夢幻泡影
夢幻泡影
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2005年06月17日(金) ベンチ




郊外の小高い丘にある小さな公園

入り口のそばにちいさなブランコがひとつだけあり

子供が遊ぶには少し物足りないが

いくつかの花壇には季節ごとの花が植えられ

周りの木々はほどよく茂り

木陰にはいくつか木製のベンチがあり

散歩の途中で立ち寄るにはぴったりの場所だった









初夏のある昼下がり

日曜日にしては人影もなく

とても静かな日だった

若い男女が一組、この公園にやってきた

どちらも大学生くらいだろか

公園を半周したあたりで二人はベンチに腰掛けて話はじめた

まだ知り合って間もないようだ

お互い遠慮がちに、時には言い慣れないような敬語まじりの話し方である

二人の間にまだ人がひとり座れそうなほど空いていることが

初々しさを感じさせた




翌週もふたりはやってきた

少しは打ち解けた感じを漂わせていたが

恋に慣れた男女の駆け引きのあるような

話し方ではなかった




今日もまた同じベンチに座り話をしはじめた

他愛のないことだったが

時に真剣に、時に笑い合いながら




ふと目が合ったその時だった

お互いの顔がとても近くにある事に気がついた

二人ともこの前と同じように間をあけて座ったつもりだった

お互いの話に耳を傾けるうちに寄ってしまったのかな

そう思い、その時はそれ以上気にしなかった

数日後も二人はやってきた

同じベンチ、同じように座り

二人ともがこの時間がずっと続けばいいなと思いながら





「あっ」

二人同時の声だった

いつの間にか二人は寄り添うほど近くに座っていた


”寄っていったのかな?”

相手が”寄ってきたのかな”ではなく

自分が寄ってしまったのかなと思う恥じらいの方が強く

また二人同時に

「ごめん」「ごめんなさい」と言い

離れようとしたができなかった

なぜなら、離れようとしても

離れて座れるほどのスペースがなくなっているのだ

あたかも初めから

”二人しか座れないベンチ”のように





「不思議なベンチだね」

「うん、とってもね」




けれど二人にはそんなことはどうでもいいように思えた

淡い恋心が愛に変わった瞬間だった









やがて夕焼けも夜空に包み込まれようとする時になって

二人は腰をあげた

歩き出すと自然に腕をとり並んで歩き始めた

振り向くとそのベンチは他のベンチと変わらぬ形のまま

夕闇に包まれはじめていた





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