こちらでは、ユースケ氏の出演作品の中から、後世に残したいとまで気に入った作品&ここまでこのドラマを食い入るように観てるのって私だけだろうと思ったドラマを、筆者が勝手に必要以上に評価させて頂いています。ネタバレ有です。
「眠れる森」フジテレビ 足を踏み入れるにつれ思い知る「森」の深さ - 2005年11月11日(金) 「眠れる森」フジテレビ 1998年秋 観てゆくうちに、誰を信じていいんだか、揺さぶられまくるサスペンス。 人間の心は単純じゃないってことを思い知らされる。やっぱり「森」のように深くて迷路だし、善人とか悪人とかもう紙一重だし、 個人的に、この物語は、実はあまり好きじゃない。「ハッピーエンド」じゃないから。 たとえ人が死ぬにしても、なにか救いが欲しい。苦労した分、どこかで報われてから終わって欲しい。 実際そううまくはいかないのが世の常とはいえ、そんな人間世界の暗い部分なんてせめてテレビではあんまり観たくないというのが正直なところ。 (しかし、観たくないものを、あえて観てみたいということだって、たまにはある。) 普段は忘れている(忘れていたい)ような、暗いものを、観てみたいときには、これはいいのかもしれない。 実那子の、輝一郎の、直季の、敬太の、由理の、国府の、・・・彼らのそれぞれの人生の意味は、そう簡単に量れない。 人間は光の当て方でいろいろな面を見せるものだ、と、直季の職業であるライティングデザインにも象徴されるように。 敬太という男もやはり、彼なりの「森」の明暗を内包してる。 せっぱつまった感じを覆い隠す軽さ・明るさ、でもその下にはどこか哀しくて、寒く暗い水の底のようなものも抱えているのに、その更に奥には実はまだ、何か熱情が控えていて・・・という、二重三重、十重二十重、どこまで行きつくのか、そんな複雑さを醸し出せる、 ユースケ氏の得意技が、ここにもあった。 どんなに妙なことになっても、「何か最後にはちゃんと切なくてちょっとアッタカイものが残っていそう・・・」彼はそんな雰囲気を持ってる。だから、たとえ人を殺しても、ただの悪い奴・ただの馬鹿な奴って感じは、しない。 (「川、いつか海へ」の第5話の慎平のせっぱつまった感を思い出す。そういえばそれも野沢尚さんだし) 由理に冷たい直季に「おまえが死んでくれたらなあって思っちゃうよ・・・俺にもこんな残酷な面があったなんて」と、女物のエプロン着て、本気だか冗談だかわからない風に語る敬太だが、そんな彼が、後にあんな大それたことをしてしまうとは、この時点で誰も予測がつかない。 自分も由理のことを好きなのに、懸命に彼女の恋愛相談に乗ってやる敬太。由理が愛している直季との仲をなんとかとりもとうとするが、直季の頭の中には、実那子のことばかり。 おどけた風情で由理を元気付けようと試みた後、彼女の涙をみかねて敬太が、虚しい響きで吐き出すセリフ、 「直季・・・おまえもそろそろ、感じろよ・・・。人に愛されることの、幸せ・・・。」 敬太の心中を思うと非常に胸が痛む場面だった。敬太にとってそれは、いくら求めても手に入らない幸せなのだから。 由理の幸せのためなら自分のことは諦めていた敬太だけれど、 ある夜、由理が直季に「私があなたを救えるから」と訴え、二人が抱き合うのを見た時は、 敬太は黙って静かに涙を流しながら、なんとも言いようのない目をしていたっけ・・・。 上目遣いの、ぞっとするような。 由理のことを本当に直季に託せるのか、心の中に潜む様々な感情がないまぜになっているその表情は、底が見えないほど深すぎて怖いほどだ。 (コメディドラマで見せる感情まるわかりのユースケ氏も良かったけど、何考えてるのかわからないユースケ氏も結構良い。) 友情と恋愛の間で揺れつつ、この第9話あたりを境に敬太は壊れてきたのか。由理の泣き顔は見たくないはずだったのに、いざ彼女が直季のものになっていくと、それも辛すぎる。 敬太にとって由理だけが希望の光だったわけで、そんなふうに彼女のことを語る敬太は実に観ていていじらしい。 直季のためにあえて危険も冒す由理を、自分の手にかけたのは、 この先彼女がこのように直季に関わって誰かにあやめられるよりも、いっそ自分がという思いもあったのではないだろうか。 それともそんな思慮よりも、「直季から由理を奪って」「由理を俺の女にして」道連れにしたかっただけなのか、 どうにでも解釈し得るが、多分どれも正解なのだろう。 ことに及ぶ敬太は正気の沙汰ではない。浮かぶ笑みが、異常きわまりない。悲鳴にも歓声にも聞こえる息遣いがあぶない。 このちょっとカン高い声は理性を捨ててるときの声だ。 普段どうという目立つところのない人物が見せる、こんな狂気が印象に強く残る。 由理の遺体の安置されている部屋のそばで、抜け殻のような敬太。自分がやってしまったことへの達成感や後悔や脱力感など、一言では表せない感覚をにじませながら。 そして彼女の後を追って(借金の清算も兼ねて?)自殺する数秒前の極限状態では、ほとんど無力な幼児のように、なすすべもなく泣いている。 自分は間違って生まれてきたんだと、何の希望も失くして泣くその姿。 すぐ見抜かれるような嘘をついていた時の顔も、すべてをさらけ出した素の顔も、どちらも激しく同情を誘うのだった。 そして直季の差し伸べた手を振り払って死を選ぶ瞬間に、敬太はその一瞬にだけ胸の中に、きっぱりと何かを輝かせたような気がする。 彼はやはり、ここで直季にすがって生き延びるわけには、いかなかったのだろう。 報われることのない人生。どこかでボタンを掛け違ったとはいえ、 でも敬太なりに、多分、彼にしか価値のわからない大切なもののために生きて死んでいった。 それはものすごく、愚かといえば愚かだし、ある意味で美しいといえば美しい。 「貴美子を殺した犯人の気持ちがわかる」と敬太は言ったけれど、 でもその犯人のしたことは、敬太とは比較にならないほど、ずっと罪深い・・・。 -
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