トム・クルーズが共演した新恋人のペネロペ・クルス(「ラックス・スーパーリッチ」の人)とともに、映画『バニラ・スカイ』のPRのため来日している。
自家用ジェット機で成田に降りたったふたりは待ち受けるファンの前でもずっと手をつなぎ、ときにはトムがペネロペの腰に手を回し抱き寄せるなど、まるでハネムーナーのような雰囲気だったらしい。
さて、少し前、彼らの熱い仲が報じられたとき、私の胸はある感慨に包まれた。「ハリウッドの住人ともなれば、離婚経験なんかモノともしないんだなぁ」ということだ。
ご存知の通り、トムはこの8月にニコール・キッドマンと離婚したばかりだ。にもかかわらず、もうペネロペとあのアツアツぶりである。そういえば彼は一番目の奥さんと離婚したその年のうちに、ニコールと再婚している。トムにとって離婚経験がその後の恋愛にマイナス要素になるなんてことはありえないのだ。
そして、それはペネロペにとっても同じだとみえる。トムの「バツ2」という履歴は、彼女が彼に恋するにあたってなんの戸惑いの材料にもならなかったようだ。完璧な美貌と確かな才能を持つ彼女なら、「彼がいま愛しているのは私よ。私は“いま”を愛する主義なの」なんてすました顔で言いそうだ。
彼らのように自分に自信のある人間は決して過去で未来を占ったりせず、いまこの瞬間を重んじて生きていくような気がする。だから相手の履歴を気に留めずにいられるのだろう。そういう生き方ができるのはすばらしいことだ。
さて、最近つくづく思うのが、「既婚者」や「彼氏・彼女持ち」が恋愛しやすい時代になったなあということだ。
言い換えれば、そういう人が恋愛対象から外される時代ではなくなったということである。「結婚している=恋愛卒業組」「恋人がいる=(他の人との)恋愛休止中」という公式はもはや成立しなくなりつつある。
以前なら、二股かけるときは本命の存在を隠す、もしくは「妻とはうまくいってないんだ」「彼とは最近会ってないの」なんて言いながら近づくのが定石だった。「だから君とこうしているんだ」と、浮気という行為になんとか理由をつけようとするのは相手へのマナーでもあり、自分への言い訳でもあった。
しかし、いまやどうだ。当の本人は、もはや自分の現在の状態が相手にひるみを与えないことを知っているから、恋を始める前になんのためらいもなく、ステディがいることを明かす。
現にロンブーの番組を見よ。『ザ・ブラックメール』は、女の子が自分の彼氏にメルカノを仕掛け、どうアプローチするかを観察する浮気調査のコーナーだが、彼女がいるかどうかを尋ねられ、「いない」とウソをつく彼氏はむしろ少ない。たいていは「いるよ」と答え、中には「超カワイイよ、マジで」なんて自慢する男の子さえいる。
一部始終を隠しカメラで見ている彼女はここで思わずホッとするのだが、実は喜ぶのは早い。彼女がいることを正直に申告したからといって、彼がメルカノによこしまな考えを抱いていないかというと、まったくそういうわけではないからだ。
彼は彼女の存在を明かすことが以後の展開の足を引っ張るとは考えていない。だから、正直に申告するだけなのだ。そして、そこには「彼女のことを隠しながら付き合うのはしんどい」「俺の状況を理解してくれるコでなきゃ、後々面倒だ」という気持ちも働いている。
つまり、「彼女いるよ」は「だから君とは友達だ」の意志表明でもなければ、こんな俺でもいいのかと相手にお伺いを立てるためでもなく、ましてや良心の呵責でなどない。自分にとって都合のいい相手かどうかを見るための最終チェックにすぎないのである。
「ずいぶんドライな人が増えたもんだなあ。こうポンポンポンポン好きな人が見つかったら、傷ついてる暇なんかないよね。恋愛もお手軽になるはずだわ」
と私はしばし感慨にふける……というのはもちろん皮肉だ。
さきほど、「“いま”を生きられるのはすばらしい」と言ったけれど、それは後先を考えないこと、欲望のおもむくままに行動することを指しているのではない。
「僕らは出会うのが遅すぎた」
「奥さんのいる人を好きなったんじゃないわ、好きになったのがたまたま奥さんのいる人だっただけ」
なんて話を聞くと、「じゃあ幸せになれるものならなってみなさいよ」と言い放ってしまう自分を、私は冷たいとは思わない。
【あとがき】 もうひとつ、世の中の見る目が変わったなあと思うのが離婚経験者に対しての認識。少し前までは離婚歴を持つ人に対する世間の目は決して温かいものではなかったと思う。「別れるからには何かよっぽどの理由があったはず。なにか人間的に問題があったんじゃないか」と見る人もいたし、本人も引け目のようなものを感じていたのではないか。それがどうだ。「バツイチ」という言葉が流行り始めた頃から、そこまでネガティブな見方をされることはなくなった。いまや「40で独身なら、結婚歴なしよりバツイチだと言われたほうがむしろ安心する」と言う人もめずらしくないほどだ。「たった一度の人生だもの。後悔したくない」とそれまでの人生を清算し、前向きに生きている人を私は何人か知っています。 |