小ネタ日記ex

※小ネタとか日記とか何やら適当に書いたり書かなかったりしているメモ帳みたいなもの。
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ひかりの花(種/キラとカガリ)。
2005年03月26日(土)

 白い花と君に出会う。








「……なあキラ、これ何か知ってるか?」
 街角の花屋が彩りを増す季節になった。
 連れ立って歩いていた双子のきょうだいに袖を引かれ、キラは彼女が示すほうへ紫の目を向けた。
 弱くも強くもない太陽の光は、一年前の戦禍の名残を未だ残すオーブ首都にも等しく届き、世界を照らしている。明るい日差しの下、カガリが指差したのは白い花だった。
 花といっても通常の切花や鉢植えではなく、直接木の枝から短い茎が伸び、その先にある淡い五つの花弁。萌える緑の葉が慎ましく花弁に添う植物。
 白地に藍の柄がある大きな花器に活けられたそれは、カガリには見覚えがなかったが、キラには記憶の端にある花だ。
「ああ…すごい、懐かしいな」
 顔をほころばせた双子の片割れに、カガリは不思議そうに首を傾げた。
「あんまりこのへんじゃ見たことない花だよな」
「桜だよ」
「サクラ?」
「うん、そう。月にもいっぱいあったけど、本当はもっと東洋のほうで自生する木なんだ」
 微笑み、キラは自分に似てない金髪の少女に向かって己の知識を分け与える。
「このへんじゃ珍しいと思うよ。気候的にさ」
「ふーん、これが桜か」
 まだあまり品数が揃っていない店先で、カガリはしゃがみ込んだ。視線を花に合わせるその無邪気さにキラは苦笑したが、敢えて咎めようとはしなかった。
 けれどカガリが手を伸ばそうとしたのだけは釘を刺す。
「カガリ、売り物だからさわっちゃダメだよ」
「あ、そうか」
 納得したように手を引っ込める無垢さが、この少女の得難い美徳だ。まだ興味深そうに花を見ている少女に付き合い、キラも他に客がいないのをいいことに隣にしゃがむ。
「これは白いけど、ピンク色っぽいのもあるんだ。他にも八重咲きとか、山桜とか、色々種類はあるけど僕は一重が一番好きかな」
「へー」
「…みんなアスランのお母さんの受け売りだけど」
 キラの親友の亡母は植物研究者だけあって、様々な植物生態に詳しかった。仕事が忙しく、滅多に話をする機会はなかったが彼女はアスランによく似た面差しで、キラに身近にある植物の話を聞かせてくれた。
「アスランの?」
 キラの思惑通り、カガリがその名に反応する。彼の名を呼ぶとき少し高くなるその声と、その顔を微笑ましく思いつつ、キラはうなずいた。
「うん。でなきゃ、僕がそんなこと知ってるわけないじゃない」
「そっか、そうだな。お前ら揃って植物とか文学とかには疎いもんな」
 理系オタク、と笑うカガリに、キラはそれもあんまりだと口をへの字に曲げた。
「そんなにそっち方面ばっかりってわけじゃないよ。…まあ、確かにアスランより僕のほうが偏りはあると思うけど…」
 一般常識ぐらいはあるつもりだ、とキラは言い張りたかったが、カガリのほうが圧倒的に教養豊かであることは確かだった。首長家という国家を代表する一族の中で育った彼女にとっては、一般家庭で習い覚える知識とは格が違う教育を受けている。キラのほうが優れているといえばある分野の専門知識か、市井の常識ぐらいだ。
 同じ血を分けた双子とはいえ、離れていた十数年間で二人の中に蓄積されたものは育った場所によって相応に異なっている。だからこそ、知らないことを教え合う時間の楽しみというものもあった。
「キラだって、やる気になればちゃんと出来るはずだってアスランが前言ってたぞ」
「それ…いつも言われる…」
「でもあいつはやらない、ってさ」
 そのときの会話を思い出したのか、カガリは口許に手を当てながら笑った。嬉しそうに細められる金褐色の瞳。まろみを帯びた白い頬。その横顔を、キラはふと綺麗になったと思った。
 出会った頃中性的な雰囲気が色濃かった彼女は、日に日にほころんでいく花のつぼみのように女性らしい華やかさを纏っていく。それは歳を重ねていくせいなのか、そばにいるキラの親友のせいなのか。
 多くのものを失ったあの戦争の中で、あの親友が見つけたのは希望に似た花だった。無理に手折らず、そっと包むようなやさしい愛情で、彼が彼女を守ってくれていることをキラは何より感謝している。
「キラ?」
 じっと見つめられていることに気付いたのか、カガリが首を回してキラを見る。
 それに小さく首を振りながら、キラはにっこりと笑った。
「アスランと仲良くしてるんだね」
「は? 何だ、いきなり」
「ううん。喧嘩とかしてなくてよかったな、って」
「いや喧嘩ならしょっちゅうだぞ。こないだもあいつ、海行くのに帽子忘れたぐらいで怒ってさー」
「…それは多分、日焼けさせたらアスランがマーナさんに怒られるからじゃないかな…」
 一応公には深窓の令嬢で通っているはずのカガリだ。どうしても外見に気を遣わなければならないというのに、当の本人が無頓着なので周囲の気苦労は多いだろう。それに巻き込まれているだろうアスランに、キラはこっそり同情した。
「そうだ。これ買って帰ろう!」
 ぱちりとカガリが手を合わせ、キラに向かって笑った。
「アスランも、キラみたいに懐かしがるだろうし。な?」
「うん、そうだね。いくら?」
「えっと…」
 花器に差された値札を探していたカガリの視線が、ふと止まった。彼女は首をかしげ、キラを見る。
「なあ、キラ。これリンゴって書いてあるけど…」
「え?」
 驚いてキラは中腰になって値札を見る。値段と共に、商品の種類と名が書いてあるが、そこは確かにキラが知っていたはずの花ではないことが明記されている。
「…同じ科なのか? 似てるみたいだし」
「さあ…ごめん、間違えたみたい…」
 自信満々に語った自分が恥ずかしくなり、キラは縮こまりたくなる気分を堪えた。しかしカガリは怒りも呆れもせず、ただ笑った。彼女は軽快かつ勢いよく立ち上がる。
「まいっか! 似てても綺麗なんだし、買って帰ろう」
「え、いいの? 桜じゃないんだよ?」
 つられてキラも立ち上がると、少し視点が下になる双子の片割れの少女はさばさばと手を振る。
「いいって。お前が間違えるぐらいなら、よっぽど似てるんだろうし。桜じゃなくて林檎だとわかって買えば問題ないだろ?」
「…ごめん」
「別にいいって。むしろこういう花なんだって理解しやすくなったぞ」
 気にするな、と明るく言うカガリにキラはほっとしつつ、そのあけっぴろな心を眩しく思う。出会った頃から彼女はこうだった。
 その小さな手のひらに触れられるたびに、いつも救われた気がした。
「…でもカガリ、買うのは帰りね」
「え? 今じゃダメなのか?」
「だって持ち歩いたらしおれちゃうでしょ? 用事終わったら、またここ寄ろう」
「なるほど、そうだな」
 それじゃあ、とキラより先に行こうとするカガリの金の髪が陽光に透けてさらに輝きを増す。
「早く終わらせて戻ろうな、キラ!」
 何がそれほどまでに少女の気に入ったのか、キラは厳密にはわからない。少女らしく綺麗な花が好きなのか、それとも好いた相手に早く見せたい思いがあるのか、想像することは出来るが明確な答えは得られなくともよかった。
 ただ、巡り合えたたった一人の子が、幸せそうに笑うことが嬉しい。それだけだ。
 それだけの感情で、キラも笑った。
「うん、そうだね。カガリ」
 思い出に似た白い花が、二人のそばに寄り添う。
 桜の花は親友と、林檎の花はきょうだいと。歩き出したキラは、自然にカガリの手を取った。








************************
 無印終了後ぐらいのオーブで?(何その疑問系)
 この時期に書かないと間抜けになるネタなので、先日から桜ネタを活用中です。…私が花の中で一番桜が好きというのもあるのですが。
 あと双子が好きなので(もう言わなくていいから…)。

 そういえば22話なのにPHASE-21と表示され、インパルスがストライクに早変わりした先週の「しっかりしろスタッフ!」というよりも「大丈夫ですかスタッフ…」と最近同情気味のデス種感想を書いてないまま、23話が放映されてしまいました。
 夕方から用事があって一緒にいた神咲さんと見ました。
 某シーンで大爆笑していた彼女と一緒に見た感想。PAHSE-23『戦果の蔭』。

★前回同様、キラ様降臨から。
★陽電子砲装填中に砲撃って大丈夫なのか、と横から突っ込みが。…気にしちゃダメだ。だって種だから!(魔法の言葉)
★「キラ…!!」 今週のアスランは固有名詞しか言ってない気がするよ。
★「何だ…!?」 今週のシンはまた主役の座危ういままだよ。
★キラ様に見守られる中、カガリ出陣。
★その空域にフリーダムとルージュの双子オンリー。
双子MS…!!
★わー久々のルージュだー。
★「カガリ!!」 本当に今週固有名詞しか言わないアスランさん。
★ちょっと待てオーブ軍、と自分が代表であることを名乗って止める決意している姫様。
★その前にアークエンジェル内で、お兄さんから色々言われたようです。
★オーブ軍が出撃することにショックを受ける妹に、
★「でもオーブが戦争をする道を選んだのはカガリでしょ」
★といったようなことを真顔でズバリ言っちゃうキラ様。
★嗜めるラクスさんも、無理やり連れ出したのは自分たちだと慰めるマリューさんもいたけど。
★「カガリがあそこにいても止められたとは思えない」
★…といったようなことをズバっと言っちゃうキラ様。
★お、お兄様もしくは弟御よ…、それは身内だからこその厳しさですか?
★キラはキラなりに、戦争をする側に加担する判断をしたカガリが許せないのかな、と。事情があったにしろ、政治にそんなもの関係ないとウズミさんを糾弾した前作のカガリを知っているからこその発言かも、とも思います。
★どんな裏事情があっても、それは全部総責任者の肩に掛かっているんだ、とキラ様は言いたかったのかな、と。
★施政者に失敗は許されないし、頑張ったけどなんて何の言い訳にもならないもんね。
★身内だから、兄だから、敢えてカガリの駄目だったところをキラは指摘出来るんでしょうね。
★にしたって、前回アスランの「カガリさえいればこうはならなかった」発言と比べて、キラのほうが状況を冷静かつ客観的に見てるように思えます。
★アスランは、カガリにどんな期待込めてるんだろう。
★二年間ずっと過剰な期待されてきたら、いくらアスラン相手でもカガリには重荷だったこともあったんじゃないかなー。
★確かにオーブをそういう国にしてしまったけど、最後まで諦めない覚悟を決めた風の姫様でした。
★だからルージュでオーブ軍の前に立ち、両手を広げたわけですけども。
★ユウナ、言ったね。「あれはカガリじゃない! 僕が言うんだから間違いない!」
★…ほう。
★ルージュで出たことは、あの機体がカガリのものだとオーブ側にわからせるためだったと思うんですが。
★ユウナ以外のオーブ軍の人たちはそのへんわかってるようなんですが、大将がそれ認めちゃったら連合側と大変になってしまうので。
★あれは国賊だ、と喚く姫様のもしかしたら旦那になるかもしれなかった人。
★「あなたという人は…!」 呆れ果てた様子のトダカさん。
★仕方なく、ルージュに砲門を向けるトダカさん。
★「頼むフリーダム…!!」 姫様を守ってくれ、と。
★思い叶い、ルージュの前に出て全弾打ち落としてくれるフリーダム。
★でも言葉通じず、オーブに攻撃されたことに衝撃を隠せない姫様。
★ずっと守りたくて頑張ってきたものに銃を向けられたらね。
★オーブの攻撃を機にに連合も攻撃再開。ファントムペインも出ます。
★ミネルバはフリーダムに攻撃されちゃったので、ピンチです。
★ハイネもマリーもレイも出撃ですよ。でも数的にヤバいようですよ。
★ルージュに乗っているのは偽者だ、と言われオーブのMSも攻撃再開。
★「私の言葉が通じないのか、オーブ軍!!」 …泣きたくなるのもわかる気はするよ姫様。
★撃ち落とされていくオーブMSを見るのは辛いだろうな、と。
★撃ち掛けられても反応出来ないルージュを守るのはフリーダムです。
★やれるだけ頑張ってみるからもう下がって、と指示するキラ様は、妹への思いやり、だと思いたい。
★「バルトフェルドさん、カガリとアークエンジェルをお願いします!」 キラ様、最近怖いな…。
★虎も参戦です。
★撃てないのなら下がれ、とカガリに怒鳴る虎さん。邪魔だって。
★まあ邪魔なんですけど、姫様ずーっと辛い状況ですね。唯一はアレだ、指輪シーンぐらい?
★その頃のアスランさん。「キラやめろ!! なんでお前が!」 通信不可能のようです。
★その頃の姫様、キラ並の号泣中。…ザラさん早いとこ戻ってきてあげて下さい。
★キラ様、連合ザフトかまわず、手当たり次第に戦闘能力奪い続けます。
★ハイネさんも言ったよ。「手当たり次第かよ!」
★ハイネさんはガイアと交戦。がっしょんがっしょん倒しながら。
「ザクとは違うのだよ、ザクとは!!」 あれ? どっかで聞いた名台詞?
★隣の神咲さん、声を上げて大爆笑中。
★よもや西川が歴代名台詞を言う日が来ようとは。
★戦闘の最中、フリーダムがセイバーを捉えたとき、フリーダムの真後ろでハイネグフがガイアに攻撃されてしまいまして。
★さよなら西川…!!
★しかし、フリーダムに気を取られて背後からビームサーベル喰らうグフ、の構図に神咲さんと二人でちょっと不満。
せめて正面から撃ち取られて欲しかった。
★あんだけキャラ立ちさせといて、背後はないでしょ背後は!
★「ハイネーー!!!!」と叫ぶザラさん。
★今週覚えているザラの台詞。「キラ!」「カガリ!」「ハイネ!」
★お前ずっと驚いてるだけかーー!!!
★ちなみにシンの出番は全然覚えてない。
★1話ではシンの家族を殺したのはフリーダム扱いだったのに、PASTで連合3人組に変わったようなので、シンはフリーダム覚えてなさげです。
★でもザフト側はフリーダムのこと知っててもおかしくなさそうなのにネ!(製作側ですし)
★…まあ種だから(マジックワード)。
今週の主役は双子でした。
★以上!!

★来週はアスカガキラとミリアリアが再会のようですねー。
★…すまないミリィ、正直「別に3人でいいんだけど」と思ってしまったよ…。きっと君がいないと再会を手引きしてくれる人がいないんだよね。
★ちょうどいいからそのまま地球に降りてこないかジュール隊!!
★ミリィはともかく、お前が彼女を忘れてないってことは公式なんだぜディアッカ!(小説版より)

★ところでこの後にデス種19話@ミーアライブとか、無印38話〜とか神咲さんと一緒に見たんですが、私たちわりとディアッカに期待かけてる…とふと思いました。
★むしろ「こんなディアッカが見たい」ネタ多すぎ。
★そのくせ共通して「でもディアッカをかっこいいと思ったらなんか悔しいよね」という微妙っぷり!
★ちなみに私が見たいディアッカ・エルスマンさんは、寝起きのオールバックじゃない顔も捨てがたいですが、無印でAA内自由行動出来るようになった頃あたりで、ミリアリアに「なーミリィ、歯ブラシってどこ?」と日常生活品の場所を尋ねるディアッカです。
★そして私たち実は元祖兄貴フラガさん大好きなんじゃないかと思う。お兄ちゃんお兄ちゃん連呼です。各自の兄と重ねる気は当然ない。

★ところで種割れの種の色は各個の瞳の色だ、というのが定説のようなのですが、今週のキラ様はそれで言うとアスランと同じ目の色になるような気がするんですが。
★がんばって下さい…スタッフ…(なんか最近もうツッコミとかする気なくなってきた…)(あまりに大変そうな現場が見え隠れしすぎて…)。

 そんなこんなで、双子メインの回だったので双子小ネタにしてみた日でした。

 明日はビッグサイトまで行く予定なのですが、実は完全一般参加というものが初めてです(ビッグサイトでは)。
 大抵バイトありか、自スペース有状態かのどちらかだった…。聞いてよ買い物してお知り合いとお話しただけで帰れるのよ!! と兄に言ったら、「お前もオタク歴長かったんだな…」としみじみされました。ちょ、兄さん私まだえーと5年、ぐらい…?(長い人は相当長いので何とも言えない)
 陽があるうちにビッグサイトから出れる新鮮さを味わいたい。
 来月からは仕事が不規則なのでたぶんこれがイベント一般参加の最後かな…(プーになれば行けるよ!)
 でもたぶん世界で一番好きなアスランとカガリを描くサークルさんの新刊がクオリティの都合で落としましたということになっていて結構へこんだ。オンで描かないところだけにへこんだ…。
 最近無印を見まくっているせいか、ああ私この可哀相なアスランと前向き笑顔カガリちゃんだいすきだ…と思いました。マイナスとプラスでゼロになってるのが一番嬉しいこの子たちだ。






花の咲く頃とは(おお振り/三橋と阿部)(その他)。
2005年03月25日(金)

 狂い咲きの花を見た。








 ひらひらと白い花弁が空から落ちてきた。
 てくてくとアスファルトの上を歩いていた三橋は、思わず手のひらで受け止めたそれに目を瞬かせる。次いで、きょろきょろと周囲を見た。
「…? …??」
「上だ上、なんか落っこちてきたらまず上見ろ」
 三橋の頓珍漢な仕草は慣れっこになってきた阿部隆也はただ首を振るばかりの相棒ピッチャーに向かって、指を空に向けてみせた。
 阿部のその所作につられて喉を逸らして空を見上げた三橋の猫目が、アの形をした口と共に大き開かれる。
「さ…くら?」
「だろ。どう見ても」
 阿部の声は落ち着いていたが、三橋は同じようにはいかなかった。
 今二人が着ている同じデザインの学生服。中学時代のものとは違うそれに慣れてきたと感じるのは五月の今を過ぎてからだ。そして、三橋の記憶している桜の頃合というのは入学式がある四月であったような気がする。
 立ち止まったついでか、阿部が腕を組んで目を細めた。
「間抜けな桜だな」
「そ…うなの、かな」
「何かあって花咲かせる時期にタイミング間違えたんだろ」
 花にも本来の盛りの時期というものがある。しかし何らかの影響によってその時期を間違えてしまうことは稀にあるのだ。今二人が見上げている時期はずれの桜もそれに違いなかった。
「何か?」
 不思議そうに手のひらの白い花びらを眺めている三橋に、阿部は保護者か教師のような気分で自分の記憶を掘り起こす。
「…今年は寒すぎたとか暑すぎたとか、肥料が多いとか少ないとか、そういう要因じゃないのか? オレは専門家じゃないからよくは知らない」
「…そうなんだ」
「ちゃんとした環境でないと、花もキッチリ咲かないんだよ」
「ふー…ん」
 道端に留まりすぎて、通行中の自転車に嫌な顔をされつつも阿部は三橋を促して歩こうとはしなかった。最近この相方の手間のかかりようにも慣れた。
「お前だってそうなんだよ。わかってんのか?」
「へ?」
 いきなり自分に話題を移され、三橋が竦み上げる。いつまでもびくつく癖が抜けない彼に、阿部はこれも矯正してやりたい気持ちを強めた。
「どんな才能があろうが、周りが合ってなきゃどうにもなんないってことだ」
「う、うん」
「…わかってねぇのに頷くなっつってんだろ」
 べしりと頭をはたくと、三橋の顔が情けなく歪んだ。
「ご、ごめ…」
「謝んなくていいからそろそろわかれ。オレがその環境を作ってやるから、ともかくお前は自信つけろ。何なんだ今日のアレはァ?」
「あ、う、うんごめ…っ」
 はたいたついでに頭を掴んで揺さぶると、ぶわっと一気に三橋の目玉に涙が浮き上がってきた。それを見ると阿部の戦意も失せる。子どもだこいつは。
「…わかったら泣くな。いいか?」
「わ、わかった、阿部君」
 制服の袖口でぐしぐしと顔を拭う三橋を見届け、阿部は顎で行き先を促す。
「ほら、もう行くぞ」
「う、うん」
 気弱ならではのどもり癖も慣れればマシなほうだ。先に歩き出した阿部をすぐに追いかけてくる三橋は、つくづく性格がエースというものに似合わない。
 けれどそれでも構うものか。追いついてきた隣の相方に、阿部は強く思う。
 三橋を狂い咲きにしてきた輩を見返せるぐらい、自分が必ず立派に花を咲かせてみせる。たとえ本人にその自覚が薄くとも。
 遅く訪れた春の花から二人は並んで背を向ける。
 過ぎたその場所からは、未だ白い花が虚空を舞っていた。








************************
 何事も『初めて』というのは緊張と不安が拭い去れないものではありますが、初書きというのは実に「…ほんとにこれでいいのか」という自信の無さが出ます。口調が一人称が思考回路が。
 …本来初書きの作品は自分の手元だけに置いて、公表はしないほうがいい、絶対に。でも好きなんだ!という気持ちは誰かに言いたいこのジレンマ。
 君たちすごい好きなんだけど難しいよ三橋と阿部!!
 そんな思いが見事出ました、初おおきく振りかぶって。
 …ごめんなさい…。私の中の阿部のイメージは「お父さん」です。

 ってワケで、読みました『おおきく振りかぶって(ひぐちアサ/講談社・アフタヌーンコミックス)』。3巻終了時点までですけど。
 以前からしょっちゅう色んなところで見かけていたものの、手を出さずにいた、というよりもきっと身内友人の誰かが買うだろうなー…と待っていたのですが誰も購入しそうもなかったので自分で買いました
 人をアテにするなってことね(電柱に手を当てて)。
 とりあえず、アベミハという単語の意味がとてもよくわかりました。うん、アベミハだ。
「オレはお前がスキだよ!」なんて堂々と同性に言っちゃう男子高校生なんて、ホモ前提商業作品と同人誌以外で見たのは久々です。阿部隆也は武藤遊戯と並んでしまったよ。

 私はあんまり自分がハマったものを人にわざわざ勧めるほうではないのですが、これは素直に「読まない? 読もうよ! いいから読め!!」と押しつけたい作品です。
 あちこちで取り沙汰されるのは、されるだけの理由があったと良い意味で実感出来ました。

 ちなみに一緒に買った田中芳樹の新刊はまだ読んでません。






Time after time(デス種/アスランとキラ)
2005年03月23日(水)

 あの日の思い出は、いまどこにあるのだろう。








 離れた鐘楼から正午を伝える鐘の音が空に響き渡った。
 4月のオーブはこれから冬に向かおうとしていた。風は日々冷たさを増し、アスランの生まれ故郷である宇宙コロニーの恒常化された気候では考えられない空気が彼の身の回りを走り抜けた。
 人気のない修道院の庭は静謐そのもので、足音一つ立てるのも憚られる気がする。短い芝の下生えはところどころに野草が顔を出しているが、それも後しばらくで枯れるだろう。
 群島によって成り立つオーブは、神話によればハウメアという女神によって生まれ出た地であるという。そのために各地には女神を信仰する院が作られている。しかしオーブはさほど信仰が篤い国ではなく、無宗教だと公言する国民も少なくない。
 国の中枢を担う首長家もそれらに倣っておかしくないのだが、現在アスランが身を寄せている最大首長家はそうではなかったらしく、私財を通じていくつもの修道院を管理している。
 日ごろはその管理も代理人に一任しているが、今の当主である金髪の少女は時折それらの修道院を訪れる。様子見をいう目的もあるのだろうが、一人静かに過ごしたいという少女らしい思いもあるようで、アスランはその意図を深く尋ねたことはない。
 また俗世を離れたこの場所は、普段見えぬ存在と拘りなく対話出来る絶好の場所でもあった。
「アスラン」
 冬枯れに近づく庭をそぞろ歩いていたアスランに、やわらかな少年の声が掛けられた。
 振り返ると陽光に栗色の髪を撫でさせた幼馴染みがいつもの微笑を浮かべて立っていた。
「キラ。来てたのか」
「うん、ラクスとね。カガリは?」
「礼拝堂だ」
 今頃祈りの場で再会しているだろう少女たちを思い出し、アスランも顔を和ませる。
 かつての婚約者である桃色の髪のラクスはアスランと同じプラント育ちであり、明確な宗教信仰を持っていなかったようだがオーブの礼拝堂が持つ敬虔な雰囲気は随分気に入っているようだった。カガリとも会える場所という条件もあり、計らずも少女たちがこの場所を約束の場にしているのはアスランもキラも知っていた。
「もう冬だね」
 木立を眺め、目を細めたキラの隣でアスランは頷く。
「ああ。…俺の感覚だと、この時期は春なんじゃないかってまだ思うけどな」
「四月だもんね。プラントもそうなの?」
「あそこも四季は北半球だから」
「そっか」
 服のポケットに両手を突っ込んでいるアスランの群青色の前髪が風に揺れた。枯れた落葉が風に舞い、音を鳴らす。モノクロになろうとしている秋の庭。
「…桜、咲いたかな」
 キラは場所を言わなかったが、アスランには彼がどの地のことを言っているのかわかった。
「…わからないな。大戦で、月面も大きく攻撃されたはずだから」
 共に過ごした幼い日々。あの衛星の街には桜の木が多かった。どうやら初期の入植設計者は日系であったらしく、そのために自分の馴染み深い植物を持ち込んだようだった。
「カガリがね、見てみたいって言ってたよ」
 ふと思い出したように口を開いたキラの声音に、あたたかな笑みが混じった。妹のことを話すときよくキラはそのような口調になる。
「桜か?」
「うん。図鑑とか映像でしか見たことがないって。…余裕が出来たら輸入して育ててみたいって言ってたけど…」
「随分先だろうな」
 切なさに似た哀れみを覚えながらアスランはそう言った。
 今の彼女はそれどころではないだろう。アスハ家の当主として、オーブの最高指導者として、十七の少女には過剰としか言いようのない責任があの細い肩に掛かっている。余裕など、いつ出来るか想像もつかない。現に今のようにささやかな祈りを捧げることすら相当の時間を遣り繰りしなければならない状態なのだ。
「この近辺のどこかにあるなら、見せてあげられるんだけどね」
「そうだな」
「今更、花泥棒ぐらいねぇ?」
 笑顔で同意を求められ、アスランは呆れた視線で親友を見遣った。
「それは何か、お前は桜を見つけたら持って帰ってくる気なのか」
「いいじゃん」
「よくない。それは窃盗だ。犯罪だ」
 真面目な顔でアスランは説いたが、キラは意に介していないようだった。穏やかな雰囲気のままただ笑う。
「でも、一本ぐらいならいいんじゃない?」
「いいわけないだろう。カガリが知ったら怒るぞ」
「言わなきゃいいんだよ。頭固いなぁ、もう」
 仮定の話にはっきりと非難するアスランに辟易したのか、キラが唇を尖らせた。
 お前が柔軟すぎるところがあるんだ、とアスランは胸中で思ったが口にはせず、ただ息を吐いた。キラがこうまで言うということは、実際その場に巡り合ったら誰が止めても同じことをするに違いない。
「…そのぐらい、してあげたっていいでしょ?」
「…………」
「僕だってお兄さんなんだし、さ」
 やや視線を落とし、吐息のようにキラが言った。
「花の一本や二本、僕たちがしてきたことに比べればずっと」
「キラ」
 強い口調でアスランはその先を止めさせた。腕を伸ばし、手のひらでキラの後頭部を一瞬だけ掴む。
 指の中で硬質の髪がこすれる感触があった。
「そういうこと言うな」
 戦争をする側に回り、人を殺す罪を犯す。それに比べれば花泥棒ぐらい、とキラが思うのは仕方のないことなのかもしれない。けれど口に出し、言葉にしていいことではない。
「…うん」
 ごめん。
 ぽつりとキラが謝り、アスランは手を離す。
 二人ともわかっていた。あの戦争における自嘲も悔恨も、お互いの前でなければ言えないことがある。どれだけ心寄せる存在であっても、祈りの庭が似合う少女たちには聞かせられない。
「もし花泥棒なんてするなら、カガリには黙っておけよ」
「…いいの?」
「いいも何も、どうせお前やめたりしないだろ」
 強くなってきた風に乱れた前髪を押さえ、諦観を垣間見せたアスランにキラが笑った。
「さすが、わかってるね」
「長い付き合いだからな」
「じゃあ、そのときにはちゃんと誘うから、安心して」
「…勝手にしろ」
 こうしていつも共犯にされてきた幼い頃を思い出したが、アスランは明確に拒絶することはしなかった。
 緑の目に映る秋の庭。もうじき冬は来ても、南国のオーブにはそう深刻な寒冷問題にはならない。それでも、アスランが想う少女には未だ冬が続いたままだ。
 花一本でその心の慰めになるのなら、と願う彼女の兄の思い。
「…ちゃんと、見せてやれたらいいのにな」
 世界中のどこでも、行きたい場所に、望む人に、大切な人たちが自由に生きられる場所を。
 それはアスランにとって、キラと過ごしたあの月の街の記憶に重なる。
 長い冬の時代が終わり、後顧の憂いなく、少女がオーブの国母と呼ばれる時代が早く訪れればいい。
 緑の双眸に祈りを湛えたアスランの願いは風にさらわれ、傍らの親友の耳にしか届かなかった。








************************
 …割と捏造しすぎて最初の数行からしてすみません。オーブの国家形態とか植生とか民族風習とかそのへ、ん、…どうなんですかねー…(不明瞭のまま捏造)。

 倉木麻衣のTime after timeが割と私の中のキラとアスランのイメージなのです(ああ笑ってくれ…)。
 それで桜ネタはこの時期でないと書けないのでー、ということだったのですが、オーブの3〜4月って秋でした、よ! …という。南半球め。
 そして歌詞イメージなので曲タイトルとは全然合ってない気がする。

 今日用事があって本校舎のほうへ行ったので、講堂だけじゃなくて付近の教会やら礼拝堂やらぐるぐる見て回って来ました。異国情緒と高級住宅地っぷりに、自分が異分子の気分を力強く感じました。
 日本の寺社もあれはあれで静謐な雰囲気に満ちてますが、キリスト教はさらに馴染みがないだけに見てると色々面白いです(カトリックの人たちに怒られそうだ…)。
 …その前に本校舎の門が見つからなくて迷ったけどね。

<遠回しな私信>
 キラ様降臨@BGMミーティア、のシーンは無印の35話『舞い降りる剣』ですよー。ビデオだと9巻です。
 極端に言うと仲間の絶体絶命状態に天空から舞い降りる主人公、のシーンです。その前とそれ以降の主人公の悟りっぷりというか成長著しさというか、そのへんが相俟って『キラ様降臨』。
 個人的にはその直後の「連合、ザフト両軍に伝えます!」という一言に保志グッジョブ…!! と親指立てます。
 …一度でいいからアスランもあんな降臨してくれたら、とひっそり願っております。
</遠回しな私信>

 金出して借りたからには元を取る、ということで延々と種無印ビデオ9〜12巻がBGVとしてエンドレスです。アス→双子がこのへんが一番見られて楽しい(わかりやすいひと!)
 そしてフレイはこの頃の不安げな顔が一番可愛い(……)。
 旅行から帰った兄に「お前いっそDVDボックス買ってしまえ俺んとこでお前の名で注文しといてやる!」と言われました。やめて下さい兄上。赤貧の子に…!
 さー後は13巻でキラの「カガリを頼む!」発言をもう一回見るのだ(愛が局地的に偏りすぎ)。






三年めの春(テニ王/手塚と不二)。
2005年03月17日(木)

 世界のどこかで花を見る。








 道路脇の電灯からの明かりが細い道を照らしていた。
 手塚の数歩前を体重を感じさせない軽やかな足取りで不二が歩いている。調子が上がってきたのか、早足になりがちな不二の白いシャツが夜目にほわりと浮いて見えた。
「…全く、お前も何年経っても勝手なところがあるな」
 大分長い付き合いとなって、手塚もそろそろ不二の自由気ままなところを把握していたが、何事かに巻き込まれるたびに嘆息したくなる気持ちは同じだ。
 不二がその癖のない髪を揺らして振り返る。いつもと同じやわらかな笑顔だった。
「そうかな?」
「そうだ。あれほど夜八時以降に来るならまず電話をしろと言っているのに、なぜ守らない」
「だってわざわざ電話のために五分使うよりも、歩き出したほうが早いし」
 時間の節約だよ、と3月にしては薄着の不二に手塚は口端を曲げ、さらに目を細めた。
「それから、ちゃんと前を向いて歩け。転ぶ」
「はいはい」
 おざなりな返事だったが、言われた通り不二は前を向く。その若干歩みが遅くなった隙に手塚はその隣に追いついた。
 夜風は早春の肌寒さを感じさせ、冬物のジャケットを着た手塚の格好で丁度良いぐらいだ。それに引き換え長袖のTシャツの上に一枚引っ掛けただけの不二の体感温度は相応であろうに、彼は平然とした顔で歩いている。
「寒くないのか」
「うん。大丈夫」
 言葉の上では平気そうだが、手塚はやはり先ほど家を出るときに何か一枚持ってくればよかったと後悔した。これまで夜八時過ぎに突然不二がやって来るのは幾度もあったが、そのたびにいつも慌てる。
 そんな手塚が慣れることのない夜半の訪問者は、玄関先で笑いながら夜の散歩に誘うのだ。
 若い女性ならともかく、男の二人連れが夜中歩き回ったところで家族もさして心配しないが、意味なくうろついては逆に不審人物扱いになりかねない。そもそも昼型の手塚にとって夜中の活動はどうも苦手だった。
「今日はどこに行くんだ」
「公園」
「公園?」
「そう。そろそろ桜が咲く頃かなーって」
 手塚が隣の不二のほうを見ると、身長差によって彼の伏せがちな睫毛がよく見えた。繊細そうな面差しをしているくせに中身は大雑把なところがある、と以前言ったらただ笑い返されたことを思い出す。
『君もひとのこと言えないと思うよ?』
 失礼なことを言う、確か自分はそのように答えたことを手塚は記憶している。あれはもう随分前のことだ。
 あのときも春だった。
「お前は、毎年この時期になると夜桜を見たがるな」
 そして毎年連れ出されている、もしくは付き合わされていることを手塚は暗にほのめかしたつもりだが、不二は軽く声を立てて笑った。
「まあ、好きだからね。夜桜のほうが。神秘的というか、あやしげで」
「昼のほうがよく見えるんじゃないか?」
「そのよく見えないところが好きなんだよ」
 よくわからない、という気持ちを込めて手塚が押し黙ると、不二はその空気を敏感に悟り口を開く。
「昼だと、周辺の余計なものも見えるでしょ? あれがあんまり好きじゃないんだ。花は花だけ見えてればいい。桜は白っぽいから、夜なら花だけが見える。そこがいいんだ」
「…なるほど」
 実に不二らしい、あやうさを感じさせる考え方だと手塚は思った。
 幽玄という印象を相対する者に抱かせる不二は、そのまま春の宵の空気がよく似合う。物柔らかな風と、ほんの少し寂しげな夜の藍。
「それだけを思っていられる時間、ってなかなかないと思わない?」
 ふと見上げられ、手塚は言われた内容を心で考える。
 確かにどんなものであっても、それだけを心に占めていられる時間はあまりない。何を目の前に置いても、日常や現実で生きている以上あらゆることが必ず脳裏に存在する。自分たちにとってその例外はせいぜいテニスぐらいだろう。
「…そうだな」
 認めた自分が笑おうとしたことに手塚は気付いた。
 花は花だけ見ていられればいい。そう言い切る不二のわがままさに、強い意志に、手塚はいつも自分にないものを彼の中に見る。頑なな手塚を、その笑顔と掴んだ手でどこかに連れ出す。
「ね? だから、夜遊びもいいもんでしょ」
「いや、それに関しては違う。夜はちゃんと寝るものだ」
 夜半の誘いを正当化しようとした不二に、手塚はそれだけはとしっかり釘を刺す。ここでそれを許せば、この先この笑顔にどんな騙しを受けるかわからなくなる。
「そっちこそ、何年経っても頑固だね」
 はは、と笑った不二の頬を強い風が撫ぜ、彼が一瞬眉間に皺を寄せたのを手塚は見逃さなかった。
「寒いんじゃないのか?」
「寒くないよ」
 早すぎる返事が不二の意地であることぐらい手塚にもわかる。
 彼はためいきをつく前に、不二の肘のあたりを掴んで今きた方へ向かせた。
「手塚?」
「一度戻るぞ。何か貸してやるから、それを着たらもう一度行けばいい」
「えぇ? 面倒だからいいよ」
「駄目だ」
 どうせ今自分のものを貸すと言っても、不二に素直に受け取るほどの可愛げはない。
 問答をするのも億劫で、手塚は先に歩き出すと不服そうに立ち止まっている不二を肩越しに見る。
「行くぞ」
「…………」
 ややあって、小走りに追いついてくる頭ひとつ低い影は、手塚に向かってわざとらしく息を吐いた。
「横暴じゃないかな、そういうの」
「自己管理しようとしないのはどっちだ?」
「そうだけ、ど」
 悪いのはどちらだ、と手塚は言いたかったが、口を尖らせてつまらなそうな顔をしている不二の顔を見て言うのは止めた。
 その代わりに、彼は仕方なく譲歩することを決める。
「明日休みの分だけ今晩は付き合ってやるから、少しは言うことを聞け」
「わりと聞いてると思うんだけど、なんだかんだで」
「その前が問題なんだ、その前が」
 口が減らない相手を相手にし、湿った春の宵に手塚の黒髪が揺れる。
 どこからか香る花の匂いの中、二つの影が夜の世界に並んでいた。








************************
 …昔書いてた手塚と不二ってこういうのだったなー…という、私の三年目の本気(…小ネタで本気?)。思い返せばテニス離れをしたのはそのぐらいの時期でした。

 ところで先日、友人の林さんとこういうやりとりをしたんです。
要約:
「テニスの塚不二の新作書いて下さい」
「塚不二イラスト描いてくれたらいいよ」
 長い付き合いって遠慮も何もないですネ!
 こっちも書くからそっちも寄越せ。ハイこれ基本。ギブアンドテイク。友情も突き抜けるとお互いに何系が得意かとかわかりすぎてて、ねだることに躊躇しません。
 というわけで。
 私もう書いたからそっちも約束忘れちゃイヤよー!!(私信)
 …ところでもしやとは思いますが、私に十人中十人がまごうことなき塚不二だと認めるようなものを求めてない、よね…? ベッタベタなホ○を私に求められても無理、です!(力いっぱい)
 塚不二と言いつつ、路線としてはどこまでも手塚&不二。この二人はいつでも大好きだ。青学万歳。

 そうそう、本日でサイト3周年です。ありがとうございます。
 わりとかなり早く過ぎたような気もしますが、3周年です。でも書いたのはテニスです。…何この最近の状況を示すみたいな小ネタ。

 つい先日改めて思い知らされたのですが、私の好きカップリングというのは大概わかりやすいです。

 堅物真面目系、ヘタレ属性、どこか鈍感、エリート系
             ×
 可愛い顔で男前、意地張り子、一部に弱点、強気で強情

 私的黄金公式です。
 どっちもプライド高い同士だと尚よし。上記公式の条件のうち2つ以上ある同士が、この公式通りだと認定されます。
 それで当てはまるのが、笛で言うミズユキであり三渋であり、種のアスカガであり、テニスの塚不二です(三渋はちょっと変則的かもしれませんが)。
 そして友人たちから力一杯この公式の存在を認定して頂きました。
 その前に口をそろえて「塚不二はどこまでも君の好みそのまんまだ」と言われました。うん、その通り。真面目に考えるほどこの二人ほど理想的な組み合わせを知らない(注:カップリングではなく組み合わせ)。
 数年間離れて再び塚不二ゾーンに囚われつつある今日このごろ。
 久々にあの発売当初物議を醸した10.5巻を読みました。…手塚が左利きであることすら忘れていた私に、出戻りをする資格はあるでしょうか。
 こうなったきっかけは何でしょう。
 オフィシャルって偉大。

 そうそう、やっと愛機太郎が戻って参りました! 思ったより早かったですが思ったよりお金かかりました。言えません。ちょっと言えない金額です。わ、わたし春コミどうやって行こう…。
 中身は完全に無事でしたので、出し惜しみせず出せるものを全部上げてみました。でも微妙ラインばっか…。

 何はともあれ3周年です(何なの今日の日記…)。
 今更ですが3年間何やってたかを一番よく表すものとして、7月渋沢月間のログなんてものをトップに出してみました。お題はすべて渋沢と○○。小ネタ日記最多数キャラ、渋沢克朗。
 そりゃー森サイトって言われる、ねー。
 そして今は何サイトだ(文章サイトです…)。

 まぎれもなく管理人の萌えと勢いが先行し、別ジャンルに興味を寄せても潔く閉鎖してやり直す覚悟もないヘタレサイトではありますが、四年目も仲良くして下さると嬉しい、です…(自信なさげ)。三年間ありがとうございました(過去形にするな)。
 いやでも本当に、ありがとうございます、です。
 やっぱりですね、自分が書いたものを好いて下さる、というのは本当に嬉しいんですよ。二次でもオリジナルでもわざわざ限りある時間を私のサイトに割いて下さっているだけで嬉しいのに、メールまで下さるとむしろ大事な時間をこのサイトなぞのために…と心から有り難く思います。
 技量の点はまあ相変わらずアレなんですが(精進したい…)一つ一つこれからも私なりに書いていきたい、と思います。
 今も昔も私が目指すのは「やさしい文章」なので、読み易く、読後が心やさしくなれるようなサイトを目指したいです。






午後三時の決闘(デス種/キラとアスラン)。
2005年03月12日(土)

 アークエンジェル/食堂/差し向かいの親友同士。








 ある日、キラ・ヤマトがのたまった。
「僕さ、アスランにはすっごく感謝してるんだよね」
 向かいの親友から輝きに満ちた笑顔を向けられ、アスラン・ザラは咄嗟に二の句を告げなかった。
 そうかとうなずく事も、それはなぜだと問う事もアスランの第六感がやめろと激しく訴えていた。口元を上げ紫の目を実に楽しげに細めたキラの顔にロクなことはなかったからだ。
 どうこの場をやり過ごすべきか。姑息な考えが浮かばないか悩みかけたアスランの右手の中で、安物のコーヒーカップがじわりと熱を伝えてくる。
 合流したばかりのアークエンジェルは以前と同じ容貌をしていたが、内部は少しずつ変化があった。たとえば艦内どこでもコーヒーが飲める。
 返答に困窮する群青の髪をした親友に、キラは畳み掛ける。
「なんでだと思う?」
 何でだって構わないがとりあえずその笑顔をやめろ。
 さりげなさを装って親友の顔から視線を逸らしつつ、アスランは赤い軍服ごとこっそり椅子をテーブルから離した。
 聞きたくない。ものすごく聞きたくない。
「アースーラーン?」
「…何だ、キラ」
 この友に口先で負けるのは死んでも嫌だ。空いた左手をテーブルの下でアスランは硬く握る。
 薄々わかっているくせに白を切る彼に、キラは笑うのをやめわざとらしく息を吐いた。弱々しげに振られた首のせいで、彼の栗色の髪がさらさらと揺れる。
「やだなぁ、感謝してるんだってば、ほんとに」
「…………」
 にっこり。そんな言葉を顔の横に並べたら今のキラの表情になる。
 栗色の髪の親友は、おもむろにコーヒーカップごとアスランの手を両手で握った。
「ありがとう! 僕に夢を見せてくれて!!」
「…………」
「普通に生きてたら、花嫁強奪なんてロマン一生味わえなかったよ!!」
 ありがとう友よ!!
 きらめく紫の双眸は、例の件の背景ではなく行動に重きを置いてのものだった。
 揺らされたはずみにアスランの手の甲にこぼれたコーヒーを見つめつつ、アスランはいっそ皮肉で言ってくれたほうが百倍もマシだと本気でそう思う。
 指輪まで渡した想い人が別の男と結婚する最中に攫うというのは、相手との合意さえあればそれはもう痛快爽快であり、男の浪漫と夢だ。しかしそれをちょっとした時間軸のすれ違いから親友に取って代わられた彼にとっては、人生の後悔エピソードの筆頭である。
「それ、は…」
 よかったな、と言うぐらいなら舌噛んで死んでやる。
 一発殴りたい気持ちをこらえ、アスランは口端をひきつらせる。
 何より癪なのは、あのときキラがいなければ自分の恋人は別の男の妻になっていただろう事実だ。彼女にはそうせざるを得ない情勢であり、離れていた自分にも非があるとアスランは公正な結論を出していた。つまるところ自分は彼女の中で国家に負けたのかという部分もあったが、惚れた弱みと最初からあの国を捨てる彼女など有り得ないだけに納得もしている。
 それらを放り投げて彼女を式場から攫ってくれた親友は自分たちの恩人であり、感謝すべきなのだがアスランのプライドとしてこの状態でそれだけは言いたくない。
 なぜ俺はあのときあそこにいなかった。アスラン・ザラ、痛恨の極みである。
「まあ事情はアレとかソレとかだったけどさ、滅多に出来ない体験だよね!」
「…ああ、そうだな」
 それだけは認めるよりほかない。笑顔の親友に手を握られたまま、アスランは渋々うなずいた。
「つまり、これで僕はアスランに勝ち点1だよね!」
「…………は?」
「だってそうでしょ? アスランには『出来なかった』ことを、僕は『出来た』んだから」
 楽しそうな顔のまま、キラはごく当たり前のように説いた。
 思わず手を振り解こうとしたアスランをキラは相手の予想以上の力を込めて抗う。しかし表情は笑顔だ。
「ね? そうでしょ? 僕の勝ちだよね?」
 アスランの想い人、それはそのままキラにとっては双子のきょうだいだ。その彼女の本来の意に染まぬ結婚問題で勝敗をつけるとは。
 思わずアスランの眉間が本気で寄せられた。
「勝ちも負けもないだろう。俺でもお前でも、ぶち壊しに出来たらそれでよかった問題のはずだ」
「何言ってるのさ。全然知らなかったくせに」
 アスランの胸に何かがめり込んだ。
 事実であるだけに何より痛い。テーブルに突っ伏して泣きたい気分とはこういうときを言うのだろう。彼は心のままキラから視線を遠ざけた。
「ほら、だから僕の完封勝ち。ね?」
 どうやらアスランが認めるまで離す気がないらしい手を見つめつつ、アスランは押し黙った。
 認めたくないのは決して自分が狭量だからではない。相手が幼馴染であるだけだ。キラにだけは負けたくない。それは長年そばにいた分だけある、小さい頃からの競争心だ。
「…別に俺だって負けたわけじゃない」
「え、どこが」
「たまたまお前が先に勝点を取っただけだ!」
 苦しい言い訳だったが、顔を上げ睨み返した緑の目は意地に燃えていた。
 キラの手の中、アスランの右手がさらにその中のコーヒーカップを、渾身の力を込めて握る。
「残念でしたー。あれは一回切りだもんね」
「誰がそんなの決めたんだ」
「僕」
「勝手に決めるな。勝負は全部終わってから判定が出るものだ」
「セコイ判定勝ちなんて狙わないでよ。みみっちいなぁ」
「お前こそ昔からそうだ! いつもいつもそうやって勝手に」
「アスランが細かいところまでぐちぐち言うからだよ!」
「お前が大雑把すぎるんだ!」
 食堂のテーブルを挟んで、紫と緑の二対の瞳が対峙する。
 一際強くにらみ合ったかと思うと、同時にコーヒーカップから手を引いた。一拍置いて、やはり同時に立ち上がり、舌が動く。
「ともかく! 今回は僕の勝ちだからね!」
「何が勝ちだ! 勝手に決めるな!」
「だって間に合ったのは僕だよ!? どう見ても勝ちでしょ!」
「条件が五分じゃない! 双方が同じ状況下でこそ勝負になるはずだ!」
「知らないよそんなの! 同じになるの待ってらんないし!」
「待てよ勝負だとか言うなら!」
「何さ、ちょっと自分のほうが身長高いからって昔からそうやって偉そうにさー!」
「お前が頼りないからだ!」
「言っとくけど、僕のほうが誕生日早いんだからね!」
「精神年齢の問題だバカ!」
「バカぁ? うっわ、アスランのくせにバカとか言う!?」
「俺のくせにとはどういう意味だバカキラ!」
「あー!! 二回も言うし!! 間に合わなかった負け組のくせに!」
「うるさいバカ!」
「負け組アスラン!」

「…お前らは一体いくつの子どもだ」

 息が切れたほんの少しの間に、あきれ果てた涼やかな声が割り込んだ。
 同時に視線を向けた少年と青年の過渡期にある二人の目に、鮮やかな金髪が飛び込んでくる。なめらかな肌と強い輝きの金褐色の双眸。
「「カガリ」」
 同時に言ってしまい、親友二人で舌打ちしながら軽く睨み合う。
「廊下まで聞こえてたぞ。恥ずかしい真似するなよ、いい歳して」
「僕が勝ったのに、アスランが認めたがらないからだよ」
「だからあれは勝負にならないって言ってるだろう!」
「じゃあどうしろって!」
「もう一回仕切りなおせ! そんなに自信があるならもう一度勝ってから言え!」
「……あ、そっか」
 思いきり怪訝そうにしている彼女を置き去りに、男二人で視線だけの合意ののち頷き合う。
 そして彼らは互いのかたわらに立つ問題の彼女を見る。
「カガリ」
「あのさ」
 ぽん、と両肩にそれぞれ手を置いた彼らは、極端なレベルでしか物事を考えていなかった。要は自分たちの勝負問題、幼い頃の砂場遊びでどれだけ高い山を作れるかの延長戦上にあるものだ。
 自分勝手な大真面目さで見つめてくる片方恋人、片方弟に、カガリは心底から不思議そうに目を瞬かせる。
「え?」
「突然で悪いんだけど、お願いがあるんだ」
 同時スタートでいかに早く標的を掻っ攫えるか。
 あのときを同じ状況が必要だった。


「「もう一回結婚式やって欲しいんだけど」」


 …きっかり五秒後、金髪少女の怒声だけが響き渡り、翌日には揃いの殴られた痕を頬に残した幼馴染みが艦内で発見された。








************************
 アスランをぶん殴るキラもいいけど、感謝するキラはあんまり見ないな、と思いました。
 この場合お兄ちゃんは妹の結婚がどうとかではなく、自分の浪漫だけしか考えてません。元護衛は単純に自分が弟まがいに見てきた相手に負けるのが悔しいだけです。
 当然、当事者の姫様にしてみれば「ひとの結婚を勝負のネタにするなアホコンビがーッ!!」と怒るだろうな、と。
 …それだけ。
 アホなのは私の頭です。すいません…。
 普通は、そりゃ浪漫ではあるけどなんで僕がやらなきゃいけないかよーく考えてごらんアスラン? 的なキラと、…わかってる、ぐらいしか言えない落ち込みっ子アスラン、なのでしょう、な…。
 …だってそういうのは他所様でおなかいっぱいになるんだもの…。

 なんであのアニメ、兄妹だか姉弟だかで『卒業』やったんだろう…(ふと我に返る)。
 何となく「アスラン以外との式は今後全部僕が攫いに行くからね?」とかカガリに笑顔で脅し言っちゃうキラ様も楽しいかもしれない(…単にアスカガ前提の双子が大好きなだけでしょ…)。

 今日のデス種〜恋に落ちたふたり〜(…としか見えなかった)(何が色々すごかった)(え、そんな見るからに直球勝負なの監督!)は、また後か明日あたり感想書きます…。私の感想は中身の四分の一はシン考察みたいなものですけど!(最近のが…)
 今回色々アスカガと故意にかぶせたシンステでした。
 君は俺が守る、は決め台詞扱いなんですかね。ザラちっとも守れてないけど。
 今更なんでしょうが、茶髪っぽく見えるシンの横顔があれーキラくんいつの間にー?みたいな気持ちになりました。シンの髪が徐々に伸びているように見えるのは気のせいでしょうか。毛質が柔らかそうねあの子。
 気付いたらシン大好きっ子ですか私は(ガキで手間がかかりそうなところが大好きだ!)

 そういえば、またしてもFF10-2はじめました。
 といっても過去データをぷちぷちやっているだけですけど。アビリティ全部コンプリートするためにずーっと戦闘だけしてます。本家ユウナで。
 …やっぱ私にとっては、ユウナの名はあの子だけなんです、ね…。偶然にしてはあまりにも微妙な同じ名前のキャラがどっかにいますけど(気に食わない最大の理由が名前という微妙っぷり)。
 そして森田声にアウルも重ならない。ティーダというよりむしろシューインか…。
 この勢いのまま10もまたやろうかと考え中。歴代FFの中であれが一番主人公と物語が好きだ。






ネオメロドラマティック(デス種/シンとカガリ)
2005年03月06日(日)

 人がどうしてと呟く瞬間。








 彼のところに下ったミッションは『他国の要人を無傷で救出せよ』という割にセオリーなものだった。
 現場となるプラントの某国大使館に押し入ったテロリストたちの制圧は別部隊が中心となり、あくまでもシン・アスカという一人の軍人に課せられたのは『要人救出』である。平たく言えば、他方がかき回している隙に目的人物を掻っ攫え、と言われたに過ぎない。
 軍に属する人間が己に下された命令を拒否する権利はない。彼は表向きは粛々とその意に従ったが、内心は不平を鳴らせるものなら大声で怒鳴りたかった。
 現場に突入してからもその気持ちにあまり変わりはない。
「…まさかお前が来るとはな」
 原因は、シンの背後でしみじみ呟いている妙齢の金髪女性のおかげだ。
「余計な声出さないで下さい。そのぐらいわかるんじゃないですか? アスハ代表」
 自分の天敵か何かに対するようにぶすくれた声を出す年下の少年に、金髪の若き国家元首は小さく苦笑する。
「それはすまないな」
 物陰に潜み、一気に脱出するタイミングを計っている間にシンは脳裏に叩き込んでいる大使館の見取り図を空上に展開させる。表通りに面している場所では突入部隊とテロリストが戦闘に入っている。制圧されるのを待つか、それとも。
「さっさと逃げたほうがいいだろうな」
 片膝を大理石の上に付き、判断に迷ったシンに隣でしゃがんでいる金髪女性がさらりと口を出した。
 光沢のある裾の長いドレス、優雅に纏め上げられた髪と首元と耳たぶを彩る輝石。カガリ・ユラ・アスハという名の彼女はこの大使館で人質となっていた人間の中でもトップクラスの要人だった。
 そのためにわざわざ彼女だけが個室に拘束されており、彼女のためだけにシンら別働隊が組織されたのだが、命令でなければシンはさっさとこの任務から下りていた。
「黙ってて下さいって言ったでしょう」
「ああすまないな。だが、いつまでこうしている気だ? どうせまたどこかに支援部隊がいるんだろう。だったら今のうちにここを離れたほうが得策だと思うが」
「…すいませんね、俺一人しかいないもんで」
 一人でナチュラルの女性を庇ってそこまでたどり着くか、それを模索していたシンは若干鼻白む。彼女の意見は自分勝手だ。少しはこちらの苦労も考えて欲しい。
「一人じゃないだろう、二人だ」
「は?」
「オーブの姫が銃一つ扱えないと思っているか? 予備があるなら寄越せ。どうせどこぞの隊長に余分に持たされているだろ?」
「…………………」
 ずいとドレスと同じ色の手袋をした手を差し出され、シンはしばし呆然とその手を見る。
 確かに予備は軍服の隠しにもう一つある。今シンが持っている支給されたものより小型のそれは、作戦会議の折に指揮を執る隊長から渡されたものだ。
 予備だとしても同型のほうがいいと主張したシンに、彼はかすかに息を吐き手を振って「これでいい」と言ったのだ。あのときの緑の双眸。アスラン・ザラの意図。
「あの人は…ぁッ」
 自分より少し上の隊長を思い出し、シンは頭の中の温度が一瞬で上がった。
 救出相手の戦力まであてにしてどうする…!?
「あいつは結構ヤな奴だぞ」
 またシンの考えを読んだのか、カガリは肩をすくめた。それをきっと紅の目で睨みながらシンは口を開く。
「そんなんだったら、なんで自分で行かないんですかあの人はッ」
「さあな。大方、部下の経験値になるから自分は引っ込もうとか思ったんじゃないか?」
「知りませんよ、そんなのっ。ああもう、どうせ外で眉間に皺寄せてイライラしてるくせに!」
「ついでに腕組みをしてな。わかりやすいだろ」
 教えるようにシンの顔の前で指を一本立てるカガリにも、シンは脱力しかけた。仮にも生命の危機という状況だというのに、この落ち着きは何だ。
「で、早くしないと痺れを切らしてその隊長殿が突っ込んでくるぞ」
「はい?」
 もうわけがわからない。このペースに乗らないよう己を叱咤し、シンは金髪の彼女にうろんげな目を向けた。
「あいつは落ち着いているようで火がついたら即効だ。しかも一度潰すと決めたら徹底的に叩くぞ」
「………………」
 部下歴数ヶ月の自分と、恋人歴数年の彼女。どちらの言を信じるかといえば、シンとて後者を選ぶ。
「あいつが出張ると色々面倒だからな。私もザフトと縁があると今知られるのはまずい」
「…さよーですか」
 要はこれしか道はないらしい。仕方なくシンは左手を軍服の合わせに突っ込み、乱暴に予備の弾薬と共にカガリに渡した。
「…使い方、わかるんですよね?」
「あんまり馬鹿にするな」
 不満げに鼻を鳴らしたカガリは右手の手袋を歯を使って外している。すでにその所作が淑女のそれではない。
 オーブのアスハといえば最大首長家であり、その家の娘といえば生まれついての姫君、いわゆるお嬢様だと思っていたかつての自分に、シンは心からため息をついた。
「使い方がわかっても、撃てなきゃ意味ないですからね」
 皮肉を込めて言ったはずの言葉は、相手の強いうなずきで返された。
「身を守る上で割り切らなければならないこともあるからな」
「…出来たら撃たないで下さい」
「何でだ」
「……俺の立場がありません」
 これでもシンは軍人でミッション中で、彼女は現在のシンにとって嫌でも『守らなければならない相手』なのだ。その相手に銃撃戦でもやらせて怪我でもさせたら、後で例の隊長殿からどれだけしつこい叱責を食らうことか。
 けれど金髪で年上の彼女はあけっぴろに笑った。
「そんなこと気にしなくていいんじゃないか? 緊急事態なんだから」
「あなたはよくても俺は気にするんです」
「そうか。でも、万が一のときはちゃんと助けてやるから」
 な、と近い距離で笑われ、シンは現状を忘れて片手の甲で額を押さえた。一体このひとは自分の立場とかそういうものをどこに置いて喋っているのだろう。
 しかしこれで失敗して帰ろうものなら、やはりあの隊長がおそろしい。自分を見失わない決意を心で呟き、シンは顔を上げた。
「いいですか? 守るのは俺です。あなたはともかくここから出ることだけを考えて下さい。俺はそのために来たんです」
「…………」
「ここでは俺の指示に従って下さい。…お願いですから」
 眉間の辺りに力を入れながら言ったシンの言葉は、どこか尻すぼみになった。
 カガリはそんな黒髪の少年の顔をじっと見つめ、ややあって小さく笑む。
「…ああ、わかった。じゃあよろしく頼む」
 その金褐色の目には、シンに対する確かな信頼がある。それはきっとシンの上官に付随するゆえだとわかっていたが、シンは彼女が自分の言を受け入れてくれたことに安堵した。
 過去の出来事のために、シンは未だ彼女と彼女に連なる家柄にあまり良い思いを抱いていない。それでも彼女は、シンを恋人の部下という立場だけで信じてくれるのだろう。
 傲慢なまでに馬鹿正直なお姫様だ。
 考察はそれで切り上げ、シンは一つ息を吸う。
「行きますよ」
 無傷で届けてやろうじゃないか、あの野郎。
 上官の目の前では決して言えない言葉で誓いを立てると、彼の目の前のお姫様も呼応したように不敵な笑みをひらめかせた。








*************************
 ノリだけで書いたような小ネタですいません…。一体いつどこなのこれ。
 ギャグというよりコメディのノリのつもりです。多分。そしてシンカガではありません。ただの組み合わせ。

 シンとカガリさんはどっちも武闘派だと思うので、救出@銃撃戦とかだったりするなら、ぎゃーぎゃー喧嘩しながら連携見せてくれそうかな、と(何割が妄想ですか)。
 途中カガリが前に出ると「ちょ、何俺より前出てんですかあなたは!」と慌てるシンとかいればいい。うっかり擦り傷とか作ったカガリさん見て「うわこれで俺怒られるの確定かよ!」とか内心で頭抱えるのもよろしい(何が)。
 そしてアスランは蚊帳の外確定で。

 ポルノの新曲がタイトルといい曲調といい、非常にこういうイメージだったので思いついたネタでした(わかりにくいな…)。




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