小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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最後の春(笛/郭英士)。
2006年04月15日(土)

 春です。









 その春、奇跡が起きた。

「これはやっぱり運命よ、英士!!」
「………………」

 その日、中学校は新年度最初の登校日だった。
 盛り上がる彼の従妹は、興奮気味に彼の手を両手で握りしめた。
 ようやく肩に触れる程度の黒髪、公立中学校のセーラー服、背負いの黒い鞄と革のローファー。静かに黙っていればまるで日本人形だと評される少女を目の前に、学ランの従兄はあえて無表情を装った。

「…運命っていうか、まさに手違いだよね。有り得ない」

 郭英士。1月25日生まれ、中学三年生となって初日。
 彼は自分の態度を相手のテンションに反比例したくなるという、ひねくれた中学生男子だった。
 彼らの周囲では、同じ学年の少年少女がクラス発表の掲示板を見ては、同じように友人同士で話し合ったり、それぞれに一喜一憂していた。

「ねぇ、折角はじめて同じクラスになれたんだから、もうちょっと喜んだら?」
「無理。面倒くさくてしょうがない」
「面倒くさいぃ?」

 率直な感想を述べた英士に、彼女は思いきり顔をしかめ、彼の手を離した。
 少女の白い手が離れた途端、英士の手の平がひやりとする。知らず汗ばんていた手が流れる風に触れたせいだ。

「だってそうでしょ。親戚同士で同じクラスになんかなっちゃって、面倒だし、忘れ物したときこれからどうするの」
「……確かにそれは困る」

 うん、確かにそうね。
 忘れ物、というくだりにだけ実感をこめてうなずいている少女の有様はいつも通りだった。
 どうせ自分の役割は、この彼女と世界の橋渡しなのだ。その事実をかみ締めながら、英士は世話役としての任を思い出す。

「困るかもしれないけど、私は嬉しいよ、英士」

 けれど、英士の従妹はその言葉通り、春の青空に似合う笑顔を見せる。
 桜の花びらが、樹を離れて空に舞うのが視界に入る。新学期の始まり、春の匂い。
 春は世界の始まりの季節だ。生き物が生まれ、育まれ、やがて訪れる冬の終焉まで続く。彼女が一番好きな季節。
 そして新しいクラスでやっていけるかどうか不安でたまらなかったはずの彼女を、英士は知っていた。それが英士と一緒のクラスだとわかれば、その不安もかなり和らぐ。だからこその喜びようだった。
 いい加減、本気で互いにイトコ離れしないと本当にまずい。
 ただの従兄妹から、『普通じゃない義理の従兄妹』になった以上、もう少し外聞にも気を配るべきだろう。怜悧な表情を一瞬たりとも崩さず、英士は心を決めた。

「…とりあえず、校内で俺に触るの禁止」
「え?」
「手にも顔にも髪もダメ」

 付き合おうだとか何とか、正確なことは言っていないがとりあえずこの関係は現在隠しておくに限る。もう少し年齢層が高い世界ならともかく、中学校社会で言いふらすと後が面倒だ。
 英士がじっと相手を見ると、彼女もやがてしっかりとうなずいた。

「了解。そろそろそうしたほうがいいよね」

 長くそばにいたいのなら、方法も少しずつ変えなければならない。
 自分たちは気にしないこととはいえ、周囲が同じとは限らない。
 納得した顔の従妹に英士は再度うなずいてみせると、時計を見ながら息を吐き出した。

「あーめんどくさー」

 それが英士の心底からの本音だった。
 この遺伝子に彼女と似通ったところなど全くないくせに、何だってこの似た外見で義理のイトコになぞならなければいけないのだろう。

「たとえば?」
「プライド高いくせに妙に卑屈で小生意気な従妹の面倒を今年も見なきゃいけないことが」
「……英士って実は私のこと嫌いでしょ」
「そんなことないよ?」

 英士はにっこりと笑ってみせる。
 たまには振り回してみたいときに決める必殺の笑みだ。
 校門の脇に桜が咲いている。幼い頃出会ったときと同じ春。言ったことはなかったが、英士も春は好きな季節だった。

「まぁ、今年度もよろしくお願いシマス」

 手間を掛けさせている自覚があるのか、不承不承といった様子で呟いた従妹に向かって、英士は手を伸ばしかけ、すぐに引っ込めた。
 それが「行くよ」の合図と共に差し出した手だと気づいた彼女が、くすくすと笑う。

「お目付け役も大変ね、英士」
「…誰のせいだと思ってんの」

 すっかり癖になっている。十年近く、彼女の騎士の如き態度でいたことが、体に染み付いている。
 彼女もきっと薄々気づいているはずだ。依存心の強さは英士のほうが上である事実を。
 かすかなため息を隠して歩き出した英士のすぐ隣に、同じ歳の少女が並ぶ。
 中学三年になった春だった。









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 …久々すぎて書き方忘れたー!? と、ひとり慌てた英士と従妹でした…。
 英士は基礎が原作を見ればスパッと思い出せるのですが、従妹ちゃんのほうは自作ゆえに自分がわからなきゃどうにもならん、という…。
 どうもこの二人は完結編が終わってから、すっかり放置組として認識しているのか、小ネタが常にワンパターン(別に英士組に関したことでもない)。

 実は、英士組では例の携帯電話にCMにあった「愛してる」パターンと、「大好き」パターンをやらせてみようかと思っていたのですが、どうも上手く当てはめられませんでした…。
 もしやってたらたぶん↓みたいになったと思う…。

「…愛してる?」
「疑問系じゃなくて言い切って」
「愛してる!」
「もう一回」
「…愛してる」
「もう少しゆっくり」
「愛してる」
「語尾に『よ』つけて」
「…愛してるよ?」
「ますます疑問系でイヤ」
「愛してるよ」
「しっとり気味に」
「……愛してるからもう勘弁して」

 お姫様はワガママが鉄則です(たぶん)。




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