K馬日記
サリュウラヴケーマ号とバリトンサックスの『ウエエ、ウエエ』なわだち
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彼が初めて恋をしたのは。 ある冬の冷え込んだ日だった。 冷えきった体を温めようと、酒屋に入ったのが始めだ。 その酒屋は仕事仲間がよくいくという酒屋であったが。 彼は一度も訪れた事がなかった。 仕事の後は早く帰りたかったし、趣味としての読書に時間を割きたかったのが旨だ。 仕事場から寝床までは大した距離ではなく。 途中に位置する酒屋は何の魅力も示さなかった。 毎晩、彼は仕事仲間と遭遇しないようにいつも早足で帰った。 家で気ままに読書をすることに夢中であったために。 酒屋に誘われるのを嫌ったのだ。 しかし。 厳しい寒さは突然訪れた。 いつも通り、早足でそそくさと仕事場を出ると。 あまりの寒さに彼は驚き。 もう冬か、と白い煙を吐き出し。 家路に向かって歩き始めたが。 どうにも、この寒さは厳しい。 ちょっとだけ。 ほんのちょっとだけ、酒を飲んで温まろう。 そんな何の意図もない来訪だった。 彼は自己の存在を悟られまいとするかのように。 密かに戸を押した。 居酒屋では、これからくるであろう仕事仲間に対して準備をする女主人がいた。 女は耳聡く、静かな彼の入店にもすぐに反応した。 女は、あらみないかおね、と言ってくつくつ笑うと。 彼に酒を差し出した。 勿論彼は注文をしていなかったが。 この店が酒しか出さないということを知らないまま。 彼の目的に沿った女の態度に少しばかり運命を感じた。 女は彼の事を聞き。 彼は女に応えた。 女はくつくつ笑った。 彼は女の事を聞き。 女は彼に応えた。 彼はしぐしぐ笑った。 彼は内外ともにあったまった体で。 ほくほくと帰宅した。 悲しいかな。 彼は、女が仕事仲間にも同じ対応をしていることを知らない。 連日。 彼は通いつめ。 少量の酒を飲んでは。 女と話をし。 同僚が来る前に心身ともに満ち足りて帰っていった。 そうすると彼はすぐに寝てしまうのだ。 ある夜。 酔いが回り始めた頃。 彼の同僚はずかずかと乗り込んできた。 おお、めずらしいな、きてたのかいと言って下品にぐふぐふと笑うと。 常連である彼らは、女に親しげに話し始めた。 おさけをちょうだい。 はいな。 しばらく酔いに耽っていると。 女は大口で笑っているのがわかった。 彼はそこでようやく自分の全てが女の一部であったことを知る。 同時に自分の限界も見えていた。 もう自分のものとならないならと。 彼は翌日、急いで店を訪れた。 女はいつものようにくつくつ笑って彼を出迎えた。 彼はその笑い声を耳に残し。 愉悦に浸って包丁を手にした。 彼は地元では名の知れた狂者であった。
多田K馬
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