VITA HOMOSEXUALIS
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2018年06月27日(水) キス

 四月まで続く降雪を我慢しきれないやうに、雪の下では春の浮動するものが生き初めるころは、わけても悩ましい力がからだに湧いてくるのであつた。私だち少年らは、おたがひに女の子のやうな深い情愛をかんじ合つて、かく詩や俳句の対象はいつもそれらの友に於て選んだ。美しい少年の友だちらは、ある時は、詩のことを話したりして、熱い握手や接吻をしたり、蒼い日暮の飽くことをしらない散歩をしたりしてゐた。

 室生犀星『抒情小曲集』

 
 深い関係がキスから始まるのはよくあることである。
 というか、キスもせずにいきなり性器の接触に向かうことは少ないだろう。
 もっとも、性を商売にする男性はそうではないかもしれない。
 性器は許しても、キスは本当に好きな人のためにとっておく・・・これはあり得ることである。

 好きだなと思う相手がいて、話が深い方に進みそうになって、軽く手なども触れているとき、「このままキスができるかな、できないかな」と迷うのは一種のスリルである。そっと口づけをして拒絶されたらどうしようと思い悩むのもこういうときである。

 私の経験では、口と口ではない場合、つまり手の甲にそっとキスしたり、頬に口づけをしたりすることは、たとえノンケといえども、それほど抵抗を感じないようである。

 口と口は、相手がノンケならば、拒絶されることが多い。

 相手にゲイの気があると、雰囲気にもよるが、拒絶されることはあまりない。口と口の接合を機会に深い関係に進むことも多い。私とI君の関係もそうやって始まった。夕暮れどき、砂浜に突き出した防波堤の上で、かなりの風に吹かれながら、私たちは文学の話をしていた。

 私には、フェミニンな印象の彼を抱きたいという欲望がふつふつと沸き起こっていたが、初対面ではあるし、それを理性で抑えつけるのに苦労していた。

 だが、とうとう我慢できなくなった。話が途切れたのをしおに、私は彼の肩を抱き寄せ、いきなり口づけをした。彼は一瞬驚いたようだったが、それを受け容れた。私は舌を入れた。しばらく舌と舌がからみあった。

 ほんのわずかな接合の後に、私たちは体を離した。彼の頬は桃色に上気していた。それを見るとまた欲情が湧いた。その晩私たちはホテルで一夜を過ごした。

 考えてみると、口どうしをくっつけ、舌をからめた機会はそれほど多くはない。相手が年上だとなかなかそうしみくい。夜の公園のようなところで性器をいじるときにもキスはしにくい。

 そうなるとやはり、気持ちが傾くということがキスの第一歩なのだ。


aqua |MAIL

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