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2004年11月22日(月) 悲しい心当たり(前編)

週末、友人四人で中華のバイキングを食べに出かけた。
フロアを回る点心のワゴンを五回呼び止めたあたりで「ちょっと一服」となり、ジャスミンティーを飲みながら、話題はメンバーのひとりの就職活動ならぬ“結婚活動”に移った。
ホームヘルパーの仕事をしているA子は半年前に結婚相談所に入会した。ひとり暮らしのお年寄りを訪ね歩く中で思うところがあったらしい。以来、私たちは彼女に会うたび進捗状況を確認してはダメ出しをしている。
というのも、せっかくパーティーに出かけてもひとりの男性につかまって参加費五千円をパアにしたり、相談所歴三年の“大先輩”の女性から「活動のコツを伝授してもらった」とホクホクして帰ってきたりする。「費用もバカにならんし、なんとか一年以内に!」と意気込んでいるわりには逆のことばかりしているのだ。
だから今日もまた愛すべき失敗談を聞かせてくれるのだろう、と私たちは笑い転げる準備をして話を急かした。
スケジュールが合わずメールでやりとりをするに留まっていた男性とようやく会えたのが、十一月のあたまのこと。初めて連絡を取り合ってから約束の日までのひと月ほどのあいだに、彼女の中にはまだ見ぬ彼への好意がすくすくと育っていた。それはファースト・コンタクトが彼からのアプローチだったことが大きい。相手がこちらにいい感情を持っているとわかっていれば、安心できるものだ。
はやる心を抑え、待ち合わせ場所に向かった彼女はすぐに彼を見つけた。写真のままの人だったから。ホテルのティーラウンジでお茶を飲んだのだそうだ。
しかしほどなく、彼女は気づいてしまった。彼のテンションが、ゆるやかではあるけれど下降曲線を描いていることに。
「表面的にはぜんぜん変わらんのよ。笑顔でいろいろ話してくれるし。でも、なんとなくわかるやん、ほんまに楽しいと思ってるか、こっちに気を遣って楽しそうにしてくれてるかっていうのは」
このあと食事はどうします?と言われたが、行かなかった。行けなかった。優しい人だっただけにそれ以上無理をさせるのがしのびなく、また自分も悲しい気持ちでいっぱいで。
「たぶん……っていうか、それしか考えられんのやけど、私の見た目が好みじゃなかったんやと思うねん」
「けど、事前にプロフィールの写真見たうえでアプローチしてきたんやろ」
「あれはいろいろ修正してあるからなあ、皺も消してるし。私も会った人の中には写真のほうがいいと思った人もおったし……」
「ほかに心当たりはないん。粗相した覚えは?」
「というと?」
「コーヒーをずるずるいわせて飲んだとか、歩きながら道に痰吐いたとか」
「してませんっ」
彼女が「ボロを出す暇なんかなかった」と言うのだから、やはりそういうことなのだろう。彼女は美人というわけではないけれど、すらりとしていて四十にはとても見えないチャーミングな女性である。しかし、三つ年下の男性の目にどう映ったかはわからない。
「もしそうだとしても、人を見た目で判断する人なんてこっちから願い下げや」
誰かが言ったら、「それ、ぜんぜんフォローになってへんやん!」と彼女は怒るふりをした。 (後編へ)

【あとがき】
その男性とはそれっきりだそうです。しかたがないと本人も吹っ切っていましたけど、会うまでの期待が大きかった分、しばらくは落ち込んだろうと思います。相手から先に好意を表明してもらえるとありがたいってところ、たしかにありますよね。私は男性には自分から「好き」と言うけど、いちかばちかで告白したことはあっても、まったく脈のなさそうな相手にしたことはないです。