月に舞う桜
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少し前、同僚に訊かれた。 「幽霊と宇宙人、どっちを信じる?」 即答した。 「しいて言えば、宇宙人かな。幽霊は、信じてない」
私は、幽霊とか、魂とか、信じてないんだ。 その鼓動が止まったら、人間はただの肉体になる。 荼毘に付されたら、骨と灰になる。それで、終わり。 お墓に手を合わせたって、そこには誰もいないでしょう?
でもね、貴方はいるんだ。 科学的なことなんてどうでもいい。 信じてるんじゃない。そう感じているだけ。 「魂」とか「想い」とか、どんな言葉だっていいけど、貴方はいつだって、近くにも遠くにも、きっとどこにだっている。
それが、私にとっての真実。
春の晴れた日に風が吹いて新緑がざわめいたら、貴方が自前のロケットに乗って高速で飛んでるんだなって思う。
そう思うのは、貴方のためじゃないよ。私のためだ。生きていく私のため。 ごめんね、すべては生き続ける人間のためなんだよ。 逝ってしまった貴方には、もう何もしてあげられない。
貴方のギターも声も、ずっとずっと聴こえているよ。 想いを乗せて。
貴方が共に生きたヴォーカリストが、本当の意味で帰ってきたよ。 いろいろなものと、何より自分自身と戦って、澄んだ歌声で戻ってきたよ。 3日前にね、彼に会ってきたの。 もう心配いらないなって思える曇りのない表情で、前を向いて立っていたよ。 ずっとついてきてほしいって言うから、私たちはついて行くことにしたよ。
彼が重い苦悩の中にあって立ち尽くしたとき、「パーッと、パーッと!」って背を押してくれて、ありがとうね。 彼が道を誤ったとき、叱ってくれて、ありがとうね。 そして、彼が自分の道を取り戻すまで見守ってくれて、ありがとうね。
貴方を逝かせてしまったことを、彼は悔いているよ。 誰のせいでもないって、笑い飛ばしてあげてよ。
生きていてくれたらな。 貴方が生きていたら、彼は謝る機会を持てたのに。 「今までたくさん迷惑かけてごめん」って、「心配かけてごめん」って、彼に面と向かって謝らせてあげてほしかったよ。
もう誰も、貴方のところへ呼ばないで。 長い年月を経て、貴方に逢いに行くまでは。
forever love for pink spider
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