京都秋桜
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2005年03月19日(土) 焔のついた瞳【デス種】【ハイネ夢】

 まっすぐなその瞳に強い意志が宿る瞬間を見た気がした。





 今日の講座にあのハイネ・ヴェステンフルスが来る、という噂はあっという間に広がった。何でも急のお出ましとかで。もともとは違う人が来るはずだった特殊講座だった。
 卒業生、つまりは現役軍人が来ることはそんなに珍しいことではないが、その講座をとっていない人の中に嘆く女の子が多いらしいとかなんとで。
 しかし、そんなことに一切興味のないシルバーグレイの緩やかなウェーブのかかった髪の人はスタスタと廊下を歩き、みなの噂するその講座の教室へと向かった。
 たまたまその講座を取っていたわけではない。軍人になるものとして、当然のようにスケジュールに入れていただけだった。ただ、気持ちの上では生の軍人の声が聞けるという意味で楽しみな部分もあった。
 窓側の前のほうに座る。風が気持ち良い。
 桜はまだ咲いてはいないがちらほらと莟がある。暦の上ではもうだいぶ前か春だった。

「初めまして。俺はハイネ・ヴェステンフルスだ」

 事務員らしき人に案内され、受講の最初に簡単な挨拶がされた。初めはオレンジの髪だなぁくらいしか印象には残らなかった。
 自分に実践が向いていないことは随分前から分かっていたことだった。それでも何か、プラントを守るために役に立ちたいと思った彼女はオペレーターなら自分にもできるのではないかと思っていた。
 だから、パイロットであるハイネの話は心密かに楽しみにしていた。
 実際のところ今回ハイネが来た彼女の取った講座というのはパイロットと情報工作員向けのものだった。知識が広いことは悪いことではない。オペレーター志望だからといって実践演習の講座を取ってはいけない、という規定はない。

「要するに個々の能力が高いだけじゃ駄目だ。力だけでなく……」

 深い緑の瞳が真剣に講座をする。実際戦場に出ていた人というのは言うことが違う。感心しながら彼女はハイネの話を聞く。
 シルバーグレイの髪がサラサラと風に揺れる。
 ハイネは講義をしながら生徒を見回す。パイロットと情報工作員ということだけあって、男子生徒が多いのは来る前から分かっていたことだった。しかし、その中でも少しだが女子生徒というのはいるもので。話をしながら名簿で名前などを確認していく。

「じゃぁ、そこの君」

 そう言ってハイネはたまたま視界に入った彼女を指した。彼女は静かにはい、とだけ返事をしてその場に立ち上がる。

「戦場において、一番大切なものはなんだと思う?」
「……どんな局面でも、冷静に判断できること…ですか」
「まぁ、間違いではないな。……君、どこ志望?」

 間違いではない、その言い方が彼女の勘に触る。だったら正解とは何なのか。そう聞きたかったが疑問が飛んできたので仕方なくそれに答える。

「オペレーターです」

 背筋をピンと張ってまっすぐな白桜の瞳でハイネを見て彼女は言った。

「講義、一応パイロットと情報工作員向けなんだが」
「ですが、特殊講義は配属希望に関係なくひろく受講希望者を…」
「どこにでも本音と建前はある」

 その言い方が彼女を挑発しているようにも思える。

「………」
「もう座っていいぞ」

 そう言ったハイネの顔が何故か微笑しているように思えた彼女は納得のいかないまま着席しようとする。
 不服だからといってここで反論するほど彼女も馬鹿ではない。

「あぁ最後に…」

 座りかけた彼女はかけられた言葉にふと顔を上げる。それと同時にシルバーグレイの髪の毛が艶やかに揺れた。

「スリーサイズは?」
「ぇ…あ、…って、えぇ?! ちょっ…」

 そのまま座らず、立ち上がって慌てる。危うく言いそうになった自分が恥ずかしいが何よりこんなところでそんなことを聞いてくるハイネに腹が立った。
 しかし、そんな彼女とは反対に教団に立つハイネは喉の奥で笑いをこらえようと口元に手を当てる。漏れてくる笑い声が彼女の怒りを更に増幅させる。

「あはは。冗談だよ」
「あ、あたりまえですっ!」

 真剣な表情で半ば怒るような形でハイネにそう言い放ち、彼女はその場に座った。ハイネの印象は彼女の中でマイナスに突入するほどの勢いだった。





 彼女が不機嫌なまま講習は終わった。話自体はためになったと彼女もそれは心の中で認めているが、個人としては気に入らない。
 だったら彼女がとる行動は一つだ。納得がいかないのなら、納得いくまで食いつくまで。

「『戦場において、一番大切なものはなんだと思う?』」

 目の前にいるのはオレンジの髪の人。彼女の言葉に振り返り、緑の瞳に彼女を映し出す。
 ハイネの周りにはこの講座をおそらくたまたま取っていた数名の女子がいたが、彼女はそんなことを気にはしていなかった。

「は…?」
「あなたの言葉です」

 左肩にハンドバックをかけながら彼女は自分よりも背の高いハイネを見て、ハッキリと言う。
 ハイネはまさか彼女がそんなことを言ってくるとは思わなかったので驚きながら彼女の言葉を聞く。

「あなたは先程私の答えを【間違いではない】と仰いました。では【正解】は何ですか」

 あのままでは納得がいかない。自分が間違えたことを恥だとは思わない。同じことを繰り返さなければそれは学習だから。
 しかし、間違えた後、それを間違えだと知っている人が教え導かなければ人はまた同じ間違いを繰り返す。そして、戦場ではそれだって命を落としてしまう原因にすらなる。
 だからハイネの口から聞きたいと思った。あれが【正解】でないのなら【何が】正解なのか。

「君…マーベル・ロックライ、だったね」
「はい」

 どうして名前を知っているのだろうか、とも思ったがハイネが手に持つ名簿を見ればそれも納得がいく。だから素直に返事をした。
 ハイネが体ごとこちらに向けて彼女の体を上から下まで顎に手を当てたまま見る。

「今から講習は?」
「……本日はこれが最後です」

 それが自分の質問に何か関係があるのかないのか、彼女には分からなかった。それでも答えたのは時間があればそれを説く彼の考えが分かるかもしれない、と思ったからだった。

「よしっ。模擬戦闘、するぞ」

 何故かやる気満々で、決定事項のように言われたその言葉。

「えっ…な、ちょっと……」
「答え、欲しいんだろう」

 戸惑う彼女にハイネは口端を上げながら言う。
 そう、それはまるで新しい玩具を見つけた、子供特有な無邪気で残忍な表情だった。

 彼女に拒否権は―――勿論のようになかった。





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 ヒロインデフォルト名:マーベル・ロックライ/MS通信管制を担当/緑の服/少々頭が固い/ハイネにからかわれ遊ばれる/白桜の瞳/シルバーグレイのウェーブかかった髪/第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦ではホーキンス隊/しっかり者/マニュアルは持っているが緊急事態に弱い/急展開とかで慌ててしまう

 こんな感じで。
 焔のついた瞳というのはマーベルのことです。実践で自分は役に立たなくとも他のところで頑張ろうとする彼女にはその強い意思白桜色の瞳に宿っているのではないか、と思いましてね…。

 これは私的脳内ハイネ祭期間:三月十九日〜四月六日[当方は一種間遅れでデス種放送]に書いたものです。以下ハイネ同様。


常盤燈鞠 |MAIL