プラチナブルー ///目次前話続話

大人と子供の狭間
May,4 2045

5月4日 21:35 Bar雀

東1局に私が18,000点をあがると、1本場の前の洗牌が始まった。
象牙で造られた牌をかき混ぜぶつかり合う音は見た目以上に大きな音だ。

先ほどまで、誠也の横に座っていた神谷詩織が、4名分の小さな籠を用意し、
それぞれ、4人の右側のサイドテーブルに置いた。

「チップを用意しましたので、両替をお願いします。」
「壱萬円分だったかな」
「はい」

ジパング国のここ50年間の経済成長率は年2%。
消費者物価指数は50年間で100倍上昇した。
今から7年前に通貨の1/100のデノミネーションが実施され、
流通している貨幣対価は50年前の単位とほぼ同じだ。

祖父の話によれば、
『変わったのは、1,000円札と2,000円札がコインになり、紙幣は伍千円札と壱萬円札の2種類になった』
とのことだ。
もっとも、ウェブマネーの普及で、現金を見る機会はほとんどなくなったけれど・・・


4人が携帯端末をつけた左腕を詩織に指しだすと、彼女は精算機用のリモコンを使いデータを送受信した。

「ありがとうございます」
「ゲーム代は1ゲーム500円だっけ?」
「はい、1ゲームごとに500円コイン1枚を場所代として小箱からいただきます。」

光宗と河合が、詩織と交わす会話で、私はゲーム代なるものの存在を初めて知った。

(店は1ゲーム2,000円[500円×4人分]の収入になるんだ・・・へ〜)

「辰巳さんは学生さん?」
「は、はい、・・・いや、いいえ違います」

不意に、光宗に尋ねられ、つい自分が学生だと勘違いした私は、すぐに否定した。

「3月に高校を卒業したばかりなんです」
「じゃあ、OLさん?」
「う〜んと、仕事は・・・していません」
「そうなんだ、この人手不足の時代だから、引く手あまたでしょう?」
「それが、先月、面接で落ちちゃいまして、今は無職です」

私は誰に悪びれるわけでもなく、事実を伝えた。
4人の前に牌が積みあがった

「それじゃあ、Free雀荘で飯を食っていくつもり?」
「いえ・・・そういうわけでは・・・」

河合が、理牌しながら、訊いてきた。
私は河合から受けた質問の返答に言葉を濁した。
これから先のことを説明するのが面倒だったのもあるけれど、
なにより、洗牌が終わり、親の1本場の配牌を並べ替えるのに集中したかった。



(並べ変わった後の配牌にドラが2枚。アタシは心が躍った)

「ほらほら、晃一、彼女を困らせるまで訊くなよ」
「あ、ごめんごめん」
「すいませんね、綺麗な女の子を見ると話が止まらなくなる奴で・・・」

私は、『綺麗な』・・・という言葉に気を良くしたものの、『女の子』という箇所に子供扱いされたようでカチンときた

(ほんとアタシって面倒なオンナね)

「いいえ、ありがとうございます。並べ替えるのに必死で・・・ ごめんなさい」

私は色々な感情を織り交ぜながら、極自然に、2人に微笑みかけた。

(きっと、円香お姉ちゃんなら、スマートに受け答えするんだろうな〜)

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