舌の色はピンク
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2015年03月07日(土) 夢をみてもひとり

気がつくと原っぱにいました。
もうサバイバルには慣れっこだったので
初めて来た場所では役に立ちそうな道具や
道具になりそうな自然物を見つけるぞと収集に努めました。
仲間らしき数人がしきりにひとところで
やんややんや賑わってるのを尻目に
私は雑木林の奥へと広がる草原にひとり抜け出してみました。

鳩がいました。
まっとうな生き物を目にするのは珍しく、
どうにか獲れないものかと小石など投げてみるのですが、当たりません。
すると視界の端に一介の影が過ぎりました。
梟でした。
まだ幼いのか、私の手のひらに収まりそうなほどに小さく、
愛嬌たっぷりの、可愛らしいなりをしています。
私の心はすっかり射止められてしまいました。
よくみれば猛禽類の生態はさておき、草を食んでいるではありませんか。
私は足元の草をもぎり、小梟にそっと寄せてみました。
食べてくれました。

これは鳩どころではない。
獲物なんかより愛玩だ。
これだけ可愛い梟を愛育できたなら
仲間たちもずっと喜ぶぞ。
生き抜くために必要なのは食糧だけじゃないんだ。
すわ、義に則り、私は彼が好んでいるらしい草、
厚みと潤いに富んで葉脈だけが緑の上に馴染みきらない、
オオバコに女性味を足したようなその草を見つけては、
もぎり、与え、離れ、寄せて、
すこしずつ、すこしずつもと居た原っぱに彼を誘導しました。

彼の食欲はすばらしく、いくら食べても飽き足らない風情で、
餌を平らげるごとどんどん大きくなっていきます。
いつのまにか人間で言うところの4歳児ほどにまで体躯は育ち、
また人間で言うところの下半身らしきものまで備え、
心なしか顔貌までが人間に似てきた気がします。
もうちっとも可愛くありません。
私は怖くなってきました。
今にもついばまれてしまいそうな気がして、駆け出しました。

「やっぱり飼おうとなんてするんじゃなかった。
だいたいが、聞いたことあるぞ、梟はいくら餌をもらっても
飼い主なんかとは認識しなくって、絆を深めるのは至難だって。
人間……。人間の、仲間がいちばんだ。
そうだ人間だ! 人間。人間人間人間……」
ひとりごちていると、梟がおどろおどろしい声でささやきます。
「人間がそんなにいいものか。
おれだって、人間になりたくてなっているんじゃない」

振り返ってみれば視界は真っ黒い雨に塗りつぶされて、
もう何も見えません。
発声もままならず、耳に届くはべちゃべちゃいう足音だけでした。
両手で頭を覆い、二度か三度、深呼吸した覚えがあります。


れどれ |MAIL