37.2℃の微熱
北端あおい



 巻きますか? 巻きませんか?

少し前の深夜、テレビをつけるとやっていた『Rozen Maiden』
美麗なゴスファッションドールが主人公のアニメーション!!

「巻きますか? 巻きませんか?」
電話や手紙で突然訪れる謎のメッセージ。
うっかり「ま、巻きます」と答えたひとのもとには、かばんに入った美麗な少女のドールが送られてくる。
背中のねじをいったん巻くとドールたちは、動き喋り、笑ったり泣いたりもできるようになる。 まるで人間の女の子のように。
でも、彼女たちは人間の女の子とは違って不思議な戦闘能力を持っている。ひとひとりなんて簡単に殺せるくらいの。

…実は彼女たちは「アリスゲーム」と呼ばれるゲームに於いて闘う宿命を背負っているドールたちだったのだ!
マスター(持ち主)の無意識が、その不思議な力の源泉となる。だから、ドールたちは「アリスゲーム」に参加するために必死で背中のねじを巻いてくれるひとを探す。

なぜならゲームを勝ち抜き、史上最高の少女「アリス」として君臨したドールだけが、自らを創った人形師に会えるのだから(物語の中では、ドールたちに「お父さま」と呼ばれる人物)。


アニメを見た翌日、
「巻いてやろうか」

お皿に半分以上残っているファミレスのスパゲティ。
食べられなくて、フォークで弄んでいると、向かいに座っていた人が、そう言いながら手を伸ばしてきた。
『巻いてくれますか?』
「巻いてあげる」
『本当に巻いてくれますか』
「巻いてやるから」

ひと巻きふた巻き。
くるくる回ったのは、背中のねじではなくてお皿の上のフォークで、向かいに座っている人は『Rozen Maiden』なんか知るはずないのをいいことに、心の中で邪な一人遊びをした。

『Rozen Maiden』の最後はとうとう見ていない。見なかった。
最高の少女「アリス」となったのは誰だったのか。
「お父様」に会えたのは誰だったのか。
今でもとうとうわからないまま(ネットで調べればいいのだけれど、なぜかそれもしていない)、見逃している。

『巻いてくれますか』
『巻いてくれますか』
『巻いてくれますか』

面白がって何回も訊ねながら、スパゲッティを巻いてもらっていると、だんだん自分も「アリスゲーム」に投げ込まれている気になる。
この現実も間違いなくあの「アリスゲーム」に似たようなところがある、とずーっと思っていたから、余計そう思えて仕方なくて、なんだか悲しい。

此の現実でアリスとなるのは誰なのか?
「お父様」に会えるのは誰なのか?

勝ちたいのは「お父様」に逢いたいがため。
それとも「アリスゲーム」を設定し、投げ込んだその存在を憎むべき? それとも創造主として愛するべきなの?

……求めているのだけは間違いないの。

不安になって、もう一度ねだる。
『もっと巻いてください、もっと』

「あのさ、さっきから巻いてやってるのに、全然減らないんだけど、このスパゲッティ。ちゃんと食べなさい、ほら」


2006年03月28日(火)
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