次の停車駅が近づくと、君は床に置いた鞄に手を伸ばした。その時髪に桜の花びらが付いているのを見つけたんだよ。素早く姿勢を戻した君はとても背が高く、さわやかな青年そのものだった。停車するまでの数秒間、どのように声をかけようかととても迷ったのだけど、結局何も言えなかった。背の高い君の頭についている花びらを次に見つけるのは誰だろうか。
君は今日これから取引先に行って、頭を下げるかもしれない。その時花びらを見つけた相手はとても微笑ましい気持ちになって、優しく接してくれるかも知れない。または、ほんわりと優しい黄昏時に君に見合った素敵なレディと知り合えるきっかけになるかもしれない。
そのまま一人暮らしの部屋へ戻って、知らないうちにどこかへ行ってしまうかもしれないし、風がどこかへ吹き飛ばしてしまうかもしれない。だけど、思ったんだ。こんなおばあさんが声をかけるより、もっともっといいことが君にありますようにと。
見ず知らずの人の幸せを祈りたくなる季節。
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