最近手に入れた大事なモノが意外にもアッサリ捨てられて ずっと昔からあるどうでもいいモノが最後まで生き残っていたりする。 必要なモノとそうでないモノを判別するフィルターが年齢とともに変っていく証拠。 歳を取るごとに、そのフィルターは粗く大きな網の目になっていくのだろう。 今となっては『なんでこんなモノ大事にしまっていたのだろう?』と思えるモノが それをしまった当時の自分にとっては、かけがえのない大切なモノだったりするのだ。
先日の大規模部屋掃除をした時に思い切っていろんなモノを捨てた。 かなりフィルターの目を緩くして『迷ったら捨てる』くらいの勢いでポイポイ捨てた。 懐古の情すら捨て去って、思い出を振り返る暇を与えずゴミ入れに片っ端にツッ込んだ。 そんな中、普段なら手のつけない奥まった箇所にまで手を出し、本棚の奥に眠る、とある小さな箱を手に取ったのだ。
その箱は、小〜中学生の時に集めた小物をしまいこんだ箱。 そこまでは覚えてはいたが、実際箱の中身には何があるかなんてのは当の昔に記憶に無い。 一瞬懐かしさも覚えたが、私の心は直ぐに『掃除屋』の非情な心に切り替わる。 特に躊躇もせず箱を開けた。
箱を開けた瞬間 …私の中で時が止まった。 出てきたのは、モノではなく『音』だった。
『ピロロー♪ピロリロリロピロロ〜♪』 と流れ出した、ビートルズのYesterdayのメロディ。
そうだった…。 いつの日か誰かにもらったメッセージカード、表紙を開くとメロディが流れ出すちょっとお洒落なメッセージカードだった。 カードの裏の見えない部分にセンサーが埋め込まれていて、光に反応してメロディが流れるヤツだ。 そのカードの仕組みが知りたくて、メッセージカードを分解しセンサーだけ摘出した昔の私。 そして、大切なモノを入れた箱を勝手に開けられないよう、 開けたらメロディが流れるように箱にセンサーを貼り付けて、フタを開けたら音が流れるように細工をしたのだった。
自分の仕掛けた罠に、自分が引っかかった。 そして多分、この罠に引っかかったのは恐らく私だけだろう。
涙が出た。 箱の中身ではなく、箱を開けた瞬間に流れ出たYesterdayのメロディに。 非情な大人の心の奥に仕舞い込んだ、昔の無垢で純真な心が 箱を開けた瞬間にメロディとともに溢れ出てきたのだ。
ずっと箱のフタを持ち上げたまま私はそこから動けなかった。 メロディが止み、再び時が動き出すまで。
Yesterdayが流れている間は 私の心は完全に当時の心に支配されていた。 メロディと一緒に目に映った箱の中身が…更に私の心をあの頃へ連れて行ったのだった。
正直、箱の中身はどうでもよいモノばかりだった。 全て捨てたとしても、特に問題の無いモノばかりだった。
だけど…だけど 私には捨てることが出来なかった。 もう一度フタをして…元あった本棚の奥の奥にもう一度置いた。 今の私には、あの箱の中身を精査する資格など…ない。
Yesterdayが流れる仕掛け箱。 もしかしたらこれは、誰かに勝手に開けられぬように仕掛けたのではなく 開けた未来の私に何かを伝える為に、過去の私が仕掛けた箱なのかもしれない。
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