著者の自伝的小説。 前編は1913年(大正2)4〜6月、後編は15年4〜6月のもの。
難産で産まれて、母共に病弱ゆえに伯母さんから言い尽くせぬ愛を受けて育てられる。 幼少期の神田界隈の様子や、転地療養した海辺の風景描写も美しい。 感受性の鋭い著者の表現力豊かな文章が素晴らしい。 でも著者は私とか僕とか、一人称での表現はなく、時たま伯母たちから呼ばれるのでさえ □□ぼん、とかいうふうにぼかしてあるのだ。
私が子供の頃には何を考えて毎日生きていたんだろうかと、ふと考えさせられるくらい、生きる苦悩を知り始めた少年の正義と自由と美に憧れるせつない思いが綴られている。
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