歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2009年07月27日(月) 働くことしか才能が無い高齢の親父

先週、衆議院が解散しました。衆議院議員は次の衆議院議員選挙のために選挙活動に勤しんでいるのは周知のことです。今回の選挙では下馬評では与党である自民党が大敗し、野党第一党である民主党が与党になるとの予測が多いようです。実際にどのような選挙結果になるかは神のみぞ知るところでしょうが、自民党総裁でもある麻生総理は各種団体を挨拶してまわり、組織票の獲得にかなり力を入れているようです。そのような中、ある発言が物議を醸し出しています。以下、発言に関しての記事からの引用です。

麻生太郎首相は25日午前、横浜市内で開かれた日本青年会議所(JC)の会合でのあいさつで「日本は65歳以上の人たちが元気。その元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さんと違って働くことしか才能がないと思ってください」と述べた。
 高齢者の勤労を促すことが、社会保障制度の安定や活力ある高齢化社会を作るとの考えは首相の持論。ただ発言は高齢者への冷やかしともとれる表現だけに、言葉足らずとの見方もある。
 首相は「80を過ぎて遊びを覚えても遅い。遊びを覚えるなら青年会議所の間くらいだ」とも指摘。「60過ぎて、80過ぎて手習いなんて遅い。働ける才能をもっと使ってその人たちが働けばその人たちは納税者になる。日本の社会保障は全く違うものになる」と語った


この“働くことしか才能がない”発言を巡り、野党やマスコミなどでは、高齢者に対する侮辱、冷やかし、上から目線であるとの批判があるようです。
確かに“働くことしか才能がない”という発言だけを見れば、非常に問題がある発言だと思うのですが、前後の発言内容や発言趣旨を考えると、毎度の麻生総理の表現力の無さが生み出した問題発言という感じがします。

ところで、実際に元気な高齢者は働くことしか才能が無いのでしょうか?僕は多くの高齢者に接してきたわけではありませんが、周囲の高齢者や見聞、伝聞した限り、働くことに生き甲斐を感じてきた方や趣味が無く、仕事一筋だった人が少なくありません。最も身近な例は親父です。

これといった趣味もなく、歯医者として歯科治療をし、論文を書いたり、学会で発表してきました。歯医者バカとでも言った方がいいかもしれません。78歳となった今でも、以前ほどではないにしても患者さんの治療をしていますし、往診に出かけては自分よりも年下の患者さんの治療をしているくらいです。

かつて、親父が仕事人間であることをはっきり証明したことがありました。数年前、大病をした時のことです。一時は死を覚悟した親父でしたが、幸いにも病の発見が早く、最新の医学のおかげで命を取り留めました。その後、仕事に復帰できるくらい回復したのですが、以前に比べ仕事量は当然のことながら減りました。体力的に仕方がないことではありましたが、仕事量が減るということは仕事以外の時間も増えたということになります。

そこで浮かび上がってきたことは、余裕ができた時間の過ごし方。非常に手持ち無沙汰な状態で、家でゴロゴロしていると思えば、ボーっとしながら本を読んだり、テレビを見たり、駄菓子を食べるだけの生活。勉強もせずぶらぶらと夏休みを過ごしている学生のようでした。仕事に集中してきたあまり、いざ時間的な余裕ができてしまうと何をして過ごしていいかわからず、家の中でぶらぶらしてしまうのです。
このままではいつボケてしまうかわからない。
本人もそのことがわかっていたようで、体力が戻った時点で再びなじみの患者さんを中心に体力に無理が無い程度に歯科治療を行うようになりました。

おそらく親父は体力が続く限り、ずっと仕事をすることになる可能性が高いでしょう。そういった意味では麻生総理が指摘したように、親父は“働くことしか才能がない”高齢者の一人であることは確かです。ただ、親父は働いている時が最も生き生きしています。いくら高齢であっても生き生きしていないと生活が面白くありません。生き甲斐のために何かをすることは余生が限られている高齢者にとって非常に大切なことでしょう。それが趣味であろうとも仕事であろうともです。

高度経済成長を支えてきた高齢者の方々はわき目も振らず仕事に集中してきたはずです。現在の日本では退職をすれば、多くの場合、元の仕事場からは離れなければなりません。
死ぬまで働かないといけないのは問題かもしれませんが、どうも少なくない高齢者は死ぬまで働くことを厭わないようです。親父もそうした類の高齢者の一人であることは間違いありません。まだまだ働くことを諦めない、止めない親父にとって今の歯医者の仕事は性に合っているのかもしれません。僕自身、患者さんに迷惑がかからなければ、親父の意向を尊重したいと思います。何せ“働くことしか才能がない”わけですから。


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