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2005年09月28日(水) 出版社に行ってきた(後編)

※ 前編はこちら

「いまいくつか読ませていただきましたが……」
ごくり。
「いいですね。とても読みやすいです」
お!
「短くて」
ぎゃふん。

いやいや、それはいい。私は文章が短いと言われたことにとても興味を持った。
「短い……ですか?」
「そうですね、長くはないです」
タナカさんはそばにあった棚から文庫本を------誰でも名を知っている作家のエッセイばかり------何冊か抜き出した。
「見開きの片面に原稿用紙一・五枚分入るんですね。小町さんのは一話が六、七枚ですから、本にすると四ページ前後。さらっと読めちゃう量ですね」

目から鱗。いままで、長いと言われることはあっても短いと言われたことはなかった。
読み手の方に「どんどん文章が長くなりますね」と突っ込まれるたび、「自分でもどうにかならんかと思ってるのよー、好きで前編、後編に分けてるわけじゃないのよー」と言い訳したい衝動に駆られてきたが、そうか、私の文章は紙媒体向きだったのねっ(と満面笑みでポンと手を打つ)。

すると、タナカさんが言った。
「正式なお返事は審査会議の後になるのですが、共同出版という形で問題ないと思います」
えーと、それってたしか、出版社が費用を半分負担してくれるのではなかったっけ……。
「はい、共同出資での制作です。正確に言うと、制作費を著者の方に負担していただき、流通費を当社が持つということになります」
なんだ、折半ってわけじゃないのか。ま、そりゃあそうか、そんなおいしい話があるわけがない。
と納得したら、頭に浮かんだことがひとつ。

「あのう、流通っていうのは書店に並べるって意味ですよね?」
「そうです」
「素朴な疑問なんですけど、まったくの素人の本を誰が買ってくれるんでしょうか」

仮にも出版相談に来ておいてまぬけな質問だと思ったけれど、しかたがない。卑下でも謙遜でもなく、本当にそう思うんだもの。

「たしかに一般の方が書いた本というのは、ファンがいないのでむずかしいです。ただ、ターゲットを絞り込むことによって結果につながることはあります」
「ターゲットを絞る、ですか」
「そうです。小町さんの場合でしたら読者層は完全に女性ですね、それも三十代以上の主婦。客層にこういった人たちが多い書店にピンポイントで展開するとか、装丁もこの層に訴求力のあるものにする必要があります。文字を若干大きめにしてもいいかもしれません」

心の中でふうむと腕組み。「三十代以上」には頷けるが、「女性」「主婦」というのはどうなんだろう。いただくメールの比率は男女半々なんだけどな。それに育児話皆無で恋愛話多し、どちらかといえば主婦よりシングルの女性寄りではないかと思っていたのだけれど。
まあいいや、……で。

「それから、一番重要なのはターゲットの層から共感を得られる内容にすることです」

私はこの「共感」という言葉を聞いて初めて気づいた。「原稿を本にする」と「出版する」はまったく別物なのだ、ということを。
八百以上のテキストを書いてきたけれど、共感を得ようなんて考えたことがなかった。サイトにおいては読み手をたくさん獲得することより、読み手に好かれることより、「思ったことを思ったように書けること」のほうがはるかに大切だ。
しかし、出版となると「商品価値」が求められる。そりゃあそうだ、増刷までは期待せずとも初版で刷った分ははけるという見込みがなくては、出版社としては請け負えないだろう。
たとえば、子どもを持つ女性からは受けがよくなかったけれど、自分ではよく書けていると評価しているテキストがある。そういうのは私が採用したいと思っても、「これは別の話に差し替えましょう」なんて言われるのかもしれない。
口出ししてくれるな、私は自分の好きなようにやりたいんだという人は、自費で流通しない本を作るべきということなのだろう。

* * * * *


なんて考えていたら、肝心のことを訊いていなかったことに気がついた。私はそれが知りたくて、今日ここにやってきたというのに。
「ところで、共同出版ということでお願いするとしたら、こちらの負担はいくらくらいになるんでしょうか」

まったく見当がつかなかったが、本を出している日記書きさんはちょくちょく見かけることだし、それほど高くはないだろうと思っていた。海外旅行を一回我慢したらいいくらいの額かな?と。

「細かい条件によって違ってくるんですけれども」
「ざっとでいいです」
「そうですね、百五十万から百六十万といったところでしょうか」
「……きょ、今日はどうもありがとうございましたっ、ではでは失礼します!」(あたふたあたふた)



前回のテキストを読んで「私も同じことを考えてました。後編楽しみにしてます」と言ってくださった何人かの方、夢を破壊するようなことしか書けなくてごめんなさい。
でもそうだよね、個人が思いつきで出版できたりしたら、たちまち本の洪水が起きて本当に読まれるべき本が駆逐されちゃう。
だけど、他の方からすてきな情報をいただきました。ブログスペースを提供しているところでこんなサービス(こちら)があるそうです。参考にしてね。