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2005年12月09日(金) 恋人がいない年のクリスマスは

学生時代の友人から電話。「近々家に行ってもいい?」と言うのをふたつ返事でオッケーする。
独身でひとり暮らしの彼女は料理というものをまったくしない。鍋物が食べたくなると私の家に遊びに来るのは、京都で大学生をしていた頃からの冬の習わしのようなものなのだ。
「いつにする?うちは今週末でもいいよ」
すると、
「二十三日か二十四日か二十五日にしない?」
と友人。
えっ、それってもろにクリスマス期間じゃないの。ってことはあなた、三日間なんの予定もないの?
「今年のクリスマスは曜日まわりが最悪やねん。天皇誕生日が金曜やろ、おかげで会社が三連休……」

長らく恋人がいない彼女にとって理想のクリスマスというのは、週の真ん中にあって残業を終えて帰り支度をしているときに「あ、もしかして今日って」と気がつく……というものだそう。今回の「行ってもいい?」はこんな時期に三日も家にひとりでいたら孤独で死んでしまう!ということだったのだ。

「クリスマスにまさか彼氏持ちの子は誘えんし、結婚してる子のとこにお邪魔するのも気がひけるしなあ」

でも、うちならお邪魔虫にならないだろうと考えたらしい(なんでだ)。そんなわけで、二十三日は鍋パーティーをすることになった。


友人のようにばりばり働き、「適齢期?なにそれ、私の辞書には載ってないわ」な女性でもクリスマスをひとりで過ごすのは耐えられない、という事実。私は内館牧子さんのエッセイを思い出した。
たとえ恋人がいなくても、誕生日とクリスマス・イブは誰かと過ごしたい。が、友達はみな結婚しており、付き合ってくれる人はいない。かといって、家で親とケーキを食べるほどみじめなことはない。そこで恋人がいない年の誕生日には休暇を取り、旅行に出かけることにした……という内容だ。内館さんが二十代の頃の話である。

恋人のいない女性のクリスマス、そして誕生日はしばしば、男性にとってのバレンタインデーとは比較にならないくらい切ない一日になる。
年上の友人は、ひとりで過ごすことが決定しているクリスマスは仕事を休み、マンションの部屋から一歩も出ないという。街にあふれる幸せそうなカップルを見たくないからである。
「それにさ、会社の人にもうれしい勘違いをしてもらえそうじゃない?」
と笑う彼女を私はバカになんてしない。ふだんはすっかり慣れっこになっていてどうもないことでもその日ばかりは堪える、ということはあるだろう。
そういえば昔見た『グレムリン』という映画の中に、「一年で一番自殺者が多いのはクリスマスだ」というセリフがあったっけ……。

私もやはり過去には何度か、クリスマスをひとりで過ごしたことがある。
まったくなにもしないのも寂しいなと思い、ミスタードーナツで“サンタでCHU”(一人用のクリスマスケーキならぬ、クリスマスドーナツ)を買って帰ったりしたが、そのときほど「ひとり暮らしでよかった」と思ったことはない。こんな日にまっすぐ家に帰って家族と過ごすなんて、傷口に「孤独」という名の塩をすり込むようなものだもの。
それに妹が親がやきもきするような時間まで帰ってこないのに、姉は二十時には家にいる……というのもなんだか格好がつかない。
家族に見栄を張ってもしかたがないのはわかっているが、年頃の娘としてはプライドというものもある。そんな気分でもないのにウィンドウショッピングをしたり、喫茶店でお茶を飲んだりして時間潰しをしなくてはならないのはしんどい話だ。
実家住まいの人は恋人がいない年のクリスマスをどのようにして切り抜けているのだろう?といつも思う。

* * * * *

冒頭の友人が不敵な笑みを浮かべて言う。
「でもな、今年と来年を乗り切れば、しばらく平日クリスマスの年が続くねん」

おお、友よ。そんなことを励みにしないで、どうかこの一年でいい人を見つけておくれ。