をカットだな」
「げ、水洗いだけかよ」
「各自で寮で洗うかだな。…でもこんなのじゃ焼け石に水だろうな。うちは食べ盛りが百人以上いるし…」

 はぁ、と息を吐いて渋沢が背中を丸めながら机に突っ伏した。
 物悲しい光景だった。名門武蔵森学園は私立であり、多少裕福な家庭に育った生徒が多い。その分部活動にはOBや保護者会からの寄付が集まってくるが、それらも多くは設備維持費に回され実際の現場で使える額は微々たるものだ。
 そもそも金銭が絡む問題については、監督や顧問教師がメインとなるのが学校社会のはずだった。しかし高等部からは部の運営も生徒の管轄となり、経理を兼ねるのは部長だったり副部長だったりと、その年によって異なる。
 今年の部長の渋沢克朗は、サッカー部でなければ間違いなく生徒会役員に名を連ねていたはずの人材だ。彼は部長業の傍ら、部の事務のキーマンとして動いていた。

「ため息つく前に相談だ相談! どうにもならなくなったって、俺は生徒会には借りねぇ!」

 がたがたと椅子を引っ張り、机をはさんで渋沢の向かいに三上は座る。ふんぞり返るように脚を組むのは三上の癖だった。
 財政を聞いてしまった以上、もう後戻りは出来なかった。役職はないとはいえ、司令塔として部の危機は看過出来ない。
 だいたい、渋沢克朗ともあろうものがこんな失敗を犯したなど外に漏れたら、一体外部の連中に何と呼ばれるか。
 サッカー部お金ないんだってーえーかわいそうー。渋沢どうしたんだよー。そんな同情と憐れみをこめた視線を向けられるなど、三上は死んでも御免だった。

「金をどうにかするなら、①支出を減らす ②収入を増やす ③元出を増やす この方法だろ」
「…ふむ。それぞれ妥当だな」
「じゃあまず①から潰してくぞー。チリも何とやらってお前がさっき言っただろ。領収書を項目別に出せ。そっから切り崩す。どうせ個人的な買い物とか絶対入ってんだ。そういうのを本人から回収する」
「なるほど」
「電卓」
「はい」

 数字が絡んだときの自分の強さについて、三上は相応に自負を持っていた。逆に誠実で頑固な渋沢のほうが、金勘定には融通が利かないのだ。

「っていうかお前、なんで今時全部手書きで保管してんだ? 学校の端末好きに使えるんだから、そこで全部データベース化しときゃ計算も楽なのに」
「残念なことに、そのシステムとやらを使いこなしている時間がない」
「んじゃマネージャーをパソ部かどっかに研修に行かせて、Excelの基礎ぐらい叩き込ませろ。ひとりで抱え込むな」

 人材は常に不足気味とはいえ、中学時代からずっと続けてくれているマネージャーもいれば、選手を辞め後方支援に落ち着いた部員もいる。何も経理計算まですべて部長がこなす必要はないのだ。

「お前は頭なんだから、重要なとこだけ出てりゃいいんだよ」

 番長更屋敷まがいのレシートの数え方をする部長など勘弁して欲しい。

「恩に着る」

 生き生きと電卓を叩く三上の頼りがいのある有様に、肝心の部長は有り難そうに手を合わせていた。



 後日、部費の最大出費は立替払いをしていた部員の合宿費用の取立てをしていなかったことが判明。
 最後の最後で抜けている部長に、あやうく借金生活に突入するところだった三年レギュラー陣からの非難が竜巻のように起こったのは云うまでもない。









***********************
 まあ何といっても学校社会ですから、お金なくたって彼らの基本的生活が困窮するわけではないのですが。
 カネがなければサッカーも出来ん! …という感じになりつつあるベルマーレを思い出しながらつらつらと。

 克朗さんは金銭管理もきちっとしてそうですが、たまにボケてみるのも面白いかもね、と。

 さて、今日も今日とて仕事だったわけですが。
 最近、よく社内をふらふら歩いていると、総務の人と間違えられます。外部宛郵便の出し方教えて下さい、とか歩いてる途中で言われても知りません。
 制服があるわけでもなく、私服にIDぶら下げてるだけなのでどの課の人なのかすぐに判断出来ないにしても、最近多い。
 間違えられる理由については不明です。総務にも女性は割合にして2割ぐらいはいらっしゃいますけど。
 どうしてでしょ。

 そういえば、先日のFateネタでじわじわと反響を頂いております。ありがとうございます。セイバーが一番好きです。
 弓剣とはいうものの、本格的なカプリになられるのもちょっと…な、どっちかっていうと昔親しかった近所の小さな子を見ているような兄貴面の弓さんと、全然記憶にない(あるわけがない)見た目金髪緑目少女な剣さんが、よい、わけですよ…!
 たぶん、士剣と弓凛を大前提にした、弓剣が一番好きなのだと思います。






冬の庭(Fate/セイバーとアーチャー)(その他)。
2006年08月21日(月)

 どの時代にいても、一度はこういう時間があった気がする。









 乾いた冬の空の色は、いつの世も素っ気無い。
 日当たりの良い縁側で冬枯れの庭園を眺めながら、青いリボンを結んだ少女はそう思った。目の前に広がるのは、武家屋敷そのものの日本庭園。彼女の手には陶器の湯のみがあり、ほのかな湯気を漂わせている。
 そして少女の隣には、赤い騎士と揶揄される青年がどっしりと腰を下ろしている。短く立った、銀にも近い白髪。浅黒い肌とその髪の対比は、青年の精悍な横顔の印象をさらに強めていた。
 青年の手にも、彼女のものと同じ湯のみがある。ただし、彼はほとんと口をつけていない。片手に持つその湯のみは、彼の大きな手のひらにただ包まれているだけだ。
 人間ではないふたりは、互いに沈黙を守っていた。
 彼も彼女同様に、主人である魔術師を持つサーヴァントだ。一般に魔術師に召喚され使役される使い魔というよりも、さらに格上の英霊と呼ばれる魔術のしろもの。
 板の間である縁側で、少女は正座を崩さずにじっと薄茶に枯れた芝の風景を眺めていた。
 彼もまた、同様に目前の風景をただ眺めている。
 不思議な光景だった。彼らの主たる魔術師たちが、さる目的のために協力関係にあるとはいえ、自分たちが呼び出された理由を考えれば二人がこうして穏やかに茶を飲む姿など有り得ない。
 おかしな有様だと、少女はふうと息を吐く。その吐息をきっかけに、赤い服の青年がすぐ真横の彼女のほうを見た。

「どうした」
「どうしたではありません。アーチャー、あなたはいつまでここにいるつもりですか。凛のそばを離れていていいのですか」

 何せ、自分たちがここにいる理由である目的を考えれば、マスターのそばを離れるなど彼女にとってみればあってはならないことだ。
 彼女が自分のマスターたる少年のそばを離れているのは、現代社会に生きるマスターのそばに生身の自分がいては迷惑になるからだ。しかしアーチャーと呼ばれる彼は違う。一級の魔術師をマスターに持つ彼は、マスターからの魔力を存分に供給されているため、他の人間たちには見えぬよう姿を消してマスターに付き従うことも可能だ。
 可能であるくせに、なぜむざむざマスターのそばを離れているのかが、彼女には不思議でならない。

「凛なら学校だ」
「それはわかっています。シロウもそうですから」
「ついて来るなと言われたからそうした。有り難いことに、こちらのマスターは己ひとりで敵の初撃ぐらいは何とか出来るのでな」

 呼ばれたら行く。それで間に合う。その自信をちらつかせる青年に、少女はぐっと臍をかむ。暗黙的に彼女のマスターの未熟さを侮辱されたも同然だ。

「それが、ここに来る理由にはなりません」
「男の行動を逐一咎めるな。剣士としては一人前以上だが、女としてはまだまだだな」
「アーチャー!」

 十代半ばの外見をした青いリボンの少女は、金の髪を揺らして怒りを露にした。マスターともども蔑まれるなど、彼女の誇りが許さない。
 凛とした緑の双眸に強い感情をたぎらせた少女に、青年は大して気にした様子もなく嘆息する。

「全く、その程度で声を荒げるな。みっともない」
――――!」

 この男は、ひとを怒らせるのに長けている。
 なぜ彼を縁側に座らせ、茶まで供しているのか。少し前の自分の行動を少女は心から悔いた。

「怒ったか」

 けれど、ぽつりと赤い青年が呟いた一言が彼女の波立った感情を静めた。彼の呟きには、揶揄する響きが感じ取れなかった。

「いいえ」

 即答し、ふいと顔を背けると、青年が苦笑する気配がした。

「女であるよりも、剣士として騎士として今も生きるわけか」
「何を言う。この身は主の剣となり盾となることを誓ったのだ。剣と盾に性別など不要だろう。守るべきものを守り、倒すべきものを倒す。むしろ女の意識など邪魔だ」
「呆れるほど潔いが、あのマスターはそれを良しとしていないのだろう?」
「…シロウは甘いからだ。そこが美徳なのだろうが、些か…」

 言いかけ、この世界でセイバーと呼ばれる少女ははたと気づく。この相手に自分たちの弱点ともなる得る情報を喋るわけにはいかない。
 ちらりと、気まずくなりながら少女が隣を見たが、青年は彼女の話をあまり有益なものとは思っていないような顔つきだった。

「苦労が多いな、セイバー。まあ、あのマスターに召喚されてしまったこと自体が不運か」
「それは違う。確かにシロウには、通常のマスターとは思えぬことが多いが、私は彼がマスターでよかったと思っている」
「………………」

 きっぱりと告げたセイバーの真摯なまなざしを受け止めたアーチャーは、数秒の間黙ってそれを見つめ、ややあって嘆息するように言う。

「…君がそう言うのなら」
「は?」
「いや、何でもない」

 もう随分冷めた湯のみの茶を、アーチャーは驚くほど品の良い手つきで飲む。背筋を伸ばし、口の中で茶の味を堪能するように喉に流し込む。
 それを見ながら、セイバーも自分の湯のみから茶を飲む。
 こうしていると、本当に不思議なほど穏やかな時間だった。アーチャーの様子からは殺気も敵意も感じられない。ただふらりと茶を飲みに来たと説明されれば、信じてしまいそうなほど穏やかだった。
 また唐突なタイミングで、アーチャーが口を開いた。

「その服はどうした」
「え?」
「武装のときの色と似ているが、君の時代のものではないだろう」
「これは凛が貸してくれたものです。シロウと一緒に出かけるときなど、この時代に合ったものがないと不便だということで…」

 一点の曇りもない白いブラウス。彼女本来の服の色とよく似たロイヤルブルーのスカートと、胸元を飾る青いリボン。敵になる身とはいえ、アーチャーのマスターは聡明で気が利く良い人物だ。
 話しながら、セイバーはふとアーチャーのほうを見て首をかしげる。さらりと金の髪と、結んだ青いリボンが揺れた。

「シロウのようなことを訊くのですね、貴方は」
「…あんな未熟なマスターと一緒にするな」
「シロウと同じことを訊く、という意味です。貴方とシロウを一緒にする気など毛頭ありません」
「それは有り難い」

 皮肉げに笑うアーチャーに、セイバーは思わず眉間に力を入れた。ふてくされた顔などしたくはないが、本当にこの男の言うことやることは面白くない感情を刺激してくる。
 ただ憮然としたセイバーに、アーチャーはまた笑ったようだった。

「なじんでいるか?」
「…マスターの周囲の人間と諍いをするようでは、困るのはシロウだ。まあ、そうでなくとも凛も含めて、シロウの周囲の人たちは皆親切にしてくれている」
「そうか」
「……………」

 全く、困るのはむしろアーチャーのほうだ。
 セイバーは軽く唇を噛む。
 彼を敵として見るべきか、同じサーヴァントとして友好的な態度を見せるべきか思い悩むセイバーを無視して、彼のほうは悠然とした横顔で庭を眺めている。こちらは、口調をどう定めればいいのかわからず、あやふやな言葉遣いになっているというのに。
 相手の意図がわからないというのは不安であると同時に、セイバーに緊張を齎してくる。穏やかな気持ちにはなれるものの、どうしても左肩のほうに力が入ったままだ。
 これがまだ戦闘状態であるのなら、すべきことが決まっている分だけ楽だ。戦いを挑まれたのなら、受けて立つ覚悟は遥か昔から確立している。
 また長い沈黙が続いた。
 退屈さこそ覚えなかったが、手持ち無沙汰なことは確かで、セイバーは軽く顎を上げて空を仰ぐ。薄い水色に、霞のような淡い雲が流れている。しずかで冷たい、冬の空だ。
 人の声はせず、鳥や虫の音も無い。セイバーが生身で体感してきた冬は厳しさそのもので、この街の冬とは比べようがない。それでも、冬の静けさはどの場所でも変わらない。
 穏やかな陽光を顔に受けているうちに、ふとセイバーはまどろむように瞳を閉じていた。

「…さて、そろそろ行くとしよう」

 縁側の板の間に湯飲みを置く音で、セイバーは目を開けた。そして胸中で己を叱咤する。同類の存在がいる真横でまどろむなど、あってはならないことだった。
 立ち上がったアーチャーは、じっと見上げてくる金の髪の少女に向かって、かすかに笑った。

「ではまたな」

 また来るという意味だろうか。そしてそれはどういう意味で?
 疑問と不信に思わず眉根を寄せてしまった少女に、長身の青年は不愉快な顔はしなかった。得意の皮肉げな笑みも見せず、凪いだ穏やかさで告げる。

「ご馳走さま、セイバー」

 やわらかに印象を変える、彼の瞳。その優しげな色にセイバーがきょとんとした瞬間、彼は立ち消えるように去った。
 後に残るのは、残り香のようなささやかな風。やがてそれも少女の前を通り過ぎていく。
 わけがわからない。あの行動も、あの笑みも、あの瞳の色も。
 やさしくされる謂れなど、ないはずなのに。
 狐につままれたような面持ちでセイバーは息を吐く。アーチャーは自分の知らない何かを知っているのかもしれないという予感がしたが、それが何であるのかがまた不思議だ。
 ただ、目を閉じていたあの時間。彼が自分を傷つけないだろうという、直感じみたものがあった。見守られるような、包まれるような光を浴びて、緊張がほどけた。

「…全く、意味がわからない」

 マスターが帰って来る前に、湯飲みは洗っておこう。
 呟き、彼が置き去りにした陶器に手を伸ばすセイバーの髪が光を感じて一層強くきらめく。
 冬の太陽は翳ることなく、清廉な少女だけを包んでいた。









***********************
 一体これは何ルートの何日目のいつなのさ、という突っ込みを無視して、Fate/stay night、セイバーとアーチャー。

 いつもなら、ゲームは完全クリアしてからでないと二次には手を出さないと決めているのですが、すっかり凛ルートが終わったらFateはもう終わったような気分です。
 はい、セイバールートと凛ルートはクリアしました。
 桜編はもう…いいか(わかってる、あれまで終わらないと伏線が全部消えないってことは)。

 ちなみに私は、自分がやる随分前から、友人神咲さんからあらすじやらネタバレを随分聞いていたので、ぶっちゃけもう知ってるストーリーを追いかけるだけに近いのですね。
 …英霊の正体をほぼ全員知ってる状態でゲーム開始しました。このだるさ、本当につらい。わかってるわかってるよアンタの正体はさアーチャー! …みたいな気持ちで、士郎ちゃんの葛藤を読む私のほうが葛藤じゃー(こらえ性がない)。

 そんなわけで、おそらく最初で最後になるんじゃないかな、と思いつつも、神咲さんから先日さらっと「セイバーとアーチャーがいいなぁ! アーチャーがセイバー大好きっぷりを見せる感じで」とか言われたリクエスト小ネタ。
 …彼女のリクエストを叶えるのは、実に数年振りだと思われます。
 剣と弓。カップリングではなく、うーっすらとセイバーを思っているアーチャーの図は、私的に大変好みでした。
 ゲーム本編しか資料がないので、色々うそくさいのは勘弁して下さい(ぺこり)。

 Fate本体を下さった、小姐さんには期待に副えなくて申し訳ないが初Fateは弓凛じゃなかったよごめん(私信)。

 さて、夏休みも終わって、Fateもひと段落したわけですが。
 甲子園も終わりましたねー。
 横浜負けたあたりでもうほんっとどうでもよかったのですが、どうも今年は名勝負が多かったとか何とか?
 でもこれで勝った子も負けた子もお疲れ様。甲子園行かれなかった子もお疲れ様。応援の父兄の方、先生方、地域の方、応援する卒業生のOBOGの方も、もお疲れ様でした。

 しかし、決勝が再試合っていうのもすごいなー、と思っていましたが、決勝戦の結果が出た頃とほぼ時を同じくして、わたくしの職場ではこっちの結果のほうが大人気でした。

 企業サイトの情報発信力結果

 うーん、そうそうたるメンバー…とはいえ、どうしても飲食系とかが強いのは致し方ないかな、とは思います。
 業界認知度よりも、一般CMとか、生活に根ざした製品のほうがどうしても印象は強いと思われる。私もナレッジマネンジメントを完全分析できるほど知識がないのであまりあれこれ言えませんが。

 そういえば、仕事で必要な資料なら仕事中でもいいから本屋とか図書館とか散歩がてらお出かけしておいでー…と、心の広い司令塔様が仰ったのですが。
 うちの司令塔さんは割と放任主義で、成果を出すなら方法は問わん! と言い切るイイ上司です。サカキチだけど、
 で。
 …とうきょうほうめんの、せんもんしょがたんまりあるような、おおきいほんやさんって、どこ?
 横浜じゃなくて東京行け、と言われたのですが、横浜じゃダメかなー。そりゃ東京行くほうが近いけどさー。
 うう、今度東京方面で仕事してる人に聞こう…。
 あみゃぞんは立ち読みが出来ないから、中身を知ってから買うのには向かないんだよねー…。
 出歩くのが大嫌いな性癖が、仕事でまで影響するとは思わなかった。いつも仕事の本なんて、あみゃぞんか有○堂(神奈川で大手本屋)で済ませてたよ!

 さんざん仕事は嫌いだ嫌いだと言っているのに、たまに周囲に「何だかんだで楽しそうだね」と言われます。たの、しい…?
 仕事の出来る人たちに囲まれている幸せはありますが、割と日々一杯一杯です。
 嗚呼、夏休みがいつまでも続けばイイ(のに)ナ!(見たこともない噂のマイメロ調で)






無遠慮のひと(種/キラとカガリ)。
2006年08月05日(土)

 遠慮も許しも必要なく。









 ぽて、と体温の高い顎が肩に乗せられた。
「意外と器用だな、キラは」
「ぅわッ…!」
 モビルスーツの調整に使う端末機を裏返し、機械内部をいじっていたキラは、耳元で聞こえた声に心底から驚いた。
 すぐ視線を横にずらすだけで、鮮やかな金の髪が目に入る。キラの肩に顎を乗せる、気だるげな顔つきの少女。
 格納庫の端、床の上に直接座り込んでいたキラは彼女が近づいてきていたことにも気がついていなかった。
「…あのさカガリ、僕がいま何を」
「何してるんだ?」
「すぐメモリいっぱいになってフリーズしちゃうから、容量大きくしようと思って、交換してた」
「ふーん」
 カガリが声を出す都度、キラの肩も軽く上下する。カガリが顎を乗せているせいだ。否応なしにキラの頬に金の髪が当たり、体温が伝わってくる。
「…器用なんだな」
「そう? でもこの程度、誰でも出来るよ」
「うらやましい」
 呟いたカガリは、そのままキラの右肩に額を置いた。
 どうやら膝立ちで背後にいるらしい『妹』のその様子に、キラは目を瞬かせる。とても珍しい光景だ。
 ふとキラは今の時間を思い出す。
「ねぇカガリ、もしかして…寝てない? いま六時だよ?」
「お前だってそうだろ」
「僕らみたいのは昼夜逆転も有り得るの!」
 この有様では、おそらくお付きも連れずに自宅のアスハ邸を出て来たのだろう。いくら普段から何くれとこの国立研究所を訪れているとはいえ、ふさわしい時間というものはあるだろう。
 何せ、彼女はこの国の象徴なのだ。キラのような技術者兼パイロットのような立場とは違う。
「…なんか、考え事してたら眠れなくなって」
 くぐもった声がキラの耳に届くと同時に、抱きつく細い手も現れた。やわらかい体温。きょうだいのその温度に、キラは息を吐きながら淡く微笑む。
 これも、甘えている仕草なのだろうか。双子の片割れのこの姿がそうなのか、キラには判断がつかない。何せ自分たちが一緒にいられる時間はあまりにも少ない。
「…僕に話せる悩み事?」
 身体を軽くよじり、肩に乗せられた髪をキラは撫でる。
 キラの問いかけに、カガリは一瞬止まった後、小さく首を横に振った。
 昔ほど無鉄砲にならなくなった分、この『妹』はあまり多くを語らなくなったとキラは思う。経験を重ねていく政治家として、歳月を重ねていくひとりの女性として、感情の発露からは幼さが抜けていく。
 だからこそ今のような仕草は、キラにとって久しぶりで懐かしく、不謹慎なほど嬉しくなる。
「こんな朝早くに抜け出して、皆心配してるんじゃない?」
 キラはわざと明るい声を出した。髪を撫でる手を止め、ただその頭の上に手のひらを重ねるだけにする。
「眠い」
「え?」
「眠い、キラ」
 顔を上げないカガリが意固地な口調で、そう言い張った。
 全く、眠いと不機嫌になるんだから。
 変なところでわがまま言い放題になっている双子の片割れに、キラは脳裏で苦笑する。
「じゃあ、一緒に寝る?」
「うん」
 冗談のつもりが、本気でうなずかれ、言ったほうのキラが慌てた。
「…ごめん、やっぱり無理です。僕が皆に怒られる」
「何で」
「常識的にさ、成人過ぎた男女が一緒に寝るってまずいでしょ。いくら双子だって。お空のアスランから説教メールが届くよ?」
「知るか、あんな奴」
「……………」
 アスラン、また喧嘩したの?
 今は宇宙の母国にいる親友に、キラは心で問いかけた。
 合意の上で遠距離恋愛を開始した彼と彼女だったが、何だってああも通信手段で喧嘩を繰り返すのか、キラには不思議でならない。それでいて実際顔を合わせれば仲の良さを見せるのだから、画面越しの口喧嘩は彼らなりのコミュニケーションなのだろうか。
「…もうやめようかな、あんな奴」
 ふと顔を上げたカガリが不機嫌そうに呟いた。
 耳のすぐ上から聞こえてきたその声に、キラは気まずくなって視線を明後日に彷徨わせる。
 年々、倦怠カップル化しているような気がする。
「カガリー、僕はっきり言ってアスランの愚痴なら聞き飽きたよ」
「聞け! 親友として責任取れ!」
「ヤダ。お兄ちゃんもう生々しい妹の恋愛談は聞けません」
 てか聞きたくありません。
 当初のしんみりとした感慨を打ち捨て、キラはだらりと身体の力を抜いた。親友がらみだとわかった瞬間から、もうこの甘えは嬉しくない。
 この子も男の愚痴を言うようになって…、という感激はとうの昔に消えている。
 カガリがプラントに行くとき、日程の中にアスランの官舎泊まりの日があると知ったときの兄の動揺を妹は知るまい。
「キーラー!」
「はいはい」
 抱きつくから、ほぼしがみつく、に近くなった妹の頭をキラはおざなりに撫でる。
「大変だねーかわいそうだねーアスラン」
「何でアスランの味方するんだよ! バカキラ!」
「ちょ、耳元で怒鳴んないでよ」
 ああもう、全くしょうがない子だ。
 かつて彼女にそう思われていたに違いない十代の頃。女の子は早く大人になる。それを実感していたのは、あの頃のキラだった。
 それが今は逆になり、もう子どもではなくなったけれど。
「絶対、あいついつか泣かしてやる…!」
「カガ、カガリ苦しいってば! 僕の首絞めないでよ!」
「親友が身代わりだ!」
「横暴だって!」
 若干の身の危険を感じながら、キラは天井の高い格納庫に響く自分たちの声の楽しさに気づく。なぜきょうだいとじゃれあうのは、他人にはない親密さに心浮かれるのだろう。
 大人になっても、君が恋する相手が出来たとしても。

「どうせまた、アスランに言い負かされて悔しいんでしょ?」
「うるさいバカキラ!」

 この愛しさは、永遠に続いていく呪いのような絆だ。
 背後から首を絞められながらも笑ってしまう自分の気色悪さを、キラは諦観しながらためいきをついた。









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 双子が好きです(常識のように)。

 なんか我ながら意図せずつらつらと書いた双子ですが、理由があろうがなかろうがひっついてる彼らを書くのが好きです。読むのも見るのも好きです。
 キラにとって、そばで微笑んでくれるのがラクスなら、一緒にわんわん泣いてくれるのはカガリであればいいと思う。




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