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2024年08月04日(日) ペットの「もしも」に備えていますか?

「夏のボーナスが飛んで行っちゃった」
と同僚が言う。
なにを買ったのと訊いたら、飼っているビーグルが椎間板ヘルニアの手術をしたのだという。
「だってMRIが九万なんだよ。検査だけで十五万、それに手術と入院でしょ……。明細見てめまいがしたわ」
すると、
「うちのトイプーが骨折したときもやっぱりそのくらいかかったなあ」
と声があがった。
それを聞いて、「動物の治療費ってそんなに高いんですか!」と若い同僚。彼女は生まれてこのかたペットを飼ったことがないそうだ。
そうか、あなたは知らないのね、ペットが病院通いをするとものすごい勢いでお金がなくなることを。
うちの猫も最近、歯周病の治療で抜歯と歯石取りをしてもらったら、八万だった……。

だから、私のまわりはペット貯金をしている人が多い。
私が子どもの頃、どこの家も犬は庭につなぎ、猫は放し飼いだった。ごはんに味噌汁をかけたようなものを食べさせ、彼らが長生きできるように……ということまでは考えられていなかった気がする。
しかし、いまの飼い主はちがう。家の中に入れて暑さ寒さに気を配り、専用の総合栄養食を与え、防げる病気は防ごうときちんと混合ワクチンを打つ。
彼らの健康と幸せを願い、「もしも」に備えてコツコツお金を貯めているのだ。

私もそんな飼い主のひとりで、二匹の猫のためにペット保険に入っている。
月の保険料が八千円と言うと、
「その分貯金しといたほうがお金が無駄にならないんじゃないの」
とよく言われる。ファイナンシャルプランナーにも「けっこうな金額ですね」と驚かれたっけ。
しかし去年、膿胸で十日間入院したら二十万。もし手術までしていたら、倍以上になったはず。ということは保険料を五年分積み立てたとしても、手術と入院を一回したら使い切ってしまうのだ。
それなら、ふだんから痛手にならない程度の負担をしておいて、なにかあってもどかんと払わなくていいようにしておきたいと思う。

治る可能性があるのに治療をあきらめなければならないことほどつらいことはない。しかし、治療費の七割が返ってくるなら受診をためらわずに済むし、「ごめん、もうお金をかけられない……」という事態にもならないだろう。
私は八千円でその安心を買っている。だから、「元を取れなかったらもったいない」というふうには思わない。



ペットのために必要な備えはお金だけではない。
能登半島地震の被災者が犬と一緒に車中泊をしている様子をテレビで見たことがある。
「動物が苦手な人もいるだろうから」
「迷惑をかけたくない」
と白い息を吐きながら話していて、気の毒でならなかった。災害時にはペットは“リスク”になり、ペット連れは災害弱者になるのだと知った。

私が住んでいるところは洪水や土砂崩れの恐れはないけれど、地震は怖い。家族には、
「私はくり坊とちょこんと家に残るから、あなたたちは避難所に行って自分の身は自分で守ってよ」
と言ってある。
野良猫だったちょこんはうちに来て四年になるが、いまだに怖がりでほとんど触らせてくれない。非常時に彼女をキャリーに入れることができるとは思えない。
しかし、家に留まる理由はそれだけじゃない。
犬とちがって言って聞かせることができない猫を連れての避難所生活はかなり大変だろうと想像する。
一番神経を遣うのが脱走防止だ。外に飛び出したら呼び戻せないから、ケージに入れっぱなしにするしかない。それを考えると、ぎりぎりまで連れて行きたくないのだ。

とはいえ、家が傾いていたらそうもいかない。自治体も災害時はペットと一緒に避難する(同行避難)よう呼びかけている。
幸い、近所の小中学校は「ペットの受け入れ可」だ。そのときはお世話になれるよう、物品はひと通り準備している。
それといま、くり坊にハーネスをつける練習をしている。猫武将チャチャくんみたいに装着させてくれるようになったら、少しはケージから出してあげられると思って。




【あとがき】
動画ではチャチャくんはじめ、ハーネスをつけて散歩をしている猫をちょくちょく見ますが、実際には見かけたことないなあ。動画の猫さんたちはお外を楽しんでいる感じがします。うちのくり坊はまだまだ……(固まったまま動かない)。