前回のテキストには男性からいくつかメールをいただいた。いずれも、
「部屋が汚いとか下着がいけてないとか、女性がナーバスになるほど男は気にしませんよ」
という内容で、床にバナナの皮が落ちているとか下着のゴムが消滅しているといったレベルでない限り、まったくノープロブレムなのだそうだ。「だからそんな理由で僕らを拒まないで、安心してカマン!」と口を揃える。
まあ、つまりは「男の性欲はその程度のことで萎えるほどやわじゃないのさ」という話なのだろうと思うのであるが、私たちが少しばかり気を回しすぎているというのも確かなようだ。
しかし、これに安堵する間もなく私は考える。
「じゃあ男の人はどうなんだろう?」
一般的に自分に厳しい人は他人にも厳しく、自分に甘い人は他人にも甘い。男性が女性の“不用意”に寛容だということは、やはり自分のそれもあまり気にしないということなのか。
つまり、予想外の展開に慌てたり躊躇したり涙を呑んで断念したり・・・といったことはないのだろうか。
* * * * *
JR大阪駅のショッピングモールに通じる地下道の壁に『グンゼ』の広告がある。
三メートル×三メートルくらいの巨大なカラーコルトンの中で、新庄剛志さんが黒のボクサーブリーフ一枚という姿で立っているのであるが、これが思わず足を止めて見入ってしまうくらいかっこいい。
つい最近まで、ここにはランジェリーのブランド『トゥシェ』の広告が入っていた。神田うのさんが黒のブラジャーとショーツ、ガーターベルトデザインのストッキングというセクシーな姿で道行く人を挑発するようなポーズを取っており、私は前を通るたび、
「こんなプロポーションをしていたら、私ももっとアグレッシブな女になれていたのに〜!」
と悔しくなったものだ。
しかし、男性はこの新庄選手(こちら)を見て、同じようなことを考えないものなのだろうか。
「はな子節」のはな子さんが昨日の日記で、
「少しでもスリムに見せるため、デートには“腹押さえ用”の強力ガードルを履いて行きたいけれど、もしそういう展開になったときに相手に見られたらムードぶち壊しだし、あまりにもパッツンパッツンなので下着線がばっちり残るのも恥ずかしい」
という苦悩をカミングアウトしておられたが(詳しくは「私は『不用意な女』」をどうぞ)、これには多くの女性が頷くに違いない。「特技は、ハダカです。」と言える女性はそうはいまい。
しかし、男性にはこういう自信のなさに由来する躊躇や葛藤は存在しないのだろうか。女性ほどシリアスなものでないにしても。
また、こういう可能性はどうだろう。
新庄さんは「毎日が勝負パンツ」なのだそうだが、世間一般の男性はまずそんなことはないだろう。
実を言うと、私は「男性には“勝負下着”という概念があるのだろうか」と訝っていた。しかし、「女の不用意」にいただいたメールを読んでいると、やはり男性もデートのときには下着を選んでいるようだ。
「ふだんは楽なトランクスだけど、ここぞというときは足が長くかっこよく見えそうなハイレグのブリーフにする」
なんて話を聞くと、考えることは私たちと同じなんだなあと思う。
ということは、「なんで今日こんなパンツ履いてきちまったんだ!チクショー!」という事態も起こりえるということではないか。
そしてもうひとつ、思い浮かぶことがある。が、これはあえて書くまでもないだろう。
「ああ、いまここにあれば……!」
彼女の部屋で泣く泣くブレーキを踏み込んだ、という記憶を持つ男性は少なくないに違いない。
その昔、よかったらうちでお茶をと誘ったら、男性は「えっ、いいの!?」と目を輝かせた後、じゃあ一度家に帰ってまたすぐ来るよと言った。
「えっ?私の家、すぐそこですよ」
「うん、でも」
頑なに「いったん帰る」と彼に言わしめるものが何なのかに私はとても興味が湧いたが、なんとなくそれは訊かないのがマナーのような気がした。それでもいつか訊いてみようと思っていたのだけれど、それよりも別れが先にやってきた。
「あのとき、彼は何のために家に帰ったのか」
想像がつくような、つかぬような。このときのことを思い出すと、あまずっぱい気分になる。
そして、私たちの知らないところで男性も苦悩したり後悔したりしているのかもしれないなあと微笑ましく思うのである。