わたしの生まれた町は 青森の太平洋側にある 波の腹が夕陽を巻き込んで漁り火の灯る夜がやって来る 浜辺には明治の頃の津波の記念碑が立っている けれど その記念碑の海側にも家は建っている 危険なのは承知の上だが 先祖代々ここに住んでいる 今さら動けない それが田舎の人の暮らしだ この地震で その浜辺は津波に呑み込まれた 会ったことのない遠い親戚が 津波で亡くなった 苗字を聞いて ああ あの筋の人だな…と 見当がつけられる それが田舎の暮らしだ その人は漁業で暮らしを営んでいた 地震の後 船が気になったのか 何かの仕掛けが気になったのか 彼は港へ出て行って そのまま生きては帰らなかった 命あってのことなのに…と 人は思うかもしれない わたしもそう思う けれど 船を守り 仕掛けを確かめ 家族を養う それが彼の暮らしだと それが田舎の暮らしだと そんな暮らしのおかげで うまい魚が食える 今、わたしは都会と言える町の中にいて まったくこの暮らしが 幾万の田舎の人のおかげなのだと ただ呆然と なんの甲斐性もなく 阿呆のように 悲しんでいる
|