過去ログ一覧前回次回


2005年10月14日(金) さしさわりのない話題

先日、ほとんど話したことのない職場の女性とふたりで昼の休憩をとった。
親しい同僚と時間が合わないときはひとりで食べに行き、本でも読みながら気楽に過ごしたいというのが本音なのだけれど、その日はなんとなく一緒に行くことになってしまったのだ。
「どこにしましょうか」「なにか食べたいものありますか」なんて言いながら店を探しているうちはよかったのだが、席に着きオーダーを済ませたあたりから、「さて、なにを話そう……」が気になりはじめた。個人情報を扱う業務なので、外で仕事の話をすることはできない。

こういうシチュエーションではたいていの人が沈黙に気づまりを感じ、話が途切れないよう心を砕くのではないかと思うのだが、彼女はそういうタイプではなかったようだ。相槌は打ってくれるけれど、自分から話を広げたり新しい話題を提供したりといったことはなく、その日の休憩はいつもと同じ一時間とは思えないほど長く感じられた。


友人の結婚披露宴や二次会、夫の会社の行事に出席した際に初対面やそれに近い人と話をする機会があるけれど、しばしば話題探しに骨を折る。
私はあまりテレビを見ないのでドラマについては完全に聞き役になってしまうし、かといって趣味を訊かれても「本を読む」と「インターネット」では話を長持ちさせられる自信はない。

「小町さんはどんな作家を読まれるんですか」
「○○さんとか××さんとかが好きです」
「私も○○さんの小説、読みますよ。面白いですよね」
「実は小説のほうは読んだことないんです。読むのはもっぱらエッセイで」
「あ、そうなんですか。ネットって楽しいですか」
「ええ、パソコンがあったらいくらでも時間潰せますよ」
「なにするんですか、チャットですか」
「まあ、その……メールとか……」

それならば相手になにか質問しようと思う。すると、訊いてもかまわないだろうと思えることが意外と少ないことに気づく。
年齢がわかると話の糸口を見つけやすいが、出会ったばかりの人に「おいくつですか」とやるのはためらわれる。このあいだ友人が家に遊びに来たとき、私と夫と彼女は同い年なので「懐かしのアニメ特集」みたいな番組を見て、また国語や英語の教科書にどんな話が載っていたかというネタで大いに盛りあがったのだけれど、そういう展開は期待できない。
相手がよほど若くないかぎり、既婚か未婚かということも訊きづらい。「結婚されてるんですか」「いえ、親と一緒に住んでます」なんてことになると、立ち入りすぎたかなと思わなくてはならないので、話の流れで判明するまでおとなしく待つ。
彼女の口から「夫が……」「子どもが……」というフレーズが出てくると、少しは話が広がるのだけれど。


学生の頃はバイト先で知り合ったばかりの人とでも、どこの大学かだの、なんのサークルに入っているのかだの、彼氏はいるのかいないのかだの無邪気に訊いたり訊かれたりしたものだが、大人になったら「さしさわりのない話」の範囲がぐっと狭まった。
これは私だけの感覚ではないとみえ、そう親しくもない人に「お子さんは?」「ご主人はどちらにお勤めで?」といったことを訊かれることはまずない。以前、「昨日選挙行きました?どこに入れました?」と訊かれてものすごくびっくりしたことがあるが、こういう人は特別だろう。
そんなわけで結局、
「どのあたりに住んでおられるんですか」
「○○です」
「便利なところですよね、ご実家もお近くですか」
「いえ、五年前に夫の転勤で東京から来たので……」
「まあ、東京」
といった話でその場をしのぐことになる。

先日、十数年来の友人と「この年になったら、友だちは減ることはあっても増えることはないよね」という話になったのだけれど、こんなふうに互いに無難な話題を探しだしてきて、上っ面をなでるような会話をしているのでは無理ないかあ……。