* たいよう暦*
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むかあし、むかし。 私は自分のかわった名字がとってもいやだった。 宿泊予約やお店の予約の電話をかけても、必ず聞き返される。 銀行でも、お店でも、聞き返される。 友人宅に電話をかけても、聞き返される。 それゆえ夢は「ごくフツーの名字の人と結婚して、ごくフツーの名前になる」ことだった。
今日、婚姻届というものを出した。 書いているうちに、とっても自分の名前が”おしく”なった。 もう二度とこの名前が使えない。 もう二度と誰もこの名前で呼んでくれない。 今までの自分としての生き方を全部くつがえされるようで、新しい名前は慣れなくてすうすうして心もとなくて、なんとも言えない気持ちになった。
新しい名字、新しい名前にあこがれていたのが、うそみたい。 自分の名前がなくなったことが、悲しい。 新しい名前をすんなり受け入れられなかったことに、ちょっと驚きもあった。
自分の名前を何度か紙に書いて 「なくなっちゃったんだなあ〜」とうじうじしていたら横の人がひとこと。
「その名前はなくなるわけちゃうで。その名前があって、新しい名前があるんやで」
そっか、もう使えなくても、 もう誰も呼んでくれなくても、 私は私で、この名前はこの名前で。 なくなったわけじゃなくって、この名前があったからこそ新しい名前があるのかあ。
そう思うと、ちょっとうじうじした気持ちがどっかいった。 でも、まだちょっと寂しいけれど。 でも、ちょっと気持ちがかわって、新しい名前とも素直に仲良くできそうだ。 気持ちを切り替えてくれて、どうも、ありがと。 もう二度と誰も呼んでくれないフルネーム。 その名前にも、ありがと。
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