カゼノトオリミチ
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春の彼岸が近づく
スーパーのチラシにおはぎがのる
そうだなぁもう
何年 食べていないだろうか
いつのまにか私にとって
おはぎ とは
あの暗くて 湿った北側の
ちいさな木造の 台所の
狭くて丸いテーブルで
母が作ったおはぎ がおはぎになっていた
母の作る餡は 暗い台所で
いっそう黒く見えた
母の蒸したもち米は
みごとにまっしろけ だった
母は布きんを使うと
くるりくるりと手の中から
あっというまにおはぎを出した
手品や魔法は 使っていない
目を見張るこどもたち
やってごらんとの言葉に
飛びつくように手を伸ばす
おもいおもいの おはぎが出来た
やっぱりあれが
わたしのおはぎだ
あれは 春だった
ずっと昔の 遠い日の
春の彼岸の おはぎのはなし
natu
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