2024年11月13日(水) |
百年の藍 / 増山 実 |
大正期。初めて目にしたジーンズに魅せられ、国産化を夢見る男がいた。 彼は情熱を傾けるが、いくつもの壁が立ちはだかり…。震災や戦争など時代に翻弄されながら、「想い」を繫いで生きた人々の百年の物語。
これは日本におけるジーンズの歴史から着想を得たフィクションです。
青いズボン。 それは青というより藍の色だった。 しかし日本の「藍染め」とはどこか違う。 繊維の布地だが、初めて見る種類の衣類だ。 なんだろうかこれは。 初めて見るのに、ひどく懐かしい感じがした。 ところどころ擦り切れて色落ちすらしている。 穿き古したような藍の布地を、 恭蔵は美しいと思った。そっと指で撫ぜた。
恭蔵には、妙な確信があった。このズボンは、必ずや、日本でも、誰もが穿くようなものになる。それほど、恭蔵は、このズボンの、剥げ落ちたような、どこか懐かしいような藍の色合いに惚れ込んでいたのだった。この、良さが、きっと日本人にもわかる日が来る。
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