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2007年10月25日(木) 昔話




数年前の話。
一度目の結婚に終止符をうち全てを取り上げられ、仕方なく車に寝泊りしながら、コインランドリーアンドシャワーなどという施設を頻繁に利用し、生活の為にちょっとしたスナックを手伝っていた頃だった。

店が始まる前のひんやりした空気の中、一人で準備をしていた私に彼女は突然「こんばんは」と声を掛けた。
続けて、驚いている私に彼女は
「注文するの忘れちゃったので氷をかしてください」と言った。
テナントビルにはたくさんスナックやバーが集まっていて、隣近所で酒のボトルや氷の貸し借りが頻繁に行われていた。

「私のこと覚えてます?」
「いや全然。会ったことある?あ。氷どーぞ」
業務用の袋詰めの氷をビニール製の買い物袋に入れて手渡した。
「ありがとう。氷は明日返しますね。今夜店終わったら○○ってバーで待ってますから」

突然の誘いだった。
私が答える前に彼女は店を出て行った。


少し落ち込んでみたり、もう一度自分の力だけでやり直したいと考えたり、いろいろなことがぐるぐるしていて仕事終わりにはいつも酒を飲んでいた。
偶然か彼女が誘った店は知り合いが経営していて私がいつも通っている店だった。

彼女の名前も聞いてない。
いつもの店だし行ってみるかという気持ちになっていた。




「もう〜何言ってんのよ〜。そんなこと言わないで〜。またきてね〜。」
店を閉めて外に出ると彼女が客を送り出していた。
私に気付き駆け寄ってきた彼女は小声で「先に行って待っててね。場所分かるでしょ?○○さん」と私の名前を呼んだ。

思い出せない。
仕方なく私も思いっきりの笑顔で
「待ってるよ」って答えていた。


勤めていたテナントビルから裏のビルの間を抜けるとその店は目の前にあった。
マスターといつものようにどうでもいい話(報告?)をし、2杯目の酒を飲み干したと同時に彼女は現れた。


私が彼女のことを覚えていないことを責められる形になっていたが会話はかなり盛り上がった。
しかし思い出せない。「前世で恋人同士だったのよ」とごまかし彼女も教えてくれない。
マスターも彼女のことは知らない様子だった。
彼女からは陳腐な源氏名しか聞きだすことはできなかった。




「行くとこなければウチに来れば」
そんな甘い言葉に誘われ、コインランドリーアンドシャワーとかいう施設を利用するのにも嫌気がさしていたし、フカフカの布団で眠りたいと思い始めていた私はそのまま彼女について行った。

表札を探したが無い。名前を知ろうと躍起になっていたが、次第に酔いが回ってきてそんなことはどうでもよくなっていた。

部屋に入ると彼女はくるりと振り返り私の首に腕を回した。



つづく

…のか?












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