僕は昨年から某専門学校で非常勤講師をしています。週1回、診療を休んで教壇に立っているわけですが、非常勤講師になる際、某専門学校側からいくつかの書類を書くように指示を受けました。また、ある物の写しを提出することも求められました。 ある物とは、歯科医師免許証です。
全国29ある大学歯学部、歯科大学の6年間のカリキュラムを修了した者が国が定める国家試験を受験し、合格した者に初めて歯科医師免許証が交付される資格が与えられます。歯科医師国家試験に合格した者は、厚生労働大臣に免許申請をし、審査を受け、歯科医師としてふさわしいと判断された者がある名簿に登録されます。歯科医籍という名簿です。歯科医籍に登録された者に歯科医師免許証が交付され、歯科医師として患者さんの治療にあたることができるわけです。
僕は歯科医師免許証を持っています。これまでいくつかの職場を渡り歩いてきましたが、どの職場でも例外なく歯科医師免許証の写しの提出を求められました。もし、医療機関が歯科医師免許証を持っていない者を採用し、医療行為を行うならば、それは歯科医師法違反行為となり、罰則の対象となるからです。
“なんだそんなこと当たり前のことではないか?“ と思われる方が多いかもしれません。僕も当たり前のことだと信じて疑わなかったのですが、世の中には随分と大胆な輩がいるもので医師免許証や歯科医師免許証を持たないで診療行為をしている者がいるものです。
先日流れたこのニュース。僕はにわかに信じられませんでした。この輩は医師国家試験に受かりながら医師免許証の申請手続きを行わないまま、研修医として病院に勤務し、給料をもらい、しかも、研修医に禁止されているアルバイトまで行っていたというのです。 この輩を研修医として受け入れていた病院の責任は重大ですが、それ以上に医師免許証の申請手続きを行わなかったこの輩の行動が信じられません。せっかく医師になるために6年間の医師教育を受け、医師国家試験に受かっていながら医師免許の申請を行わずにいたという行為自体が信じられないのです。 どんな事情があったのかはわかりませんが、少なくとも人様の体を治療するという行為は医師免許証、歯科医師免許証がないと許されません。傷害行為に相当します。このようなこと誰が考えてもすぐにわかりそうなことですが、ばれないとでも思ったのでしょうか。1年近くにわたり無免許で医療行為をしていたというのです。開いた口が塞がりません。
手元にある国語辞典を紐解けば、免許とは“政府・(官公庁)が、特定の事をすることを許すこと”という記載があります。医師、歯科医師にとって“特定の事”とは患者さんに対する医療行為です。医療行為を行うことを業とする者は医師免許証、歯科医師免許証を持っていることが絶対条件のはず。
医療の世界は患者さんとの関係が複雑化している時代。患者さんにとって医療行為を行っている者は全て免許証を持っていると信じているはず。それが持っていないとなると、医療の信頼が根底から揺らいでしまいます。
これまでも無免許で医療行為を行い、世間を騒がしてきた事件がいくつもありました。今回のように医師国家試験に受かりながらも医師免許を持たないで研修を受けていたというのは珍しいケースかもしれませんが、如何なる事情があったにせよ、今回のような失態は声を大にして責められるべきことです。果たしてこの輩に医師免許証が交付される資格があるのでしょうか?自分が行っていた行為を猛省してもらいたいものです。
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