このところ更新が何度か飛んでいるのは、ばたばたと忙しかったから。母が入院していたので、自宅と実家を行き来していたのだ。
私に負担をかけまいと、母は見舞いはいらないと言い、父は家のことは自分がちゃんとやるからと言ったが、「ハイ、そうですか」とはいかない。母の顔を見ないことには心配だし、父に毎晩スーパーの惣菜を食べさせるのもつらい。実家のそばには妹が住んでいるが、出産したばかりなので頼めない。
そんなわけでここ三週間ほどせっせと実家に通っていたら、パソコンを開く暇がなかった。で、もうしばらくは更新が不安定になる見込み。
……とここまでが前置き。
* * * * *
入院して四、五日経った頃、母から携帯メールが届いた。もしご近所の人に会って自分のことを訊かれることがあったら、旅行に行っていると言っておいて、という内容だ。
病気だなんて誰だって他人には知られたくない。私はすぐに「了解」と返信した。
そして数日前、無事退院した母がしばらくぶりのわが家でお茶を飲みながら、「突きあたりの家の奥さんと話した?」と言った。
「ううん、会ってないよ。どんな人かも知らんわ」
「それが、好奇心旺盛な人でねえ。よその家のことにすごく興味があるみたい。悪い人ではないんやけどね……」
定年退職した夫とふたり暮らしのその女性はしょっちゅう近所を散歩していて、庭に出ている人を見つけると話しかけ、情報収集をするらしい。
そして、次に出会った誰かにその成果------向かいの奥さんが三人目を妊娠して予定日はいついつだの、角の家が車を買い替えたけど、ご主人がお勤めのどこそこって景気いいのねだの、○○さんとこの息子さんは浪人中なのにガレージでバイクいじりばかり、来年は大丈夫なのかしらだの------を披露するのだ。
そんなだから母は彼女に家のことを話さないよう気をつけているのであるが、妹は父と母が海外旅行中、朝晩実家に通って犬の世話をしていたら、「最近お母さんの姿を見ないけど、なにかあったの?」と訊かれたという。それで母は、もしかしたら今回も目ざとい彼女のチェックが入るのでは……と思ったのだ。
「噂好き、詮索魔ってどこにでもおるんやなあ」
と思わず苦笑したのは友人の話を思い出したからである。彼女が以前住んでいたマンションの隣人にそういう人がいたのだ。
引越しのあいさつに行ったら、ゴミ出しのルールや選挙の投票場所などあれこれ親切に教えてくれる奥さんがいた。いい人がご近所さんでよかったわと喜んでいたある日、立ち話の最中にこんなことを言われた。
「ご主人、美容師さん?月曜日がお休みの仕事っていったらそのくらいしか思い浮かばなくて。イマドキの感じだしスーツも着てらっしゃらないから、もしかしてそうなのかなって」
驚いた。夫は美容師ではないけれど、たしかに月曜日が定休。しかし、彼女にそんな話をしたことはない。こちらのことをよく見ているんだな、とどきっとした。
その後なんとなく注意していると、
「昨日遊びに来てた人たち、学生時代のお友達?」
「ご主人の帰りが遅いから寂しいでしょう、新婚なのにねえ」
「週末は実家にでも帰ってたの?夜、電気がついてなかったから」
といったことをさらりと言われる。まるで監視されているみたい……と彼女はだんだん不気味になってきた。
その気持ちが決定的になったのは、「ねえ、あなた、コレいるの?」と訊かれたときだ。女性は親指を立てるジェスチャーをしていた。
「この人、ちょっとおかしいんじゃないだろうか……」
以来、彼女は廊下で顔を合わせてもあいさつだけで、会話は避けるようになった。
それから数日後、車で出かけようとしてびっくり。ドアのキーの差込口にガムが押し付けられていたのだ。
嫌がらせにその女性がやったのだ、と彼女は信じて疑わない。
先日、私は「許せるダメ男、許せないダメ男」というテキストの中で、もし男性を対象に「許せるダメ女、許せないダメ女」調査をするとしたらこんな女性がリストアップされるのではないか、といくつか例を挙げた。
そうしたら何人かの方が回答してくださったのだが、それによると「ワイドショーネタや周囲の噂などの話しかしない女性」は「許せないダメ女」であるらしい。理由は「頭が悪そうでイヤ」というもの。
他人のプライバシーへの興味は男性の中にもあると思うが、やはり女性のほうが強いと感じる。職場や近所でくだらない噂を流す人がいる、という悩みに登場する困ったサンはたいてい女性だ。
旺盛すぎる好奇心に“暇”が加わると、詮索オバサン化することがある。私も気をつけようっと。