綿霧岩
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空から飛び降りることは、思ってたよりもずっと大変なことだった。 薦められてた酔い止めも飲まずに飛んだら、時速200キロの急降下の後、パラシュートが開き急旋回したところで酔っぱらって、地上に降りてからもしばらく結構ふらふらした。 夢の中で空飛んでる方が、うんと楽ちんだった。 考えてみたら当たり前だけど、やってみるまでわからなかった。 そうか体があるってこういうことだ、これが生きてるってことなのかと思った。
太平洋戦争の時に爆弾が落とされてできた海の穴、ボムホール。 今は観光客が訪れるダイビングスポットになっている。 海の穴の底で見えた光景は時が積み重なっていた。 骨みたいに白く硬そうな死んだサンゴの上に、生き生きとぬめり、輝くサンゴと魚たち、そして人間たち、海の水、光、空。 エサ用に渡された生のイカをちぎって魚にあげたら指をかじられた。 小さな魚でもかじられたら結構痛かった。 イカを手でちぎるのも結構硬くて爪を立てて思い切りちぎった。
見るだけだったら、映像見てるのとそんなに変わらない。 もちろん圧倒的に綺麗だった、海の色エメラルドですごかった、空からの景色は最高だった。 でも実際にやってみたら何かが全然ちがう、体全体で感じてることはきれいとか汚いとかじゃない、良い悪いでもない、ただ皮膚も内臓もどきどきして言葉とは遠いところにいってしまう、周り全部が躍動してて、自分もここに生きてること、赤ちゃんみたいに毎秒びっくりしてたように思う。
耳抜きの仕方の説明を聞き損ねて、勘違いしたやり方でやっていた私はちっとも耳抜きできず、海の中でオリジナルのやり方を模索した。 たぶんそのせいで、海から上がったら鼻血が出てた。
空から飛んだ時も海に潜った時も、ある程度下に降りる度にブルル、ブルルと耳の中で鼓膜が大きな音で鳴った。 どれくらいの距離を降りたかなんて、私の頭は全然わからなかったけど、耳はわかってた。
自分の体は思ってたよりも全然強くなかった。 でも思ってたより精巧にできてるような気もした。 あまりにも小さくてへっぽこで一歩間違ったら簡単につぶれてしまうのが自分だった、それはなんて当たり前のことだっただろう、そう自覚できたのも含めてむちゃくちゃに楽しかった。 体を使っていろんなことやろうと思ったら、日ごろのメンテナンスやトレーニングがすごく大事なこともよくわかった。 それぞれのインストラクターの人たちの体のカッコ良さに見とれた。
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