2005年08月04日(木) |
3『線路上の騒乱』中編の日 |
いや、昨日は日記をサボって申し訳ない。なんとなく小説を書きつつ、ぼやぼやしていたら寝る時間になってしまったんです。まあ大して書きたいネタもなかったので書こうとしても書けなかったのでありますが。
これからは夏休みですし、バイトが決まらないと家でつらつら作業しているような夏休みになると思いますので、これからもネタがなくて更新は途切れ途切れになるかと思われますが、何分夏休みですので、ご了承下さい。
てなわけで、今日はキリのいいトコまで書けたので3『線路上の騒乱』中編(前編は7月25日の日記に)をアップしておきます。
どうもよほどの常連を除くと、日記を恒常的にチェックしている人と、小説を呼んでくれている人は結構別れているようなので、いつものハイテンションな日記を楽しみにして下さっている方には申し訳ない更新なのですが。
3『線路上の騒乱』(中編)
見つけた。 右側の崖の上で自らの召喚した大サソリ《シッカーリド》を駆るコーダは、口の中でそう呟いた。猛スピードで走る魔導列車の進行方向の先に小さな影が見える。 “召喚”で造り出された魔法生物はあたかも普通の生き物のように見えるが、その実召喚主の魔力を凝縮して創られたものである。よって召喚主と何らかの繋がりがなくては、形を維持できない。触れているのが一番だが、高度な技術を持っていれば、目の届く範囲にさえいれば繋がりを保っておくことはできる。 だから、少なくとも列車の近くにいることは分かっていた。問題はどこにいるかだが、線路の両側は切り立った崖であるため、列車の前方か後方のどちらかであると絞ることはできた。そして、来襲した四匹の大蜂の向きから、コーダは召喚主は前方にいるものと判断したのである。
目標を捕捉したコーダは、探索の為に少し抑えていたスピードを解放し思いきり走らせた。崖の下を走っている魔導列車を圧倒的な速度で引き離し、目標にどんどん近付いていく。 そして、自分の走っている崖の真下に先ほど来襲した大蜂よりも一回り大きな蜂の背に立った一人の男を捉えると、コーダは《シッカーリド》をそれに向けて跳躍させた。 そのまま行けば、大蜂ごと《シッカーリド》の腹で押し潰せたはずだが、途中で気付かれたらしく、大蜂に乗った男はひらりと《シッカーリド》をかわす。しかし、コーダは悔やむことなく、自由落下する《シッカーリド》と滞空する大蜂がすれ違った瞬間、コーダは御者席から大蜂の上に飛び移った。 大蜂に乗った男と、目が合うと同時にコーダは腰に潜ませていた曲がり短刀を抜くと、その首目掛けて振るう。ところが男は大して驚いた風でもなく、自分の短刀を抜いてそれに応じた。
「久しぶりに会った“兄”にいきなり斬り掛かるとは、御挨拶ですね」 「ニード……、やはりお前か」 短刀で鍔迫り合いをしながら、ニードと呼ばれた男は懐かし気に目を細め、コーダは厳し気に眉を潜めると、触れあったままの短刀を振払って、至近距離のまま対峙する。 「エンペルファータの騒動で貴方を見かけましたのでね、会えるのではないかと期待していましたが、それは裏切られませんでしたね」 おそらく、エンペルファータのクーデターの中、攫われたフィラレスを追って魔導レーサーと競争した時のことだ。あの時のドライバーは大ムカデ《セディビート》を召喚するための刺青を施されていた。 「あの魔導レーサーのドライバーに刺青を施したのはお前達か?」 「だったら、どうするのです? 私を殺しますか?」 肯定も否定もせずに、ニードは答える。 「いつから“一族”は訓練もしていない素人に“暗獣”を与えるようになった?」 「知ってどうするのです? 貴方はもう“一族”から抜けた身でしょう?」 再びはぐらかすような問い返しに、コーダは何も答えず、刃を持って答える。だが、その一撃にもニードはあっさりと反応して、それを受け止めた。 しかし、今度はそれでは終わらず、ニードは何気無い動作で、空いている方の手にもう一振り短刀を握ると、コーダの胸に向けて突き出す。が、コーダはそれに気付き、後方に飛んで交わす。 ところが、ここにある足場はニードの大蜂《ジェングスタフ》のみだ。コーダのとんだ先には何もない。そのまま地面に叩き付けられるものかと思いきや、折しもそこに再びコーダの《シッカーリド》が跳躍してきて彼の足場となった。
足場と距離を得たコーダは右手の親指と人さし指を直角に立てて銃の形をつくると、ニードにそれを向ける。 「光よ集え、指先に! 我が指し示すは小さな点、その先に広がるは大きな未来! 《狙撃》っ!」 魔法の発動と共に、コーダの指先から発射された光線は真直ぐにニードの心臓に向かい、ニードはそれを少ししゃがむことで、肩の上を通過させて避けた。それを見たコーダは小さな声で呟いた。 「掛かったな」 ニードを通過し、そのまま真直ぐ地面に突き刺さるか消散するかと思われた光線だったが、なんとニードの肩の上でその軌道を変え、急降下したのである。そして、ニードの足場である召喚獣《ジェングスタフ》の羽に穴を開けた。 コーダの用いる《狙撃》は低レベルの魔法であるため、放った後にも軌道を調整できるほど使い勝手のよい魔法ではない。ただ、熟練すれば放つ前に光線が描く軌道をあらかじめ設定することはできる。つまり、コーダはニードが避けることを計算しており、最初から《ジェングスタフ》を狙っていたのだ。
空中での体勢を保つために非常に重要な羽に穴を開けられたため、ニードの乗る大蜂はグラリと揺れ、召喚主も落ちないためにはバランスを崩さないわけにはいかなかった。 一方コーダの駆る《シッカーリド》は滞空能力がないため、一度近くの崖を使って、三角飛びの容量で跳ねると再び《ジェングスタンフ》に肉迫する。ニードが体勢を崩している隙を狙って、コーダは再度《シッカーリド》から離れ、《ジェングスタフ》に飛び乗った。 両手に曲げ短刀を構え、ニードに斬り掛かるコーダに、「くっ……ふっ……!」と、今度はさすがに余裕とは行かず、ニードは必至でコーダの繰り出す攻撃を捌く。 直に《狙撃》によって、《ジェングスタフ》の羽に開けられた穴が修復され、大蜂が体勢を取り戻しても、コーダが闘いの流れを握っていることは覆らなかった。 防戦一方のニードにコーダが話し掛ける。 「列車を襲わせている“囮”を消してもらおうか」 コーダはいくらか《ジェングスタフ》の能力を知っている。“囮蜂”はその一つで、本体とは違うが、外見は同じ四匹の大蜂を出す能力だ。囮蜂は、攻撃は単調だが、飛行能力、回避能力は本体のそれに近く、また召喚主をどうにかするか、四匹同時に倒さない限り、一匹倒してもまた分裂して増えてしまうという非常に厄介な能力が付いている。 リク達のことだから単調な囮蜂にやられることはないと思うが、攻撃の当てにくい四匹の囮蜂を、周りを巻き込まずに同時に仕留めるのは難しい。だが、自分がここで召喚主であるニードをどうにかすれば、確実にあの囮蜂は始末できる。 「それは、出来ない相談ですね」 「続けても無駄だ。あの囮蜂は俺の仲間が相手をしている。あの実力だったら、退けるのは無理でもフォートアリントンに付くまで守り切ることは造作もない、お前も分かっているはずだが?」 先ほどの言動と、持ち前の情報集収能力からして、彼等はエンペルファータで起きたクーデターの顛末を全て知っているはずだ。それこそ、エンペルファータの市民も知り得ないレベルで。 「そもそも、俺が乗っていると知っていて、列車にあんな脆弱な存在を寄越して何をしようとした? “一族”を抜けた俺の抹殺か? それとも----」
「嘆かわしいことです」 コーダの質問を遮って、ニードは漏らす。小さな声だったが、重なる剣戟の中でもその言葉は不思議とコーダの耳に届いた。 「そこまで分析できておきながら、まだ気付かないとは。私達のやり方はよく御存じのはずでしょうに」 その言葉に、コーダは思わず攻撃する手を止める。攻撃する余裕が生まれたのにも関わらず、ニードはコーダに対して攻撃する素振りはない。 「ちなみに、囮は先ほど消滅しました。貴方の仲間とやらが上手く立ち回ったようですね」 しかしその言葉に、コーダが安堵することはなかった。ニードが漏らしたその前の台詞が頭の中を駆け巡り、ついでに答えを出していたからである。呆然としたのも束の間、彼は、慌てて目の焦点をニードに合わせて言った。 「陽動……!?」 「そう、闇を深くするには眩しい光を使えばいい。貴方は少し学習した方がいいですよ? エンペルファータでも似たような手にひっかかっていたでしょう?」 「本当の目的は何だ!?」 再度、探検を構えて詰め寄るが、ニードが動じることはなく答えた。 「言えると思いますか? もうどうにもならないので教えて差し上げても構いませんが、私から聞くより直接見た方がいいと思いますよ?」 一言目の時点で、コーダは既に踵を返し、空中にその身を投げ出していた。そこに先ほどと同じく《シッカーリド》が飛び上がってきて、コーダを迎える。彼はもう一度ニードを振り返った。列車に戻る彼を邪魔立てする気はないらしいが、目が合った時、ニードは不敵な笑みを浮かべた口を動かす。 高速で移動しているため、至近距離にいない限りその声は届かないが、読唇術の心得もあるコーダは、彼の言葉が読み取れた。
----フォートアリントンで、また会いましょう。
web拍手レス(最近テンションがあがりにくいのはきっと暑さのせいだ/苦笑)
>「・・・野郎共ってアンタ(汗)。あたしゃ野郎ではないw」
ノリですよ、ノリ。ああいうノリの中では「野郎共」は「紳士淑女の皆々様」という意味になるのです。
>「猫たん亡くなられたそうで(遅)残念だ。」
ええ、残念です。生きるにはあまりにも弱く、死ぬには余りにも幼すぎました。
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