++いつか海へ還るまで++

雨が降る 代わりに泣いて いるように

降り続く雨 降り止まぬ雨


2010年12月02日(木) *ラーメン

最近 某SNSの中のラーメンコミュでわたしが唯一
一人でも入れる店のスレッドを見つけた。

そこは食券購入による前金制でカウンター席は
両横が衝立で仕切られているというちょっと変わった特徴がある。

このシステムについては女性一人でも気兼ねなく食べられるというのが
ポイントの一つになっているけど、それについては、
このスレッドでは詰め込み式で顔も見えないのは味気ない、
単に回転率を上げるためじゃないかとの意見も結構あるみたいだった。

味に関してはあくまでも個人の好みだけど、わたしも子供達も
ここのラーメンが大好き。
それにこの独特のシステムもわたしにとっては有り難い。


初めてこのラーメン屋さんに入ろうと思ったのも
まさにこのシステムなら極端に言えばまったく話さなくても
食券を出したらラーメンを食べられる(それも横の人を気にせずに)
というのが大きかったから。

あの頃、もう10年近くも昔のことになってしまったけど
末期ガンで余命宣告を受けた夫が入院しているホスピタルに
わたしは毎日通い続けていた。

あの頃の自分を思い出そうとしても頭に霧がかかったように
なってしまって気持ちを言葉にうまく表せない。思い出せない
手を動かす、歩く、話して、一応笑いもして、必要なものを買い物に行き
危篤状態がいよいよ続いた時には死出の為の洋服を買いに行ったりした。

死んでいく夫の為の死んだ後に着せるための服を買いに行く妻。

身体の外側は張り詰めるだけ張り詰めてなんとか動いているけれども
常に気の抜けない日々。助かることはありません。
あとはどれだけ持たせられるかしかないのです という残酷な現実。


冬の寒い日、ほんの短い時間だけ着替えを取りに家に戻り
数時間後またとんぼ返りで病院へ
そんな中でも何か食べなきゃいけない。
そんな時にこのラーメン屋さんは すごく すごく有り難かった。

誰とも話さなくてもいい、余分なおしゃべりなんかいらなかったから
わたしがその時に欲しかったのは他人の知ったかぶりの好奇心や
同情なんかじゃなくて そっと触れないでくれる静かな沈黙だったから。

張り詰めてきりきりと切れてしまいそうな心の糸も
暖かな湯気、守るように両横にある衝立。言葉もいらず、ただ食券を
出して 出てきたラーメンの温もりに冷たくなった指先を温められながら
ほぅ。。と小さく溜息を押し出すように吐く。

人にとっては窮屈な空間でも
わたしにとっては緊張を少しの間だけ解きほぐすことのできる
怖くない救いの場所 でした。


他の人の評価はどうなのかしらないけど
今でも今からもわたしも子供達もずーっとラーメンといえば
あそこに通い続けるんだろうなって思う。


少なくとも わたしという人間のあの苦しい時期をささえてくれたのは
あの衝立に囲まれたカウンターで毎日食べ続けた一杯のラーメンの温もり。

なにも話さずによくてなにも聞かれずに

まだ諦めるなとかきっと良くなるとか
脳を圧迫して最終的に押しつぶされて死んでしまうのに。
嘘っぽい希望や奇跡、薄っぺらい慰めのそれゆえの残酷さ 
そんな言葉なんて欲しくなかった


ラーメン屋さんのこのシステムを味気ないと斬り捨てられる人は
きっと幸せな人なんだろうなとおもう。

バランスのいいちゃんとした人なんだろうけど
知ったかで声高に批評してる文章を読んでると
わたし こういう人とは友達にはなれないな と おもうよ。


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ゆうなぎ [MAIL]

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