舌の色はピンク
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2015年04月03日(金) シンメトリー

身体のバランスってたいせつ。
右脚に一生残る傷できたら
左足にも同じ傷をつけなければならない。
俺が山賊だった頃はそうして過ごしてたね。
ちょうど今ぐらいの春だったかな。
八日ぶりに麓まで降りてみたらさ、
国道すぐそばの垣根に物干し竿が落ちてたわけ。
おや、と思わず拾い上げてみたんだけど、重いの。
俺筋力には自信あったんよ。猪とか持ち運ぶからね。
それが猪より重いんだよ。
なんでかなーってよく見たら、竿の先端からワイヤーがのびててさ。
ワイヤーの先を目で追ってみたら土の下に埋もれてたのね。
あコレやばいって思って。
山で生き残るにはさ、やっぱり危険察知能力あるかないかだから。
コレは絶対やばいって思った。
咄嗟に落としたんだよ。手にとった物干し竿。
そしたら地面が揺れたの。
偶然にしてもできすぎなんだよ、
そのくらいぴったしのタイミングで地震起きたの。
けっこう揺れたよね。
でも国道バンバン車走ってるから、垣根から落ちたら危ないじゃない。
俺そんときの見た目いかにも山賊でございって格好だしさ。
車に轢かれなくっても危ないよ。うかつに人目に触れたら。
だからしがみついたの俺。落とした物干し竿に。
地面は傾斜もなかったしさ。
これだけ重けりゃ大丈夫かなって。安易だよね。
案の定ワイヤーの先が引っ張り出されてさ。
重いわけだよ。土の中に金塊埋まってたの。
パニックなったなー。
地震続いてるわ落ちそうだわ金塊発見しちゃったわで。
なりふり構わず叫んじゃったもん。
でも頭のなかどっか冷静でさ、ほら危険察知能力働いたの。
これ誰かが隠したものじゃない、
山の神様のものだって。直感的にね。
手元に寄せたらヤバイ!って。
で、もっかい落としたわけ。
そしたら地震止んだから、あーよかったーって安心して、
ふっ、て振り返ったらいるんだよ。ヤマンバみたいのが。
包丁なんか持ってないよ。物干し竿持ってるの。
ウワッてたまげて、
俺が取ったり落としたりしてた物干し竿もう一度見たらさ、
片方の先端のワイヤーは金塊と繋がってるけど
もう片方からもワイヤーのびてて、
そっちはヤマンバの持ってる物干し竿と繋がってたわけ。
で、もう頭んなかぐっちゃぐちゃなんだけど
気づいたらヤマンバ目の前にまで来ててさ。
顔になんか見覚えあるの。
そいつ8日前に俺が襲ったやつだったんだよ。
ちょうど目の前の国道で、
車エンスト起こしてるところを派手に脅かしてみたら
荷物置き去りに逃げてったから、
こういうやつのおかげで俺食えてるんだよなーって、
もう一回会ったら感謝してやりたいくらいだなーって思ってたの。
俺もう声も出なかったよ。なんにも身動き出来なかった。
ヤマンバは動けない俺の口元に飴つっこんできてさ。
その飴がね、これまたワイヤーに繋がれてて。
いま考えるとどうやって繋がってたのかわかんない、
でもたしかに飴にはワイヤー垂れ下がってて、
ヤマンバの物干し竿のもう片方に繋がれてた。
んで顎をバン! って閉じられて、後頭部はたかれて、
飴玉飲み込んじゃったのよ。
そのままヤマンバは何も言わず立ち去って、俺、動けない。
叫べもしないよ。這いつくばってるしかないの。
っつってももうヤマンバもいないしさ。
動けないったって、飴玉が胃液で溶けるの待ってればいいんだよ。
一時間くらいかなー。時計ないから適当に待って、
そろそろかなって、口からワイヤー引っ張り出してみたのよ。
わりとあっさり抜けたんだよね。拍子抜けするくらい。
でもワイヤーはワイヤーじゃなかった。
鋼線に見えるだけで、幾重にも織り込まれた白髪だったの。
物干し竿も物干し竿じゃなかった。
なんかのでっかい動物の骨みたいなさ。ぶっといの。
今更怖さとかはなくってさ。
むしろ段々怒りが湧いてきてさ。
あのばばぁ手の込んだ悪戯しやがってって、
やる気まんまんだったよ。
こんなもんでびびってて山賊やってられるか。
金塊も俺のもんだ。
ちょっと重いだけで、落ち着いてみれば十分運べる荷物だから。
どうせだったら骨に括りつけてあるままの方が運びやすいし
引き摺る要領で持ち帰ろうとしたんだよね。
で下見たら飴玉落ちてる。たくさん落ちてる。
ずーっと先まで続いてるから、
これ辿ったらばばぁに会えるの間違いないじゃん。
金塊引き摺って追ったよ。
俺も職業柄強欲なところあるからね。金も復讐も諦めない。
だけど10歩も進んだ時点でまた地震だよ。今度はこけた。
こけて、目の前の飴玉アップで見るとね、やけに小っちゃいの。
しかもドロドロ。まるで溶けかけみたいなさ。
次の飴玉も次の飴玉もそう。
振り返ったら二本だったはずの骨も十数本に増えてるの。
なんかだんだんわかってきちゃったよねー。
あっというまに体が重くなってきて、息は止まって、
そのままゆっくり土に沈んでったよ。


れどれ |MAIL