My life as a cat
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2018年07月28日(土) Tende

海が続いたから、今週末は山にしようか、涼しくて静かな高原の小さな町がいいね。と、夏は炙られるような暑さに見舞われるニースからローカル線でたった2時間ほどのタンド(Tende)を訪れた。

電車を降りた途端、きりりと冷えた心地良い空気が腕に当たる。そして山の上に小さな建物を見つける。チャペルらしい。山のてっぺんの小さな小さなチャペル。素敵!

「わたし、あそこまで登る!」

何も計画せずにきたが、町に降りてたった1分、本日の予定は決まった。オフィス・デ・ツーリズムへ行き、地図をもらい、チャペルへの道を尋ねる。

「お墓の脇に階段があるからそこを登っていけば1時間くらいで着くから」

おねえさんは、いかにも簡単といった口調でそう言うので、わたし達は"散歩"程度の心構えでいた。そしてこの後、進むべきか引き返すべきか迷うような獣道で大いに困惑する羽目になるのであった。




まずは町をぶらりと散策。大通りにセレクト・ショップのような洋服屋がある。どれも一点もので素敵な服ばかり。でも価格が妙に安い。しばらくして気付いた。古着なのだ。選び抜かれた古着。黒のレースのオールインワンを買った。さらに歩いていく。BIOの野菜やチーズを売るマルシェがでていてカフェ・テラスも騒々しい。小さな町ながらも活気に溢れている。



山の斜面に築かれた町ではこんな急な階段があちらこちらに見られる。上下運動の好きな猫好きしそうで愛らしい。












無料で観られるギャラリー。古いものがいっぱい。好きな人にはたまらないのかもしれないが、わたしにはちょっと不気味に感じられる。



"Le Gourmand"というレストランでランチにした。Plat du jourは肉だったが、おにいさんが野菜で作ってあげるよとオファーしてくれたのでそれにした。色んなものが乗ってきて、ちょこちょことあれこれ食べたいわたしにはうってつけだった。味は素朴で本当に家庭の味。お母さんと息子さんがせっせと一緒に働いていて好感を持った。わたし達がチップまで置いて帰るお店はそう多くない。



腹ごなしに無料で観られるというミュージアム(Musée des Merveilles)へ入る。無料だしと大して期待していなかったのにも関わらず、ここは本当に良かった。展示品が充実していて、この辺りの歴史と文化をよく知ることができる。こんな可愛らしい手作りのお土産も売っている。



民家の壁にあった日時計。今は14時だから・・・合ってない。季節ごとに角度を変えないとダメなんだな。



さて、いよいよチャペル(Chapelle Saint-Sauveur)を目指す。お墓の脇にはこんな城壁も残っている。



お墓の脇をとことこ登ること数分。舗装された道はたった数分で終わり。それからは山の小道に変わる。細い細い道だけど、先週末登ったエズのニーチェの道(Chemin de Nietzsche)ほど急ではなく、何よりここは涼しい高原の風が吹いているのでそうきつくない。道中野生のラヴェンダーやタイムを摘む。こんな人目に止まらない山中で強い香気を放って毎年種を飛ばして咲き続けているのだろうと思ったら逞しくて美しくて健気で胸が熱くなった。



色んな色の蝶々も見た。自由気ままに好きな色を纏って飛びまわっているみたいでこれも美しかった。













30分ほど登りあと少しといったところで、なにやら先の様相が違ってきた。岩がごつごつで道らしき道もなくなり、ワイヤーが岩伝いにかけられていた。ロック・クライミングの装備が必要ってことか?オフィス・デ・ツーリズムのおねえさんの軽い口調を思い出す。まさか、きっと大丈夫よ。突き進みますよ。と背後を見るとリュカが立ち止まって考えている。

「引き返そうよ」

「え!?まさか。何言ってるの?ここまで来て引き返すなんて嫌だよ」

「・・・。でも僕は高い所があんまり得意じゃないんだよね」

「え!?なんで今さらそんな告白するの!」

「いやぁ、こんな険しいと思わなくて。いや、でも君が行きたいなら、なんとか頑張る」

こんなやりとりの後、結局進むことになった。しかし、ここは本当に気をつけないと命取りになるところだろう。風の強い日や雨の後なんかは絶対やめたほうがいい。ロープをぎゅっと握り、一歩一歩確実に足場を確保して進んだ(写真はまだ写真を撮る余裕のある場所で、この後は無理だった)。



10分後、無事チャペルに到着。すれ違った子供二人とお父さんはちゃんとロック・クライミングの装備をしていた。

しかし、どうしてこんな野生動物しか訪ねてこないような場所にチャペルを建てたのか。きっと一人で静かに天の神に一番近いところで人知れず祈りたい人のためのものだったのではないか。騒々しく他人を巻き込みたがる宗教は信頼できない。険しい道を登りつめ、ひとり静かに祈ったら、神が手を差し伸べなくとも、自分の中で救いの道を見いだせそうだ、と無神論者のわたしはそんなことを思った。過去にここをわざわざ訪れた人々の一途な信仰心がこの場所一帯に渦巻いているように感じられた。頑張って最後まで登ってよかった。



チャペルから見下ろす風景。



帰りは30分かからずに降りることができた。タンドの町が見えてきたらほっとした。



この町のブーランジェリーで田舎パンを買って帰った。夕飯はパンとチーズで適当に済ませる。タンドで過ごした1日は素敵な夏の思い出となった。摘んできたラヴェンダーをベッドの脇に活けると、クロエちゃんはもう傍を離れず、朝までそこで寝ていた。


Michelina |MAIL