コミュニケーション。
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2022年08月14日(日)



宴もたけなわ。
ほどよくみんなに酔いが回ったのを見計らい、
初期刀の加州清光が陸奥守吉行に合図を出した。
先の作戦で我が本丸が優秀な成績を修め、政府から表彰いただいたあとの宴会である。
飲める刀も飲めない刀も楽しく過ごせるように、燭台切と歌仙が腕をふるってくれたご馳走が並んでいる。
昼夜問わず指揮を執った審神者も疲れを忘れ、ご機嫌であった。

「主よ…ここでちくと話があるきに」


「なぁに陸奥さん、真面目な顔。てか、ここで?今?

何?怖いなぁ」


「わしと結婚してつかあさい」


主の瞳が大きく見開かれた。
それも当然かもしれない。何せ付き合ってすらいない。
喧騒のボリュームがすこし下がった。

「えっ……?」

「わしがこの本丸でいっちばん、主のこと好きじゃきに。当然ぜよ」

「えっ……」

「なんなら、主がいちばん好いちょるのがわしじゃあゆうことも、本丸全員が知っちょるしのう」

「えっ、えっ…」

慌てて審神者は周りをキョロキョロと見渡している。
喧騒は半分ほどに下がり、審神者の周りの男士たちはうんうんと頷き合っている。
初期刀の加州清光は、審神者の隣にきて肩を抱いた。

「あのね、主。
主が俺に気を遣ってくれてたこと、ずーっと、知ってたよ。
そうじゃなくても愛されてるって毎日伝わってたし、
俺には、主と最初にここを始めたっていう、大事な歴史がある。
それが、今の俺を創ってる。
だからね、大丈夫なんだよ」

審神者の目に光るものが浮かぶ。

「そんな…だって……あたし…」

そこへ座敷中心あたりから声が飛んできた。

「主ぃ!素直になってくれよ!」

「ふ、不動くん?!酔っ払ってるの!?」

「俺は側でずーっと見てきたから、知ってるよ!
主を毎日いつも笑顔にしてきたのは、陸奥守吉行だ!
そうだろう?!みんな!」

イエーーーーイ!!!!

盛大な拍手。
審神者はこのときほど、宴会だいすき本丸に育てたことを後悔したことはなかった。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。

「あたし…あたしそんなに……わかりやすかった……?」

周囲の男士たちが一斉に頷いた。
気づいたあとも、隠していたつもりだったのに。
そもそも気づいたのはほんのひと月前ころなのに。

「朝は陸奥守を探しに行くし」
「陸奥守の遠征帰りは俺に、かわいいかって聞きにくるし」
「陸奥守のいない夜は飲んだくれてるし」
「毎回じゃないじゃん?!ねぇ次郎ちゃん!」
「陸奥守のいない日は…主様すこし元気なかった」
「お小夜まで」

こほんと咳払いをして、陸奥守吉行が審神者の手を取った。
既に座敷はしんとしている。


「ずっと前から、好いちょったんけど…隠しとった。
戦のためじゃ。勝ちにいかねば、未来がない。
おんしもそうなのは知っちょったきに、水を刺しとうなかった」
陸奥いつか交わした会話を思い出した。
私たちは勝たねばならない。
極の修行の前だったか。

「けんど、どうじゃ。この堂々たる強さ」
そう言って振り向き、男士の面々を見渡した。
「これだけ育った本丸じゃ。わしらは、絶対に、負けんぜよ!」

ふたたびの歓声。

審神者の手が震えた。
握った手に力をそっとこめる。
書類仕事をこなしてきたペンダコのある手が愛しい。
戦場には出れずとも、同じ時を戦ってくれていたことを皆知っている。

「政府から誉を獲った、今日のこの日に…たまたま、婚姻届を出しゆうカップルを見たがよ。
ほいたらもうわしゃ…我慢せんでもえいのじゃないかと思うての。
政府の窓口から婚姻届をもろうてきてしもた。
おんしに聞かずに、それは悪かったけんど」

「政府から電話かけてきたからさ、俺が後押ししたの」
「清光…」
「婚約指輪は、もう俺と安定で注文しといたのがあるよって。陸奥守じゃダサいの選びそうだから」
「清光?」

清光は審神者の手首のあたりを支えた。
陸奥守が、左手でポケットからケースを取り出した。
待ってよ。平成に流行った恋愛ドラマみたいじゃん。
私はそんな古い女じゃないんですけど。
でも…嬉しい。
ピンクゴールドに、シルバーの細工と小さめの石。
清光らしい。
いつの間にか右隣に不動行光も来ていた。
そっと、手首に手を添える。
「怖がらないで。俺たちがついてる」



「わしと結婚してつかあさい」


「はい…」




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