月に舞う桜
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2011年08月17日(水) |
とんだとばっちりと、その後 |
小学校2年のとき、肺炎で入院した。 そのとき、まずい粉薬をたくさん飲まなければならず、少しでも苦みを緩和するために、薬を飲んだ直後にお菓子の「小枝」を口に放り込んでいた。 そうして一週間の入院生活を終え、退院すると、なんと小枝を食べられなくなっていた。 小枝を見ると、私の脳があのまずい粉薬を勝手に連想してしまうのだ。今でも、小枝の味そのものは好きだ……ろうと思う。でも、食べたくない。食べたいという気が起きないのだ。
それから、入院中、水分をたくさん取りなさいと言われて、ポカリスエットをよく飲んでいた。そしたら、ポカリも飲めなくなった。あの憂鬱な入院生活を思い出すから。 それ以外のスポーツドリンク(アクエリアスとか)は飲めるのに、ポカリは飲みたくない。
小枝だって食べようと思えば食べれるし、ポカリだって飲もうと思えば飲めるのだ。でも、いまだに進んでは口にしない。
小枝もポカリも、とんだとばっちりである。
なでしこJAPANが優勝した直後、彼女たちのニュースを見るのがしんどかった。
TAIJIの訃報を知ったのが17日の夜、なでしこが優勝したのは翌18日の朝だった。 だから、なでしこのニュースを見ると、TAIJIを思い出す。
18日、起きると両親はなでしこの優勝で盛り上がっていた。ニュースもその話題ばかり。 日本中が、喜びに沸いていた。それは当然だ。震災と原発事故で先が見えなくなってしまった日本において、久しぶりに手放しで歓喜できる話題なのだから。 私も、一緒に盛り上がりたかった。大声で彼女たちを讃えたかった。
けれど、自分の悲しみとテレビの中の熱狂があまりに乖離していて、ついていけなかった。
TAIJIは死んじゃったのに、どうしてみんなこんなに喜んでいられるんだろう。 みんながこんなに喜んでるのに、どうして私はこんなに悲しくて悔しいんだろう。
連日、私がテレビを見る時間帯は、どこかの局に必ずなでしこメンバーが出演していた。 両親、特に父は、喜んで観ていた。 私は、歓喜できない自分が疎外された気になるから、見たくなかった。もう出てこなくていいよ、と思った。
なでしこJAPANにしてみれば、とんだとばっちりである。
気持ちが切り替わったのは、TAIJIの逝去となでしこの優勝から一週間が経った日のこと。 HEY×3にモーニング娘。のOGが出ていて、「LOVEマシーン」を歌っていた。
「日本の未来は 世界がうらやむ〜」
今のこの日本の状況下でこんな歌を歌うとは、KYも甚だしいか、よほど勇気があるかのどちらかだ。
最初はそう思っていた。 が、聴いているうちに、涙が溢れてきた。 私にとって「LOVEマシーン」は、「カラオケに行ったらみんなで盛り上がる曲」という位置づけであり、間違っても「泣ける曲」ではない。 笑顔を振りまきながら歌い踊るモー娘。OGたちと、それを見ながらテレビの前で泣く私。どう考えても不釣り合いである。 でも、涙は流れ続けた。
うちの会社も、直接的ではないものの、震災の影響があった。そして、その影響はいまも続いている。 このHEY×3の日はSV研修に参加して、他のセンターの人たちと「本当に大変でしたね。いつまでこの状況が続くんでしょうね」なんて話していた。 そんなこともあったからだろう、「LOVEマシーン」を聞きながら震災を思い出していた。
この歌は、希望の歌なのだ、と思った。 今の日本を、世界がうらやむわけがない。 だけど、いつか、そんな日が来るといい。 別に、本当に世界がうらやまなくてもいいんだ。 ただ、日本の中で、「今の日本、いい感じだよね。絶対、世界中がうらやんでるよね。私たち、ここまでよく頑張ったよね!」って、見当違いな思い上がりでもいいから、お互いにそう言い合える日が来るといい。
今さらながら、気付いた。 その日に向かって歩む上で、なでしこJAPANの優勝は大きな力となったのだ。 彼女たちが日本にもたらしたもの、その意味、偉大さをやっと理解した。
私たち、まだまだいけるんだよ! これからだよ! そう思わせてくれたのだ。
そんなことをいろいろ考えて、泣いた。
そもそも、「LOVEマシーン」が流行ったときだって、日本は不況で就職難で、お先真っ暗な雰囲気が漂っていて、世界がうらやんでるなんて本気で思えるわけがないような状況だった。 でも、開き直って、アホみたいに笑いながら、楽しくこの曲を歌ったのだ。
モー娘。が好きなわけじゃない。「LOVEマシーン」だって、特別愛着があるわけでもない。 それでも、たったワンフレーズが未来を考えるきっかけになったり、希望を持たせてくれたりする。
音楽は、それがどんなジャンルのものでも、偉大だ。 ね、TAIJI。
そして、正直なところ私はあまり普段は実感がないけれど、スポーツも同様に偉大なのだなあ。
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