| 2005年07月09日(土) |
“まほゆめ”第2話(途中まで)の日 |
2『線路上の波瀾』
車窓に融けた景色が流れて行く。 心地よい振動に揺られ、 夢現のまま、旅人は運ばれる。
夢方面行きの列車は走る 走る。 終点からは彼自身の足で歩かなければ、 レールを敷いて行かなければならない。
せめてそれまでは夢現のままで。
エンペルファータからフォートアリントンに掛けて南北に展開するエンペルファータ山脈、自然に形成された地形とは信じ難いくらい綺麗に山々が二つに並列しており、その間を走るのがエンペルファータとフォートアリントン間を走る魔導列車の線路である。 その山脈の一角にある小高く切り立った崖の上に、男が一人立っていた。砂色の衣を身に纏っており、肌はほとんど露出していないが、唯一はみ出している手や深々と被ったフードの陰に覗く肌は艶のある褐色をしている。 山脈を通り抜ける風に衣をはためかせながら南側に手を伸ばしていた彼だったが、やがてすっと細く鋭い目を開け、手を伸ばした方向を睨み付ける。 その視線の先には黒い影が見え、それが近付くにつれて、それが羽虫であり、蜂であることがだんだんと分かってくる。耳にもその羽音が聞こえはじめると、まばたき一つする間に、彼の伸ばした右手の指先でぴたりと止まる。 その蜂の大きさは尋常ではなく、体長だけでも人の二倍は軽く超える。人一人くらいなら軽く乗せて運べそうだ。
「相変わらずうるさい召喚獣ネ、ニード」 同じく砂色の衣に身を固め、何の苦もなく崖に登ってきた女がからかいの眼差しをニードと呼ばれた男に向ける。 「その代わりに得られた能力は幅広く、強力です。これくらいの欠点には目をつぶるべきでしょう」 ニードは女にそう答えると、“大蜂”を魔力に分解し、自分の身へと回収する。 “召喚”は文字どおりの実在する生物を自分の元に呼び出す魔法ではない。魔導士が自分の魔力を高い制御力をもって凝縮し、具現化するものである。今、ニードがやったのはその逆である。 もちろんその召喚獣の大きさに比例し、使用する魔力の量も半端ではない。かなりの熟練が必要だが、そうしてまた凝縮した魔力を分解し、回収することで、一度の召喚で消費するのは必要最低限、召喚獣を構成もしくは分解するための魔力だけとなる。
「もうすぐ目標が下を通ります。私が陽動を引き受けますから、貴女は」 「自分のやることくらいは把握してるワ。あたしが心配なのはアンタなんだけどネ」 つり気味の目に妖しい光を発した女の言葉に、ニードは眉を上げて少しばかりの同様を見せるがすぐに納得する。 「そうですね。私も今、彼に会ったらどういった心境変化が起こるか分かりません。精々顔を合わせないように闘いますよ」 「あらま、素直だコト。ここまで聞き分けいいのも男として考えものだわネ」 「別に貴女に色目を使うつもりはありませんから問題ありません」 短く軽口の応酬をして視線をあわせると、女はこくりと一つ頷いて崖から線路のあるふもとへと飛び跳ねるように降りていく。
それを見守りながら、ニードは右手を水平に上げて「来い、《ジェングスタフ》」と、呼び掛ける、すると彼の手の先に先ほどの巨大な蜂が羽音を轟かせながらニードの目の前に現れた。 彼はその背中に乗ると、線路上空に移動し、高度をあげる。広くなっていく視界の先にとうとう目標----線路上をこちらに向かって走ってくる魔導列車が見える。 先のエンペルファータの一件で一部始終をみていた密偵の報告によると、一族を抜けた者が見つかったそうだ。神出鬼没で居場所が掴めなかったが、一族も手を貸したあの騒動に、彼も巻き込まれていたらしい。 今はあの魔導列車に乗っているということだった。今回の彼等の任務には“本来の目的”とは別にこの裏切り者を捕縛、もしくは抹殺することが付け加えられていた。その抹殺指令を、目標の実の兄である自分を指名するとはなんとも主人らしい判断だと思った。 「果たしてこの胸に沸き上がるのは、恨みか情けか。……どちらにしろ貴方にはそう簡単に死んでほしくないですね、コーダ」
*****************************
かたん。 突然耳に入ってきた物音に、リクはパッと目を開いた。眩しく開けた視界の中にいたのは革製の軽甲冑を着込み、愛用のスピアの手入れをしているらしい金髪の女だった。 「……ジェシカ」 「申し訳ありません、リク様。できる限り静かにしていたつもりなのですが、起こしてしまいましたか」 「いや、それはいいんだが」 様子からみて、大分前から続けていたようだ、たまたま意識が覚醒してきたところに物音が耳に入っただけだろう。心持ち寝かせていた椅子の背もたれを元に戻そうと身じろぎをしたとき、ジェシカがリクを止める。 「ああ、動かない方がいいですよ?」 何やら楽し気な目を向けているジェシカの視線の先を辿るまでもなく、リクは彼女が何をいいたいのか分かった。その左半身に重みを感じていたからだ。彼に体重を預けるようにして一人の少女が眠っていた。 安らかに目を閉じている整った顔に長い黒髪が一筋鼻に掛かっており、寝息に合わせて小さく揺れている。いつも不安そうに顔を俯け、表情も頼りな気でどちらかというと保護欲を掻き立てるフィラレスだが、こうして顔を上げているところを見ると、そういった感情抜きにどきりとさせられた。 思わず見とれてしまったが、リクはハッとなってジェシカに視線を写した。何も言わないが、先ほどからたたえている笑みが若干大きくなっている。 「………今何時だ?」 取り敢えず話題を変えてみるが、ジェシカは時計には目を落としたものの表情は笑ったままだ。 「もうすぐ赤の刻(午後三時)ですね、もう半刻(一時間半)もすればフォートアリントンですよ」 「やっとフォートアリントンかァ、何か長かったなァ」
魔導列車による“魔導都市”エンペルファータから“自由都市”フォートアリントンまでの道程は三泊四日である。とは言ってもこれは寝台列車ではなく夜は宿場駅に停まって、客は鉄道会社が用意した宿に泊まるのだ。もちろん宿場駅はきちんとした街になっており、そこから途中下車して山脈の外に出ることもできる。 そんなわけで客はずっと窮屈な思いをせずに済むのだが、やはりその四日間の日中ほとんどは車中で過ごすことになり、当然時間を潰すのに苦労するわけだ。一行はめいめい好きなことをして持て余した時間を過ごしている。 リクは専ら読書をしていた。この魔導列車の旅に限らず、時間がある時はリクはいつも本を読んでいる。もちろん荷物になるので、買った本は読み終われば直ぐに売って別の本を買い、常時二、三冊は持ち歩く。フィラレスもそれに付き合って、リクの読んでいない本を読んでいた。 ジェシカは、専ら軽甲冑や槍の手入れに熱心な様子だ。こうして纏まった時間があるのは久しぶりらしく徹底的に掃除をしているらしい。もちろんそれだけではなく、屋上デッキに出て軽くトレーニングも行っていた。
「コーダはサロンか?」 「ええ、先ほど、飲み物を手に入れるために寄りましたが、何やら女性の団体と盛り上がっているようです」 何しろ終点まで四日間の長距離列車であるため、乗客に快適な旅を提供するために列車内には様々な施設が用意されている。サロンもその一つで、軽食と飲み物が用意されており、乗客同士の交流を主な目的とするものだ。夜になれば酒も出す。 コーダは便利屋という職業上、情報収集のためにそういったいろいろな人間が顔を出す場所を好み、また慣れている。さらに存外軟派で女好きであるため、行く先々で女性との交流は欠かさない。 「カーエスは?」 「先程、屋上デッキに行ってくると席を離れました」 「ふうん、アイツが一人でいるのも珍しいな」 カーエスは寂しがり屋というわけではないが、どちらかといえば誰かと一緒にいることを好む印象がある。実際、カーエスが一人でいるのをあまり見たことがない。
「本当にそうでしょうか?」 数瞬の沈黙で、会話が途切れたかと思いきや、ジェシカが聞き返してくる。 「ん? アイツが一人でいるのが珍しいって話か?」 ジェシカは頷き、エンペルファータで一緒にいた時に感じたことを話した。 カーエスは喜怒哀楽が激しいように見えるが、それは人前でだけで、一人でいる時は嘘のように無表情だ。それが彼本来の性格から来るものであるとすると、普段見ているカーエスは偽りということになる。 自分達は信頼のおける仲間同士であるはずなのに、どうして偽るようなことをするのだろうか、とジェシカは言った。 「んー、確かにそれはあるかもな」 ファトルエルでカーエスと闘った時のカーエスも無表情で、いつも丸出しだった隙というものがまるで見えなかった。 「どうして、彼は私達に素顔を見せてくれないのでしょうか?」 「そりゃ、アイツの気遣いだろ」と、少し不安の混じった表情で尋ねるジェシカに、リクは笑いかけて答えた。 「よく考えてみろよ、アイツがいなかったら俺達の旅はどうなってたと思う? そりゃ信頼し合ってるとは言っても、軽口は叩きあったりしねぇだろ?」 リク自身はあまり認めたくないのだが、ジェシカとコーダの二人は仲間というより従者のようなつもりでリクに接している。また、フィラレスもリクに恋心を抱いており、好かれるよりもまず嫌われたくない心構えでいるためか、リクに対して遠慮がちに構えている。 こうして考えてみると、リクを「お前」と呼び、対等に接しているのはカーエスだけなのだ。 同時に彼はジェシカ達リク以外の面々にも全く同じ態度をとるので、リクとジェシカ達はカーエスを中心に冗談を言って盛り上がることができるのだ。 「あいつはきっと分かってやってるんじゃねぇかな。自分が間に入って、あんな風に振る舞えば俺達五人が楽しく旅ができるってことがさ」 そのため、一人の時、自分の事しか考えられない時、などは周りを気遣うことがないので、そういった面が影を潜めるのはないのだろうか、とリクは付け加えた。 「だから、あれは別に俺達のことを騙してるんじゃなくて、俺達のことを楽しませてくれてるんじゃねぇか」 「……それほど思慮深いタイプには見えませんが」 少々疑わし気にジェシカが返すと、リクはくっくっ、と押し殺した笑いを漏らした。 「全くだ。周りを気遣っている、というより、自分が楽しく過ごせる雰囲気、空間を自分で作るにはどうしたらいいか直感的に知ってるんだろうな」 一人の時ならともかく、五人もの仲間が集まって旅をしている状況で、遠慮に満ちた言葉のやり取りが交わされるのはたまったものではないのだろう。 「素の人格なんて、一つとは限らねぇし、別に無理して演じてるわけでもなさそうなんだから、あれもまぁ素のカーエスじゃねぇのか」 「……そうですね、そうかもしれません」 納得はしたものの、一応は疑問の余地アリと言った表情で、ジェシカは頷いた。
ふと、左肩が軽くなった。リクが思わず目をやると、目を覚ましたフィラレスが寝ぼけ眼で身を起こしている。だんだんと目を開いていき、自分を注視しているジェシカ、そして今まで自分が密着していたらしいリクに視線を合わせたところで、夕焼けを浴びたように真っ赤になった。 リクは、自由になった左手をフィラレスの頭に乗せて言う。 「気にすんな、俺としては得したような気分だしな。ところで、これからカーエスに会いに屋上デッキに来るんだが、一緒に来るか?」 立ち上がったリクにフィラレスもこくりと頷いて後に続く。リクはジェシカにも視線を送るが、ジェシカはまた意味ありげな微少を浮かべて答えた。 「一応コーダに行き先を告げてから参ります」 明らかに言外で、二人きりの邪魔はいたしませんと告げている。 どんな会話が会ったのかしらないが、エンペルファータにてしばらく女同士で部屋を共有して以来、ジェシカは積極的にフィラレスの恋を応援しているようだ。 考えてみると、以前所属していたエンペルファータ魔導騎士団にはジェシカ以外に女性はいなかっただろうから、フィラレスは貴重な同性の友人なのだろう。妹のように世話を焼くのがどうにも楽しくて仕方がないらしい。 フィラレスのような可憐な少女に好かれているのは、リクとしてはまんざらでもないのだが、意図的にくっつけられるとなるとどうしても反発心が生まれてくる。だが、文句を言ってもとぼけられるだけなので、そういうわけにもいかない。 「……分かった。先に行ってる」 何となく、敗北感を感じつつ、リクはフィラレスと連れ立って席を後にした。
昨日日記サボったのは大してネタがなかったのと、これに頭を絞るくらいなら小説に頭絞ったほうがいいかな、と思ったからであります。 小説更新されて日記が書かれないのと、日記毎日更新で小説の更新がおくれるの、どっちがいいですか、みたいな。 サイト自体の訪問者数の方が多いんだから、多数決すれば前者でしょうか。日記読んで下さってる皆さんはどうでしょうかね。
今日も一日頑張ってました。キリが悪いのでここには出してませんが、まだもう少し先まで書いています。 最終的に10000字超えるかも知れません。
まだ二話なのに。
……長編を書いている方は非常に同意していただけるかと思うのですが、長い話の場合って、書き出しが非常に難しいんですよ。まだ後の展開がロクに決まってない状態で書くものだから、ヘタをすると、書きたいと思っている展開を外してしまいかねませんので。 今日公開した部分でもいかにも陰謀ありマスって感じの怪しい二人組のシーンでも、特に女性の方(名前未定)の設定でまだ揺らぐところがありますからねー。
去年年末の第二部終了へのスパートもその後の展開が固まり切ってたからだと思うんですよねー。
あと、文体が結構変化してます。前までは台詞と字の文の間に一行分のスペースを開けていたのですが、今回それがほとんどないですよねー。 今までネット用ということで、できるだけ改行を入れて読み易くしていたのですが、今年の春になって電撃の投稿用小説を書いていた影響か、ネット用の小説の書き方忘れてます。
あ、明日、新章公開できるようにガンバリマス……(汗)。
web拍手レス(第二部から地の文が異様に増えているのは『カーマリー地方教会特務課の事件簿』の影響を受けてのことだったりします)
>「それはそうだけど、テルモたんのために掃除だよw ホントにきゃわいいよねぇ♪」
家の中で暴れ回り、出してる間気を抜けない猫のためにそこまで出来ません(苦笑)。特に観葉植物はかなりの危機に瀕しており、最近ではテーブルの上に登るようになりました。 よってエリーたんの聞き分けのよさと比べられて我が家のテルモの扱いはエリーたんに格段に劣ります。
ちなみに最近の家族の話題ではテルモのお腹。姿勢によっては目立ちませんが、結構お腹出てるんですよね。幼児体型ってことで一応の結論はでているのですが(笑)
>「満足のできる就職活動の結末 ですか……自己売り込み力の保持、人生目標の形成とそのプロセスの明示、それらをできたとき成功はつかめるでしょう」
ごもっとも。就職ガイダンスでもそんな説明がありました。曰く、今の若者には目標や夢がない、って話です。 最近、悩んでるのが「小説家になる」という夢を就職活動において公表するかどうか、ですね。万が一プロになられでもしたら会社を辞めるかもしれない、とか考えられて採用されないかもしれない……。 そこ、「要らん心配だ」とか言わない(笑)。
自己売り込み力の中に入るのですが、自分の雰囲気の演出っていうのも結構重要なんだと思うことがあります。
しっかりとした姿勢、すっきりとした態度、はっきりとした発言。
些細なことでしょうが、意外と重要なことだと思います。面接官だって、履歴書やエントリーシートの志望理由、もしくは面接中の応答内要ばかり注意しているわけではなく、答える時の態度などでその人の性格を見極めるんじゃないでしょうか。
それから情報収集ですね。如何に僕の優れた資質(ツッコミ不可)を持って就職を勝ち得たとしても、入った職場が最悪じゃ、納得なんて出来ません。いくらでも、イヤな話は聞きます。ねぇ、棗さん?(あれから職場環境の方はどうなりました?) 上司の性格だとか、職場の雰囲気などはある程度、同じ会社でも部や課によってまちまちですで、そんな細かいところまではなかなか知り得ないので、くじ引き的要素はあるのですが、それでもできるだけその業界、その会社の研究をすることはそういった不幸をある程度まで防げますし、面接の際にも、研究によって得た知識が役に立つと聞きます。
実際のところはこれからなので、分かりませんが精一杯頑張ってみようと思います。
|
|