歯医者さんの一服
歯医者さんの一服日記

2009年06月05日(金) これ以上医療の首を絞めないで欲しい

昨日、地元歯科医師会の会合があり出向いてきました。いつものように会合が始まる前に同僚の先生と話をしていたのですが、その際話題に挙がったのが政府の財政制度等審議会のことでした。
来年、医療の診療報酬に関して大きな改定があるのですが、その際、世の中の不景気を背景にした民間賃金や物価動向を踏まえれば、診療報酬は抑制しないといけないと提言したのだとか。

昨年秋の米国リーマンブラザーズ破綻をきっかけに広がった世界的不況。世界経済の中心であった米国の経済的不況はあっという間に世界中に広がり、日本でもかつて経験したことがない景気後退に襲われているのは周知の事実です。企業の経済活動は停滞し、赤字決算を出す企業が続出。多くの派遣社員切りから今ではリストラ、新規雇用抑制などを行い、何とか生き残ろうとしています。現在、この不景気は底を打ったということが言われていますが、この発言は全く信頼性がないことは経済ど素人の僕が見てもわかります。全く先に明かりが見えない経済状況であることは明白です。

そんな中高額な医療費は人々の懐を直撃します。経済状況を考えれば、医療費を左右する医師、歯科医師らの診療報酬引き下げも止むを得ないという議論は仕方のないように思えます。
その一方で、医療界にどっぷりつかっている僕としては、この議論に非常な違和感を覚えます。一見すれば診療報酬というのは高そうに見えますが、これら診療報酬は単に医師、歯科医師が全て懐に入れてしまう性質のものではありません。周囲のスタッフの人件費、器具、材料の購入費、光熱費、電話代等々の経費全てを賄わないといけないものです。現在の診療報酬は決して高くないどころか安すぎるのが現状です。
昨今、医療の崩壊が叫ばれていますが、これは政府の限られた社会保障費、しかも、毎年2200億円ずつ社会保障費を抑制するという財政の骨太の方針に基づいています。財政再建のためには医療費を含めた社会保障費も例外ではないという方針のもと、行われた社会保障費の抑制政策。その結果、何が起こったかというと、医療の崩壊です。中でも、地方の公立病院は軒並み赤字、経営破たんとなり閉院する病院が後を絶ちません。救急医療、産科医療、小児科医療は医師不足による影響を受けていますが、その背景には非常な重労働にもかかわらず限られた診療報酬しか認められず、いくら診療しても単価が安すぎるために黒字にならないというジレンマがあるのです。

歯科においても同様です。昨年の診療報酬改正後、歯科の収益は数パーセント上昇したのは如何なものか?という批判が大手マスコミを中心に挙がっていました。僕から言わせれば、これまでの診療報酬が異常に低すぎたのです。しかも、収益が上がったといってもわずか数パーセント。毎日診療をしていて収益が上がったという実感は全くありません。これは周囲の歯科医師が皆異口同音に言います。そのため、多くの歯医者は保険診療では経営が成り立たず、自由診療に走る歯医者が後を絶ちません。
そんな厳しい状況の中、更なる診療報酬の抑制が必要だという意見。現在の医療を更に崩壊させるつもりがあるなら、どうぞ抑制して欲しいと思います。その結果どうなるか?国民の最大のセイフティネットである医療が成り立たなくなるのは目に見えています。

診療報酬も特別視すべきでは無いという意見がありますが、誰もが健康であって初めて経済活動が成り立つのは自明の理。健康の守り手に対してはある程度の配慮があってしかるべきだと思うのです。それが無視されれば、結果は全て国民に返ってきます。現に、全国各地の公立病院の閉院により困っているのは地元住民。これも経済の原理原則を貫いた結果です。果たしてこれ以上医療の首を絞めるようなことをして良いものでしょうか?

医療をケチれば国の根幹を破壊することになることをもっと多くの人たち、特に経済界の人たちは認識すべきだと考えます。


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