舌の色はピンク
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2007年04月13日(金) 桃対老

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
結婚して以来ずっと子宝に恵まれなかった二人は
いよいよ我慢ならず一念発起、
大胆極まりない行為の実践を決しました。
「わしが思うに興奮が足りないんじゃき。
ここらで一発かましたるじゃき。
外でハッスルじゃき」
「あらまぁおじいさんお若いこと」
「生涯現役じゃき」

さて二人が湖のほとりで行為に及んでいると、
大きな桃が
どんぶらこ、どんぶらこと風に流されてきました。
「こいつァ見事な桃じゃき。
でも今わしはおばあさんの桃に釘付けじゃき」
二人は桃を放っておくことにしました。
やがて桃がピカァと光りだし物音をたて始め、
幾分桃色が紅潮してきたような変化も見せましたが、
それでも二人は気にかけません。
いま彼らは全力で快楽に溺れているのです。
欲望の赴くままに運動していると、
その瞬間、衝撃波が二人を襲いました。
おじいさんは山の方向に、
おばあさんは川の方向に吹き飛ばされていきました。
「ウワアアアけんのんじゃき。こいつァけんのんじゃきいいいいい」

翌日村人たちは村長の家に集まり、
緊急会議をひらきました。
「犯人は湖に浮かぶ桃じゃき。
村長、桃退治はわしらに任せて欲しいじゃき」
「あらまあおじいさん、そのお怪我でもお口だけは結構ですこと」
おばあさんが横から割り込みます。
「第一どうやって退治するというんです」
「お前が子供を産んで…だな、強く強く育てれば…」
「あらあらまあまあ! 種無しがよくおっしゃいますわね!」
「なんだとう! おばあさんそいつァ一線じゃき!
離婚じゃき、離婚じゃきいいいいい」
勢いに身を任せその場で村長に離婚の届けを受理してもらい、
二人は袂を分かちました。

それから10年の歳月が流れました。
おじいさんは孤島へ移り住み、
日々肉体改造にはげんでいました。
桃を憎む復讐鬼になり果て、
理性は霧消し、
島の生き物をことごとく惨殺しては食べ、
肉のみならず骨にまでかぶりついているうちに歯は牙状に変して、
衣服といえば虎の皮を剥いで編んだパンツのみ、
返り血が頭部に付着したまま乾き黒くパーマをかけたような髪など、
異様な風貌をかもし出していることも相まって
人々から恐れられるようになりました。
たまに島から村へ戻ると
村人たちはおじいさんにへえこらして
金品を差し出してくるのでした。

おばあさんは村の若者と再婚しましたが、
三年目の秋に
働かない夫への不満が募って別れてしまいました。
その後おじいさんが金を持っている噂を耳にしたおばあさんは
彼の住む孤島へ向かい、
再び生活をともにしていました。
自分を裏切った若者への憎しみも高まり、
老化による弱体化を
トゲのついた金棒を持つことで補う悪鬼と化しました。
夫婦は長年連れ添うと容姿も似てくるものです。
いまやおじいさんもおばあさんも
まったく人間には見えませんでした。
ただし二人の顔色には大きな違いがありました。
常に憤怒しているおじいさんの顔面が
真っ赤に紅潮しきっているのに反して、
若者に裏切られたショックを
いつまでも忘れられないおばあさんの顔色は
不健康な青を帯びています。

ある日、犬と猿と雉を引き連れた子供が島にやってきて
二人は刀で八つ裂きにされました。
子供は金品を奪い、達成感に満足した笑みを浮かべながら、
二人に捨てぜリフを吐きました。

「お前たちのやってきたことは許せない。
村の人たちがどれだけ怯えたかわかっているのか。
でも、きっとお前たちにも事情があったんだろう。
哀れむつもりもないが、せん別にこの団子をやる。
これは僕を拾ってくれたおじいちゃんとおばあちゃんが
僕のためにつくってくれたきび団子だ。
あの優しい二人が僕を拾ってくれなかったら
僕もどうなっていたかわからないからな……」
刀についた血をぬぐい、きび団子だけを残して、
子供は島を去っていきました。

波乱に満ちた人生の最期を迎えた二人は
実に久しぶりにまともな会話を交わしました。
「……あの子供……なんじゃき……フフフハ、ハハ……。
なーんも知らんと…えらそうに………。
団子なんて……今更この怪我で、食えようはずもないじゃき……。
フフ……次に…生ま、れ…変わる…な…ら……
また…おばあさんと一緒に…なって…
ちょっとくらい…乱暴でも…
あんな、子供…が…欲しい、じゃき……」
「あら、あら…
おじいさん…そんな怪我をゴフッ
…怪我を、負っても……相変わらず…
お口…だけ、は、達者…ですこと……」
ようやく人間の理性を取り戻した二人の血色は、
それはそれは綺麗な桃色の肌をしていたそうです。


利己的な欲望は悲劇を生み、
不遇な悲劇は憎しみを生みます。
子供も生めずに憎しみだけを育てた二人は
いったい何を生み出せたというのでしょうか……。


桃対老   おしまい


れどれ |MAIL