小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
※気が向いた時に書き込まれますが、根本的に校正とか読み直しとかをしないので、誤字脱字、日本語としておかしい箇所などは軽く見なかった振りをしてやって下さい。

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雨の中で(デス種/アスラン)。
2005年06月25日(土)

 ずっと迷って、気付いたら手を離していた。








 三人を蹴り飛ばし、二人を奪った銃で撃った後はもうカウントするのを放棄した。
 雨音は足音と銃声を薄れさせてくれる。加えて日暮れ後の闇は、アスランにとってまたとない味方になってくれた。作戦行動前の基地は武装兵で溢れ返っている。じき自分が二度目の逆賊になったとの通知が広まるだろう。
 兵舎の非常階段に置き去りにした歌姫の身代わりのことが気にかかったが、今は自分のことだけで精一杯だ。雨に濡れながら人通りを避け、別棟の兵舎の脇を走りながらこれからのことを考えた。
 どこに行くのかと問われれば、答えは一つしか出てこない。
 ―――アークエンジェルへ。
 今になって、親友の言葉を認めたがる己に、アスランは自嘲の笑みを浮かべた。どうしていつも、気付くのはこんなに遅い。
 自分の背よりも高い鉄の格子を助走をつけて飛び越える。身を潜めて遠くに見える動く明かりをやり過ごすと、一般兵舎の非常階段を一気に三階分駆け上がった。下方の舗装道路に軍用ジープが何台か港に向かって走っていくのが見えた。
 思った以上に議長の手配が早い。たった一人を捕らえることだけに何人を動かしているのだろうか。これも自分への一つの評価かと、アスランは到底自慢にならない現実に息を吐いた。
 冷たい雨は心まで冷やそうと躍起になって降ってくる。逃げるには便利だと思ったが、自然環境は決して人間に媚びへつらうことはない。
 南国のスコールを思い出す。唐突にやって来ては豪雨を降らせ、気まぐれに去っていく。あの国、あの雨の後の清らかな空気。
 不意に開きかけた口を、アスランは強い意志で無理に閉じた。今となっては楽に口に出来なくなった南国の少女のすがたが、夜の雨の向こうに浮かんだ。
 金の髪の少女は、今の自分をどう思うだろうか。
 見損なうだろうか、それとも呆れるだろうか。どちらにしても無様なことに間違いはない。冷静に受け止めてはくれないだろう。

『オーブへ戻るんだ』

 今になって、あの夕暮れの海での自分の言葉を思い出す。今になって、あれがどれだけ酷薄な響きを帯びていたかを痛感する。
 いつだってそうだ。ひとの痛みに、自分はこんなに後になってから気付く。
 なぜカガリがあの国を出ることになったのか、なぜキラが罪を被ってまで妹を攫ったのか。理解出来ないと思っていたのは、アスランが彼らの言葉を最初から否定していたからだ。そして彼らがアスランを否定していると思い込んでいたからだ。
 自分の本当の望みは何であったか。
 一拍の息を肺まで吸い、拳を胸に当てるとアスランは目を閉じた。心臓の音のその奥、鮮烈に見えるたくさんの面影。雨の音はここまで迫って来れない。
――アスラン』
 名を呼んでくれる、やさしい声はいくつも重なる。
 キラやカガリを守りたいと願った思いは今も色褪せない。そのためにザフトに戻った。世界の平和の中に、彼らも在った。
 ―――だから、ここでは駄目なのだ。
 彼らのところに行ったところで自分がどうするかは、アスラン自身にもわからない。胸を張るのか、頭を下げるのか、そして彼らの反応も、まるでわからない。
 それでも、一緒に考えようと言ったキラを信じている。滑稽なほど、兄弟のように育った幼馴染みを信じている。金の髪の少女がもたらしてくれる、満ち足りた優しさを信じている。あんなに傍にいるだけで己の力を信じさせてくれる二つの存在を他に知らない。
 今度こそ、共に道を探したい。一緒に生きたい人たちと、同じ道を。
 群青の髪から落ちる雫がアスランの頬に落ちる。闇はますます深まっていく。彼は面を濡らす水を手で振り払い、自分が選んだ道へと走り出した。








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 ひとりアスラン祭開催中です。
 36話『アスラン脱走』前提で。
 MS戦より銃撃戦より何より、肉弾戦アスランが好きです。
 …ごめん、私カガリを蹴飛ばしたりダコスタ君を仰天させたアスラン・ザラが好き…(@無印)。

 脱走ってことはー…と、結構ぶん殴ったり蹴飛ばしたりするアスさんを期待していたのですが、見事叶っていやっほうな気分です。ぎゃーかっこいいよアスランのくせに!(素直に褒めろ)
 ミーアやメイリンに手を差し出すあたりがまた彼らしかったです。
 そんなデス種36話、『アスラン脱走』。

 今週はミーアも期待方面の反応をしてくれて好感度急上昇です。どこまでも『ラクス』でありたくて、『ラクス』で居続けることを選んでくれてありがとう。しかも平然とじゃなくて取り乱してまで固執してくれてありがとう。
 ぎりぎりの欲望に罪悪感も未来も何もかも吹っ飛ばしたキャラは結構好きです。
 まあ、ミーアもついてくることになって、メイリンといい、女の子二人連れでアークエンジェルに戻ってきたアスランをあっちの人たちがどういう目で見るかと想像するのも楽しいんですけど。

 議長については。
「お前がキラを語るんじゃねぇ!!」
 とでも言いたげな、ザラさんの苛烈な目が面白かったです。
 わざとなのでしょうが、議長の語り口は相手に同意しているようで最終的に自分のいいほうに持っていく、まるでクレーム処理のような話術ですね。

 …にしたって、シンの扱いが。どうせなら銃持ってアスラン追っかけるのがシンならよかったのに。事情知ってるのがレイだからってさ、こういうときこそ主人公特権が欲しい、せめて(そんな特権はキラにしかない)。
 来週はMS戦なのが残念です(作品根底を覆す発言)。






うたかた(デス種/アスランとカガリ)。
2005年06月19日(日)

 光があってこその影法師。








 夕暮れの海は地球の丸さを思い知らせてくる。
 夜の女神のドレスの裾が東から広がり、西の太陽の残照を少しづつ覆い隠していく。夜明けとは真逆の黄昏。一日の終わりが始まる。
 海原から吹き付けてくる風がアスランの前髪を乱し、首筋をくすぐって通り抜けていく。
「アスラーン!」
 ほぼ波打ち際を歩いていた金髪の少女が、不意に振り返ると笑って手を振った。
 彼女はアスランに用事があるわけではない。ただ離れて歩いている彼に声を掛けるためだけに笑っている。
「カガリ、あんまり深いところまで行くなよ!」
 白いふくらはぎをむき出しにして海水とじゃれあっている少女に、アスランは声を張り上げた。
 ところが彼女は、笑って一蹴する。
「わかってる! 私はここで育ったんだぞ!」
 つい少し前まで地球の海を知らなかったアスランに言われなくても、ということらしい。
 事実である分だけアスランに反論の余地はないが、護衛としてこのお転婆姫に注意することは必要なのだ。
 さざめく潮騒と、砂を含んだ海の風。この国に来て最初の頃はこの潮風に辟易したものだったが、気付けば慣れた。人間の順応性は、人工的な遺伝子を持つコーディネイターといえどもそう大差ない。
 幼少の頃から一人でも海で遊んでいたというカガリは、十代後半になってもその癖が抜けない。砂遊びに没頭するわけではないが、夕暮れの海を歩くことは彼女にとってストレス解消の一種らしい。
 六角に伸びた水晶のようなあのカガリの真っ直ぐな気質は、このオーブの太陽と海が育てたのだろう。彼女はまぎれもなく地球の少女だった。
 沈んだ太陽の残った光だけでも、カガリの金糸の髪はよく見える。わずかな光でさえ浮き立ち、夜にまぎれない。
「カガリ、そろそろ帰るぞ」
 もう戻らなければ、夕食の時間に間に合わない。
 時計を確認したアスランが彼女に声を掛けると、アスハの若い当主は不満げな表情を寄越した。
「ええ? もうそんな時間か?」
「今日は明日の準備もあるから早めに帰るよう言われてただろ」
「めんどくさいなー」
 口ではそう言いつつも、明日の朝から視察の任を負う少女は裸足のままアスランの近くまで駆けて来る。潮になぶられた金の髪と、砂だらけの白い足。
 こうしていれば、ただの一人の娘だというのに。
「ちゃんと足拭けよ」
「はいはい」
 車からタオルを持ってきたアスランがそれを放ると、カガリは半乾きの肌から砂をはたき落とす。
 国民はまさか自分の国の姫と仰ぐ少女がこんなところで海遊びをしているとはあまり想像していないだろう。
 何気ない黄昏は毎日訪れる。空はその下の地表がどうなっていてもその色も移りゆく様も変化しない。
 ただの夕暮れと海の色。同じ景色の中、二人の影が夜に消えていった。







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 で、オチは?(………)
 アスカガで小ネタって実はむずかしいです(私にとっては)。

 ここ最近使っていなかったワープロを出してカタカタ打ってたんですが、やっぱ使い込んでるのはいいわ…としみじみしました。
 あとワープロだとパソコンと違って、ネットに逃避しないので書くときの集中力が違うと実感しました。いやむしろ反省。
 調子が悪いのが難点なのですが、ワープロ後期のものでまだメーカーで修理受付してくれるようなので、早いうちに修理に出そうと思います。FDを時々読み込んでくれないから…。
 あとワープロだとパソコンのネット辞書が使えないので、アナログ辞書を使わなければならないのがちょっと面倒。人ってこうして楽を覚えていくんですね。

 むしろワープロで一番楽なのは、ワンタッチ電源のところですよ! 立ち上げが一瞬。パソコンみたいに一度落としたらまた立ち上げるまでの時間がかからない(←ものぐさ)。
 たぶん次回の更新あたりは前みたいに、
 ワープロで書きtxtでフロッピーに保存 → PCでhtmlタグ打ちしてアップ
 …という手法に戻ると思います。
 メモ帳で全タグ手動打ちサイトです。






雨とピアノと彼の音(笛/渋沢と三上)。
2005年06月15日(水)

 雨音と音色が連弾する。








 ファの音が、雨の音と平行して聞こえた。
 指鳴らしのように短い旋律が空気を伝い、やがて数拍置いて序章が流れ出す。開けた窓の網戸の向こうから聞こえるそのピアノの音に、渋沢克朗は軽く目を伏せた。
 雨の日曜日。入梅してからというもの、朝から雨が降る日が多くなった。
 初夏だというのに薄寒く、新緑を打つ雨に静謐さが混じる。しずかで冷たい、松葉寮にしては珍しい空気の日曜日だった。
 床の上に脚を伸ばしベッドを背もたれにしている渋沢は、腹の上に開いたままの文庫本を伏せて置き、思いついた名を口にする。

「笠井か」
「だな」

 端の机でノートパソコンを開いていた同室の三上亮も、渋沢の考えに同意した。
 武蔵森学園中等部サッカー部専用寮、松葉寮。優に50人以上を収容出来るこの寮でも、娯楽室のピアノを弾ける人間は数少ない。
 その筆頭は、渋沢と三上の一級下の笠井竹巳だ。猫目が印象的な彼は、入部時の自己紹介で淡々と趣味はピアノだと言っていた。

「あいつも休みになるたび、よく弾くよな」
「あれが笠井の息抜きなんだろ。だいたい、朝から画面しか見てないようなお前が言ってもな」

 人それぞれに、趣味の範囲は異なるものだ。渋沢は三上の黒いノートパソコンを見遣りながら苦笑した。
 音楽の造詣が深くない二人はそのままそれぞれの時間に戻る。
 しばらく背景音楽としてピアノの音が松葉寮を流れていたが、ある空白の時間の後に流れ出した旋律に、同時に顔を上げた。

「…おい、これって」
「…なんだか随分テンポが速いが」

 椅子のリクライニングをきしませた三上が、口端をひきつらせて渋沢を振り返った。
 黒髪の友のその顔を見た渋沢も、相手が何を言いたいのかすぐにわかった。

「愛と勇気だけが友達の歌だな」
「……アンパンマン」

 雨の日曜日、鳴り響くはアンパンで出来た正義の味方のテーマ曲。
 一体何の気まぐれだと思いつつ、穏やかな笠井の性格らしからぬ性急な奏で方は、弾き手の本意ではないことを如実に示している。

「どーせ藤代あたりが適当にねだったんだろ」
「ヤケクソの顔が見えるようだな、笠井の」
「にしてもよく弾けるもんだな。楽譜とか持ってんのか?」
「さあ? でもある程度になると、曲聞けば両手で弾けるようになるとか?」

 音楽分野は二人揃って専門外だ。曖昧な知識を縒り集めての会話は、正確な答えが出てこない。
 休日のためいつもより整えていない黒髪を片手で梳きながら、三上は届く音楽に肩をすくめた。

「おい、2番に突入したぞ」
「間奏まで入れるあたりが笠井らしい」

 文庫本を読み続けることを諦めた渋沢は、天然の茶の髪を揺らしながら喉の奥で笑う。今頃娯楽室のアップライトピアノでは、猫目の後輩が勢いよく指を動かしていることだろう。
 笠井はピアノを趣味だと言い切る割には、学校内でピアノを弾くことは滅多にない。男子にはあまり馴染みのない趣味であることも気にしているのか、彼がピアノを披露するのは専ら寮内のみだ。
 笠井のピアノの腕前がどのレベルにあるのか、渋沢にはよくわからない。弾けない身には大層上手に思えるが、本人に言わせれば「この程度掃いて捨てるほどいる」ということだ。
 それでも、部内ならば掃いて捨てるほどにはいない。渋沢がそう言ったとき、クールな彼が笠井が照れた笑みを見せたことを覚えている。

「折角弾けるんだから、もっと弾けばいいのにな」
「あ?」
「笠井のピアノだ」

 渋沢が唐突に言ったことを、椅子の上で三上がわずかにその眉をひそめた。

「そんなん、本人次第だろ」
「それはそうなんだが、うちの寮のアンパンマンで終わらせるには勿体無い気がするな」
「そうか? 確かにこれはヤケっぽいけど、あいつには楽しいんじゃねぇの?」

 あまりにあっさりと三上が言ったことを、渋沢は意外な気がした。

「ここで弾く分なら、誰も文句言わねぇし、ケチつけたりしない。ちょっとぐらい失敗しても気にしないで好きに弾けるって、楽しいと思うぜ?」
「……………………」

 渋沢同様、授業以外の音楽の経験は皆無だというのに三上の発言はとても納得出来る気がした。
 いつの間にか、上達することをどこかで役立たせることが信条になっていた己を省み、渋沢は苦笑した。
 いつか渋沢が素直に両手を打ち合わせたときの、珍しくはにかんだ後輩のすがたを思い出す。

「ああ、その通りだな」

 誰かの可能性を信じることと、誰かの幸福を決めつけることは違う。価値観の違いを押し付けそうになった自分を、渋沢は生真面目に反省した。
 雨の空気は、笠井のピアノの音によく似合う。彼は雨の日、サッカー部の練習が休みの日にピアノを弾くことが多い。それが、笠井が選んでいる日々の象徴なのだろう。
 清楚な雨の音とピアノの音に静かに耳を傾けてみたが、次の選曲はむしろ暴力に近かった。

「……………なんで次がキテレツ大百科なんだよ」
「……………コロッケを作る歌だな」

 こんなのまで弾けるのか、と渋沢は思わず本音で呟いた。
 国内基準は知らないが、松葉寮基準で言えば笠井竹巳のこの特技は抜ききんでいることは確定だ。
 何より、皆の笑いを呼び込んでくれるだろう。有名なクラシックよりもこういったもののほうが喜ぶ連中に違いないのだ。

「面白いなぁ、うちは」

 ほのぼのとした父親のような渋沢部長に、10番を背負う司令塔は投げ遣りな一瞥をくれた。
 梅雨が終われば夏到来。ほんとうの戦いの前、雨の休日にピアノの音はまだ止まなかった。








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 ピアノといえば、以前キャラの同人界での捉え方について音大出身のある方が、
「真面目にサッカー部レギュラーやって、さらにピアノのプロになれるわけがないんですよ」
 ピアノはそんなに甘いものじゃない、と仰っていたのが今でも非常に印象的です。
 いい面だけを安直に捉えて物語にするのは、真面目にその道に取り組んでいる人に対して失礼だな、と姿勢を正させて頂くいいお話を聞けたと思いました。

 のだめカンタービレを読んでいたら、ふとピアノが弾きたくなり手慰みに指を動かしてみました(習うのを辞めて8年なのですでに未経験者同然)。
 今日はひやりとした雨の日だったので、音が静かに響きました。んで、笠井くんを思い出しました。
 あと中学の同級生にすごくピアノが上手いことで有名な子がいたのですが、彼女は競って腕を磨くのではなく自分の好きに弾きたいから、という理由で公立高校を選んだ話を聞いたので、それをちょっと思い出しました。

 のだめといえば、当たり前のように有名な作曲家の名前がじゃんじゃん出てくるのですが。
 大学時代(二つ目)の教授に、その研究では日本の中で五本の指に入る中国古典の教授の講義を受けたことがあるのですが、その方が大層なベートーヴェン好きでした。
 私にとってベートーヴェンとは小学校時代に読んだ伝記で終わっていたのですが、その講義の間中、教授はベートーヴェンを流してくれたのと、同じ曲でもいかに指揮者によって曲が変わるか、という授業と全く関係のないことも教えてくれました。
 素で、「私はここの(←授業主題の詩文)イメージは○■(指揮者名)が指揮するベートーヴェンの○○○○(曲名/番号)なんです!!」でと力説する、壮年紳士。
 大学教授っていうのはこう、正直「普通の人はいないな…」と思っているのですが(皆それぞれの意味でマニアだよ/専門家)、そのときもしみじみそれを噛み締めました。
 むしろそのぐらい思い入れがなければ、専門家になんてなれないのでしょう。
 その結果、私の中でベートーヴェンとは曲でも本人でもなく、その教授になりました。

 っていうかのだめ読んでると、むしろ音楽家たちの伝記をもう一度読み直したくなります…(曲ではない)。ごめん私も所詮日本語オタク。






6月8日、日本時間午後十一時(笛/渋沢克朗?)
2005年06月08日(水)

 24時間×365日×4回+24時間=?








 試合中継が終わった途端、今度はニュースキャスターが叫びだした。

「また4年目が来るみたいだね」

 ソファの上で脚を組んだ父親は、嬉しさを堪えきれずに微笑んで言った。
 試合中は飛び上がったり叫んだり、大層うるさかったくせに今はその落ち着きぶり。結は調子のいい父親を半ば無視し、テーブルの上の茶器とつまみの類を片付け始める。

「ワールドカップだって何だって、結局あの人のやることに何か変わりあった?」
「…冷たい子だなぁ。喜んであげないの?」
「知らない」

 わざと顔を背けてキッチンに向かう娘に、父親だけが苦笑した。
 6月の夜はかすかな湿り気を帯び、穏やかに流れる。
 サッカー日本代表が、ワールドカップ進出を決めた数分後の夜だった。

「これで彼も二年目のワールドカップ参戦だね」
「まだ予選なんだから、本選で落ちるかもしれないでしょ」
「またまた、克朗くんなら全然オッケー」

 手を振ってからからと笑う父親を、結は無責任だと思い目の端で睨む。
 テレビの中では結の幼馴染みが、ヒーローインタビューよろしくテレビカメラの前で笑っている姿が映し出されている。
 強いフラッシュに照らされる天然の茶の髪、実際はテレビで見るよりも高い身長、汗ばむ肌さえ颯爽と見える微笑。すべてが結にとっては見慣れたもので、今更まじまじと見るものではなかった。

「…またかっこつけちゃって」
「克朗くんは素材がいいから、何したって絵になるよ」

 メディアを通した幼馴染みには辛口になる娘は、単に照れているだけだと父親は的確に理解していた。面と向かって幼馴染みを褒めることを彼女は小さい頃から苦手としていた。
 そして幼馴染みもそれをいつからか理解していて、彼女が何を言おうと「はいはい」と笑っていたものだから、この二人の関係は今日まで続いているのだ。

「どうでもいい」

 テーブルの上をすべて片付けた結が、今度は八つ当たりのように布巾でそれを拭き始めた。強くこするたびに、キャメルの木目の色が一瞬濃くなる。
 さらりと頬のあたりに落ちる細い髪の束の向こうで、娘が確かに微笑んでいるのを彼は見た。

「どうでもよくないくせに、素直じゃないねうちの子は」
「お父さんに似たんでしょ」
「似てない似てない」

 笑って新聞を取り上げた父親を結はまた睨みつけようとしたが、相手は娘の感想など意に介さないようだった。ふふふと大人げない笑みを見せる。

「いつまでもこんなところにいないで、メールの一本でも打ってきたら?」
「……………」
「彼氏殿によろしくね」
「彼氏じゃない!」

 大嘘をついて布巾を流しに叩き付けた娘の有様に、父親はただ笑う。
 幼馴染みとはいえ、家の中の彼女を彼はどれだけ知っているのだろうか。…少なくとも、布巾を叩きつける姿に馴染みはないはずだ。
 テレビを見れば、隣の家の長男坊主は他のチームメイトとぐしゃぐしゃの姿で肩を抱いて笑っている。

「…大きくなってさ」

 乱暴な水の音がキッチンの流しから聞こえてくる。
 脚を組み替え、幼稚園の時代から自分の娘の相手役を務めてくれた青年の成長にしみじみとした。








************************
 何か色々と前提とした上での本日の小ネタ。
 渋沢ヒロインと父@テレビ観戦の夜、でした。

 何にせよ、日本代表三度めのW杯出場おめでとう記念。
 …だったら真っ当に渋沢書けよ★ という感じではありますが、まあそれはそれとして。気持ちが大事。
 思い返せば、何気に代表サッカー(オリンピック含む)の節目ごとに私は笛キャラで書いてきたんですよ。だもんで、ここは書くべきだろうと(無意味な意気込み)。

 ここのところ珍しく所謂スランプ(?)みたいので、どうも上手く書けずにうだうだしていたのですが、渋沢ヒロインの彼女を思い出したらなんだかすっと書けました。書き慣れてる子がいたよ…!
 なんだか落ち着かなかったり焦ったりすることが増えたのですが、マイペースにやっていきたいです。
 あ、目は随分よくなってきました。ご心配おかけしました。

 26日の東京シティに行こうかどうか考え中…だったのですが、行けないことがあっさり判明。おう。
 そんなわけで、友人の無料配布本の塚不二はどうにかして手中にしなければなりません(どうにかも何も)。おくれ(私信)。






海音(デス種/シンとルナマリア)。
2005年06月05日(日)

 失われていくことはわかるのに、取り戻す方法を知らない。








 海からの風は吹き上げて甲板を攫う。
 無人だと思っていたミネルバの甲板に黒髪が舞っている。それに気付いたとき、ルナマリアの脚は勝手に彼のほうへ向かっていた。
「シン、何見てるの?」
 ベルリン戦を終えてから丸一日が過ぎた。ベルリンから離れた海域は冬の冷たさに支配されている。元は大きな街だったというのに今は焦土と化したかの地は遠く、もう見えない。
 あのデストロイという巨大なモビルスーツを破壊した後にいずこかへ消えていたシンと、ルナマリアはまだまともに会話をしていなかった。
「シン?」
「海見てるんだよ」
 素っ気無い、というよりもずっと冷たい声音にルナマリアはシンの肩に伸ばしかけていた手を止めた。怪我をしたほうの手にそっと当てたのは無意識だった。
 振り返らない黒髪の背は、曇った灰色の空のように冷たいものを背負っている。
(…泣いてる?)
 シンが振り返らないとき。それは彼の抵抗で、自分を守るための行為だ。勝気で負けず嫌いの彼は、弱いところもあまり見せたがらない。
「…また、艦長は不問にするんですってね」
 ルナマリア自身も風に髪を乱しながら、背を向ける赤い軍服を見据えた。
 ベルリン戦がまだ完全に終わり切る前に、シンは突如インパルスをあらぬ方向へ駆った。その直前の彼を見ていた兵士からは、シンがデストロイのパイロットを抱えて去っていったという報告が出されていたがシンは頑なに理由を言わなかった。
「いいわね、エースは特別扱いで」
 こんな皮肉を言いたいわけではない。ルナマリアは内心で唇を噛む。
 少しずつ顔つきを変えていくシン。不遜とも取れる態度で皆に接することも増えた。けれどたとえその才能に嫉妬したとしても、シンは友人であり仲間だ。
 泣くほどのことがあった友にやさしく出来ない自分を呪いながら、ルナマリアは肩に通していない赤服の袖が飛ばされぬように押さえた。
「…特別だって、守れなきゃ一緒だ」
 不意にかすれたシンの声が聞こえた。
 それは、一体何を指しているのだろう。
 ルナマリアが問い返す前に、シンの背中がまたあの硬化の様子を見せる。誰の声も受け付けない、凍った背中。
 戦うごと、功績を重ねる都度、シンが遠くなっていく。それはルナマリアの中でずっと揺らいでは燃え上がり、消えない。
「少し前から、おかしいんじゃない? …シン」
 気付いて。ねえ気付いて。ルナマリアは伸ばしたくなる手の先を必死でこらえる。
 掴まえなければ、シンは何かに捕まって戻って来なくなってしまう。不確定な不安が離れてくれない。
(ここに、みんないるのよ?)
 あなたを友だと思う人が。
 近くにいても遠ざかる赤い背に、ルナマリアの声は届かない。
「…おかしいのは、他の奴らだ」
 吐き捨てるような、少年の声。海風より苛烈なそれに、ルナマリアは動けない。
 見開いたラベンダーブルーの瞳に、海鳥の影が見えた。








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 ちょっとずつ、シンがミネルバの中で異質になっていっているような気がするなー…ということで、シンとルナマリー。

 今日は若菜くんのお誕生日でした。おめでとう21歳。
 だっていうのに彼は書かずなぜかシンちゃんですよ…。

 ちょっとうっかり目の調子がよろしくないので、数日療養させて頂きます(つまりネット落ち)。メールの返信とかは様子見つつさせて頂きます、ね…。




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