2008年10月09日(木) |
残された貴重な歯を守るために |
患者さんの治療をする際、患者さんに自身の口や歯の現状を説明し、どういった治療方針で今後治療をするか事前に説明するのは、歯医者として当然のことです。ただ、時には患者さんに対して思い切って言いにくいことを敢えて言うこともあります。
その一つが入れ歯です。不幸にして何らかの事情で多数の歯を失った人に対し、ブリッジが難しく入れ歯を勧めなければいけない場合があります。保険治療であれば特にそうなのですが、入れ歯を初めて作る場合、患者さんは多かれ少なかれショックを受けるようです。
「何とか差し歯でできないものか?」 「ブリッジはだめなのか?」 「インプラントはどうなのか?」 などなど質問を受けることがあるのですが、僕は何度も入れ歯をしなければいけない理由を説明し、患者さんに納得してもらうようにしています。
入れ歯を説明する際、よく感じることに患者さんが入れ歯について誤解していることがあります。それは、入れ歯は歯を失った場所に入れるものだという認識です。確かに入れ歯は多数の歯を失ったり、ブリッジのために歯を削りたくない人の場合にセットするものですが、それだけの目的ではないことを説明すると、多くの患者さんは意外な表情をされます。
僕が説明する入れ歯の目的とは、残っている歯を守るということです。多数の歯を失い、そのままにしていると残っている数少ない歯を使用しなければなりません。その場合、失った歯が担っていた咀嚼、噛み合わせの機能をも負担せざるをえないのです。これは残っている数少ない歯に対し大変な負担となります。残っている歯は貴重な歯であるのに、残っている歯が本来果たすべき役割以上の働きを求める。これはどうしても無理があるといわざるをえません。 これは、例えるなら、会社でリストラがあり、残された社員がリストラされた社員の仕事分をも持たされるようなものです。残された社員の負担はかなりのものであり、場合によっては体調を崩したり、精神的ストレスは相当なものであることが想像できると思います。結果的に残された社員が倒れ、会社が業績にも響く可能性が出てきます。
残り少ない歯の置かれた状況も全く同じなのです。入れ歯はこうした残り少なくなった歯の負担を受け持つ役割があるのです。残り少なくなった歯を少しでも維持し、残すために使用するものなのです。入れ歯をセットすることは口の中に人工異物を入れることにはなります。確かに入れ歯を入れない時に比べ違和感は生じますが、それ以上に残された数少ない歯を守るために非常に重要ななのです。
僕は入れ歯を初めて使用する患者さんにはこの点を強調し、理解を求めるようにしています。残された歯を守るためには、入れ歯の管理と残された歯を念入りに歯磨きする必要があることは言うまでもありません。その点も説明するのは当然のことです。
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