レモンとグレープフルーツ

2002年03月10日(日)

午前4時に寝ようとも、朝はそれぞれにやってくる。
午前10時からの用事のために布団を這い出し、いつもどおり15分遅刻で駆けつけた。

その用事も結局自分の手には負えず、バイトに行くと言う友人を駅まで送って帰宅。
昼食をご馳走になりに行っただけのような。

3月とも思えない暖かな陽気。睡眠不足も相まって、しばらくは睡魔の猛攻が続く。
時計はまだ2時さえ指していなかった。ここで寝るのはもったいない。無理矢理意識を取り戻して、近所のスーパーにふらふらと脚を運ばせた。

そこに。

花粉症用のマスクごしに、ほのかに鼻孔をくすぐるものがあった。
思わずマスクをはずし眼鏡をとった。わずかにぼやけていた視界が元に戻る。
手のひらにその重さを主張する球体。つまり、グレープフルーツ。

何故か郷愁に駆られ、もう一度、今度はもっと近くでその匂いを嗅いだ。
ふと宣伝文句に目が止まった。
「テレビ番組で紹介!」
あぁ。
匂いは変わらなかったが、郷愁はどこかに消えた。

結局ひとつだけ買うことにした。
帰り道、洋書店があったら置いてってやろうとも思ったが、
本屋さえ見つからないまま家に着いてしまった。

つまるところ、今は『檸檬』の時代とは違うのだと。
梶井基次郎の時代とは違うのだと。
そんなことをなんとなく思った。

31の若さで逝去した彼は未来をどう考えていたのだろうと。
頭の片隅で思った。

レモンとグレープフルーツを。20世紀初頭と21世紀初頭を。
心のどこかで思った。




食べようと思い半分に切ったら鮮やかな赤色が目に入った。
うわ。そもそもこれ、ルビーグレープフルーツじゃんか。


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