2006年05月08日(月) |
息の臭い女、歯の揺らぐ男 |
休みの日に恵まれたともいえる今年のゴールデンウィーク。皆さんは如何お過ごしになられたでしょうか?僕はゴールデンウィーク前に体調を崩していたため、もっぱら体力回復に努めながら、新しいパソコンのセッティングと雑用の準備、整理を行い、合間に嫁さんと共に二人のチンチンボーイズを近場へ遊びに連れて行っておりました。
そんな僕とは異なり、親父とお袋はゴールデンウィーク中にあちこち出かけていたようです。親父たちが訪れた場所の一つがこちらの博物館でした。この博物館ではゴールデンウィークを中心に国宝や重要文化財の絵巻物の一部が展示してあり、会場は多くの人で賑わっていたそうです。絵巻物といっても源氏物語絵巻や鳥獣人物戯画、信貴山縁起絵巻といった日本史の歴史の教科書で取り上げられているような超有名な絵巻物が展示しているようです。僕自身体調がよければ是非とも見ておきたい絵巻物ばかりです。
この博物館から帰ってきた親父に話を聞いてみると、最も印象に残ったのは源氏物語や鳥獣人物戯画などではなく、病草紙だったそうです。 病草紙とは、12世紀ごろ、平安時代に描かれた絵巻物で当時の様々な病や奇形、またはそれらの説話を集めたものです。画風としては、全体として抑制を利かせた線画を主体としているようなのですが、病気に罹った人たちを写実したものから風俗画的な要素のあるものまであるようなのです。
今回の展覧会では病草紙の一部が飾られていたのですが、その病草紙の中でも親父の目に最も印象に残ったのは、”息の臭い女”というタイトルの絵だったそうです。美人の女房が息が臭く、男や同輩の女房に避けられるといったコメントのような文言が入った絵だったそうです。実際の絵には、二人の同輩らしき女房に指を指されて笑われている女房が描かれていたそうで、その女房は手を口元に当て、自分の息が周囲に漏れないようにしている仕草が痛々しく描かれていたそうです。 また、当日は展示されていなかったそうですが、”歯の揺らぐ男”というタイトルの絵があるそうで、歯が揺らぎ痛みはないものの固いものが噛めずに難儀している男の姿が描かれた絵も展示される予定なのだとか。
”息の臭い女”、”歯の揺らぐ男”とも歯槽膿漏、すなわち歯周病が進行していたのは容易に想像がつきます。今の時代であれば、歯周病の治療も確立されていることから歯科医院での治療、指導によって口腔衛生状態を良好にコントロールすることにより臭い息や歯の動揺を抑えることは可能でしょう。ところが、今から800年前の平安時代では、歯のことが医学的に研究されていないのは無理もないところです。歯ブラシや歯磨き粉なんて影も形もなかったことでしょう。いわんや歯の病気について何も解明されていませんから、どうして自分の息が臭くなったのか、どうして自分の歯が揺れているのか原因がわからず、ただひたすら悩むだけだったことでしょう。そんな苦悩の”息の臭い女”、”歯の揺らぐ男”の表情が病草紙には克明に描かれているそうで、歯医者として実に興味深い絵だったそうです。
是非一度”息の臭い女”、”歯の揺らぐ男”が描かれた病草紙を生で見てみたいものです。展示期間はまだしばらくあるようなので機会があれば是非この博物館へ出かけ、見に行きたいですね。
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