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■ Final:マヒロ
止むかと思えた雨が、また激しくなった。雫がぽたりぽたり、と落ちていく。髪を伝って、顎を伝って。近すぎてぼやけた視界の中に、目を閉じたシュウスケがいて。寒いのに、寒くない。でも震える。背中に回った腕が、きつく抱き締める。痛いとも苦しいとも思わなかった。現実的じゃない。でも現実な証拠に、降りしきる雨は冷たくて、少しずつでも確実に体から温度を奪っていった。
眩暈がしそう。一人なら、きっと倒れてる。息が苦しいのはキスのせいじゃなくて。心臓が馬鹿になったみたいに、煩いから。
唇が離れ、腕が解かれる。触れていた時間は長いようにも短いようにも思えたけれど、離れてしまえば一瞬のことのように思えた。「シュウ…」顔を上げようとすれば、上から頭を押さえられた。
「…ちょっ」
強制的に俯かされた視界から見えるのは、濡れて光るアスファルトと、自分達の靴だけ。靴の中まで雨が染み込んでしまっている。気持ち悪い。
不意に手を離され、シュウスケが背中を向ける。道路に落とした傘を拾い上げ手渡される。無言。相手がどんな顔をしているのか見てみたかったけれど、また頭を押さえつけられそうな気がしてやめた。
「…う、して?」
指先が震える。濡れた掌と同じように。渡された傘は差すことすらできなくて。シュウスケが息を吸い込んだ。何か言われる前に、あたしは口を開く。
「どーして、キスなんか、」
不意に降り注いでいた雨が止む。違う。シュウスケが傘を、かけてくれている。さっきと同じくらいの距離。
「したいと――思ったから」
思わず見上げる。息が、苦しい。何で?という言葉が、何回も頭の中でリピートする。駄目だ、泣いてしまう。悲しいのか嬉しいのかもわからない涙。 シュウスケがあたしのこと、掻き回すから。振り回すから。
「何で、そんなに…勝手、なの」 「だよな」
無意識に制服の袖を、ぎゅ、と掴む。しっとりと濡れた感触に、どれだけ立ち尽くしていたかを知る。このままじゃお互い風邪を引いてしまいそうだ。そんな現実的な心配が先に立ってしまうなんて。
あたしは目が強く瞑ってから、「帰ろ」とだけ言った。
2008年06月20日(金)
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