言の葉孝

2005年06月18日(土) 『Dクラッカーズ』書評の日

 今日やったこと。

1、借りっ放しで存在忘れてた“忍者ツールズ”のアクセス解析をつけた。

2、学校に行って、印刷所から上がってきた『オクト』(サークルで作っているショボい情報誌)の搬入を手伝た。

3、夕食でカツオのたたきを食べた(←刻みにんにくがグッド)。それと軟骨の唐揚げも美味しかった。

 そ れ だ け !

 あ、一つだけ有意義っぽいなことがあった。ゼミでの個人研究のために読んでいた『英語支配の構造』(津田幸男 著/第三書館)を読み終えた。
 なんか順番が回ってきてしまったので今度の金曜日に発表しなくちゃいけないんで読んでたんですけど、何か先生が「七月一日にブックレポート提出なー♪」とか言ったので、こっちはそっちにまわして、とりあえず今週は大英帝国の領土拡大と基本的な支配政策を調べてみます。




web拍手レス

>「駄目ですW」

 ……? 何のことだろう……(昨日の日記を見て)ああ、昨日のweb拍手コメントのことでしたか。
 でも、みんなその方が助かるじゃないですか(笑)。降水量は安定しますし、それでいて昼間は雨で煩わされることもありませんし、JRがあっさりダイヤ乱すこともありませんし。ホント雨に弱いんですよね、あの会社。




警告:この感想は『Dクラッカーズ』(著:あざの耕平/富士見ミステリー文庫)のネタバレを多分に含みます。むしろ著作権に触れるんじゃないかってくらいいろいろ書いています。そのため、同作を未読の方が読むのは非常にお勧め出来ませんのでご了承下さい。

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 このシリーズを通読するのは二度目でした。たまたま図書館で全10巻(短編含む)揃っているのを目にしまして、思わず借りたわけですが。いやこれがまた中々新鮮に物語を楽しませていただきました。

1、世界観に込められたミステリー

 この作品は富士見ミステリー文庫第一弾の作品なのですが、そう銘打ってあるからには謎がなければ始まりません。
 とはいっても、一見不可能、もしくは不可解な事件があって、探偵役がその謎を解いて犯人を暴くというような本格ミステリーではないのですが、このシリーズの場合は、世界観そのものに謎があるのです。

 1巻では『カプセル』と呼ばれるドラッグと主人公・物部景の関係、そして「飲めば悪魔が現れて願いごとを叶える」という噂の正体。2巻ではカプセルを扱う組織『セルネット』に関する謎。
 3、4巻では更に核心に迫ってセルネットを束ねる『女王』の正体、そして創始者・執行細胞(ファーストセル)と、その目的。
 そして5巻にてセルネットと決着を着けた後、取り戻した日常の中であらわれる異変。地下に潜って、密かに活動していた執行細胞と女王が達成した彼等の『建国』。

 ようするに、なぜカプセルが存在するのか。悪魔とは何なのか。その元凶である者達の狙いは何なのか、ですね。特に『女王』の正体についての謎は非常に秀逸であると思いました。

 謎っていうのは、伏線と似たようなものなんですけど(ていうか、同じ?)、例えばクイズ番組で問題を出した後、せめて答えを見るまではテレビの前から離れられないような、そういう読者に働く引力を発揮するんですね。ま、残念ながら、本格的に謎を全面に出しているわけではないので、そういう効果はこのシリーズには見られなかったのですが、ともかく、この謎が『Dクラッカーズ』の大きな要素であることは間違いありません。


2、斬新だが王道を離れないキャラクター設定

 主人公=ジャンキーというライトノベルにしては中々奇抜な設定の物部景。
 学校では「根暗で無愛想」としか評されないが、実は、『カプセル』と悪魔の飛び交うアンダーグラウンドでは『ウィザード』と呼ばれ、二大勢力『セルネット』『DD』に一目置かれている一匹狼の悪魔使い、という秘密の変身ヒーローのようなカッコいい設定は結構オーソドックスだったりします。
 こういう娯楽小説で、まず必要なのが読者に主人公への憧れを抱かせる事だと思います。それで主人公が次にどう動くか楽しみになり、憧れの主人公に感情移入して一体化することによって、物語に引き込むわけです。

 ヒロインの姫木梓は景の幼馴染み、という一見王道ど真ん中の設定です。が、一つ特異な点は幼馴染みといってもずっと一緒にいたのではなく、梓は7年ものあいだアメリカで暮らして帰ってきたばかり。そしてその間に記憶の中の幼馴染みとは全然違う景と再開するところからストーリーははじまります。
 この幼馴染みは、アメリカ仕込みで護身術等、格闘の心得があり、ジャンキーの不良や果ては悪魔相手に素手で立ち向かう女傑なのですが、それだけに時々見せる弱さが非常に女の子らしいです。

 対照的におしとやかと思いきや、自らの意思を何としても貫く強さを持ったのが海野千絵。『実践捜査研究会』というものを立ち上げ、実際にアンダーグラウンドに潜り込んでは不良達を摘発するという、自信がある時は危険に対する恐怖を完全に忘れる少女。
 進む時は一直線なんですけど、たまに立ち止まると自己嫌悪に陥ったりするところもあるっていう設定は人間味があっていいです。

 水原勇司は第一印象、第二印象がケーハクなんですけど実は『ウィザード』である景の相棒を伝える情報屋さん。千絵ほどの頭のよさはないですけど、ちゃんと危険を察知してそれを避けることのできる感覚はもっているという結構マトモなキャラ。
 こういう戦闘力がない男性キャラって、非常に扱いにくいんですけど、このシリーズでは非常に目立っていました。多分お兄さんの設定がなくてもキャラは十分立っていたと思います。

 こんな風に余りにマンガ然とした完璧なキャラじゃなくて、人間味のあるキャラクター作り、その扱い方が共に上手い。世界設定とキャラクター設定は物語の根幹を成すものですから、逆にこれさえしっかりしていれば、ある程度の質は保証されているようなものです。
 また、キャラの描写の仕方も、なかなか面白いです。例えば、この作品は6巻まで主人公である景の視点で書いたシーンがほとんどありません。謎に満ちた存在である『ウィザード』を主観的に描くのはまあ無理がありましたからね。その分、主観的な視点で描いた時は思いっきり『物部景』っていう感じがして元々二面性のあるキャラに減り張りがついていいんです。


3、展開

 1、2巻では、景と梓の関係がまだ遠く(幼馴染みなのに)、『ウィザード』は要所要所でしか出てこないので、ストーリーのメインは“実践捜査研究会”による前述の世界観のミステリーを解くための話になります。

 3〜5巻は、セルネットとの決着編、ですかね。景と梓の関係が深まって行く中、3巻のラストで一気に雰囲気が沈み、4巻半ば、梓が景への想いに気付き、景の梓への想いに気付いた時から巻き返しが始まるんですけど、4巻終わりが凄く盛り上がって、よかったです。
 ライバルキャラに甲斐氷太っていうのがいるんですけど、性格も剛胆で無茶苦茶なら強さも剛胆で無茶苦茶。それが4巻終わりで主人公グループに合流して共闘することになるんですけど、その展開が凄く“くる”んです。5巻でもベリアルと一騎討ちする場面があるし、主人公の他にもう一人、主人公以外には絶対に負けないキャラってのは必要だと思います。

 6巻ではセルネットと決着して景と梓が日常にもどるわけですが、元々日常の住人の梓や千絵、まあ両方に対応している水原なんかはそれなりに上手くやるわけですが、ずっとアンダーグラウンドの方にどっぷり漬かっていた景はアンダーグラウンドの世界と、カプセルの後遺症から抜け出すのに苦労するわけですが、ライトノベルは基本的に“非日常”を描くのでたまには平時(笑)の描写が凄く目立つんですよね。でも好きですよ、日常の風景。
 で、日常が引き裂かれて、7巻目で少し雰囲気が落ち込むのですが、普通と違っているのは「絶望に打ちひしがれている」という落ち込み方ではなく、とある事情で「モチベーションを無くしている」という落ち込みかたなんですね。とある事情にひっかからなかった千絵のみが孤軍奮闘するわけですが、再会したときのズタボロぐあいは、ちょっと痛ましいなぁ、と思ったり。

 まあ元凶の元凶は3Bの三人なのですが(3人の関係、特に四宮庸一と水原信司の軽口を叩きあう理解者同士っぽい関係がステキ)、物語を作ったのは飽く迄も景と梓の関係なんですよね。そう考えたら傍迷惑な二人ですな(笑)。

 番外編を集めた短編集が二冊でてるんですけど、その中でも好きだったのが景と梓の子供時代の話。梓は奔放にふるまい、景が心の中で突っ込みつつも結局押し切られてしまうあたり、すっげえ微笑ましいです。
 二冊目の番外編の『狂犬』、『夜道』、『同胞』は言動にリンクしている“あそび”も見られますし。


 ま、アマゾンでの評価も悪い評価はないようですし、これは傑作と言ってもいいのではないでしょうか。
 ……こんどから書評をする時にはもう少し簡易に書くことを心掛けましょう(←何時間も掛けてしまったヤツ)

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