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- 2005年11月24日(木)
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- 「神の領域の犯罪」-----マンション構造計算書偽造事件
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連日報道がされ、社会問題にまで発展したこの事件、
しかしとんでもない事件である。
クリスチャンが、ある日突然宗教学者に、 「ずっと隠してたんだが、イエス・キリストって、 実は凶悪な犯罪者だったんだ。」
と、告白されたに等しい。
マンション・ホテル、公共施設をはじめ、建物の耐震性などというのは、 一般市民には客観的に判断のしようのないものである。 いくら数字的根拠を見せられたところで、専門的すぎて理解が出来ない。 この判断はもはや、事業主や建設会社を「信じるか否か」というレベルなのだ。
マンションの購入者は、販売センターで販社の営業マンから 建物の耐震構造などについて説明を受け、それを信じて購入したに違いない。 耐震性が購入の重要な理由ではなく、あくまで価格やプランを重視して 購入した客であっても、ある程度の構造強度は当たり前の事と思っていたはず。
当たり前と信じられてきた「神の領域」で、 悪意の瑕疵があったというのだ。
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chapter 1 増殖していく「姉歯菌」
問題の構造計算書偽造を行ったのはご存知、 「姉歯建築設計事務所」の姉歯秀次1級建築士。
首都圏では既に、姉歯設計が関わった偽造の疑いがある21棟の建物名と 事業主名・施工・設計会社名が発表され、各建物や企業について報道が行われているが、 さらに23日の報道では東海圏でも、三重交通グループの三交不動産が運営するホテル 「三交イン桑名駅前」と「三交イン静岡」、また、名鉄不動産が運営の「名鉄イン刈谷」 についても構造計算を姉歯設計が行っていたとして営業を休止するとのこと。
まるで、 「姉歯菌に感染の疑いがある建物を探せ!」と云わんばかりの動きである。 ちなみに「姉歯設計」は元請業者ではなく、元請設計事務所の下請け業者である。 設計と云ってもさらに細かく、意匠・構造・設備(電気・衛生)などに分かれる。 姉歯設計は、検査機関に提出する構造計算を担当する下請設計業者というわけだ。 (案件によって異なるかもしれないが…)
そして、この主犯「姉歯設計」と繋がっている共犯探しが マスコミのネタとなっている。
=引用開始= 耐震データ偽造問題で、完成済みのマンションなど14棟のうち12棟の建設過程に、 不動産会社「ヒューザー」と建設会社「木村建設」のいずれかが関与していることが 20日、国土交通省の調べで分かった。同省は、姉歯(あねは)建築設計事務所の 姉歯秀次1級建築士(48)の構造計算書偽造の経緯などについて両社が事情を 知っている可能性もあるとみて調べている。[毎日新聞11月20日] =引用終了=
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chapter 2 「業界の謎」の思わぬオチ
私は不動産・建設業界の人間ではないが、お客にはその業界の会社が多い。
業界の会社が多数集まる会合に出席したことも何度かあるのだが、 以前、ヒューザーが手がけた、とあるマンション事業の成功事例について、 詳しい話を聞ける会合に参加した事があった。 (その「とあるマンション」は、今回の「リスト」には含まれてません)
業界内では「ヒューザー=100m2マンション」というイメージがある。 100m2は「贅沢な広さ」ではなく、人間が無理なく暮らすために必要な広さだ という考えに基づき、とにかく100m2にこだわった。当然広くなれば価格が上がる。 結局富裕層にしか買えないのでは意味が無い。そこで大幅なコスト削減努力を行って、 一般層にも手が届く価格で広い住宅を提供する…これがヒューザーの取り組みだ。
前述の成功事例の話では、事業利益の数字なども聞いた。 あれだけ安く広いマンションを提供しながら、しっかりと利益もあげていた。 業界内では、「なぜそういうことが可能なのか?、なぜ利益が出るのか?」 と云われていた。私もその会合の席で、その理由を、「モデルルームを造らない」 「海外から直接建材を仕入れる」「短期間で効果的な販促」 そして「高い設計力による建築コスト削減」と聞いていた。
まさか「安い100m2マンション」という業界内での秘密に、 こんなオチがつくとは思わなかった。
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chapter 3 関係各社それぞれの責任は?
さて、今回名前が上がっている会社はすべて、何らかの責任があるわけだが、 どこがどれくらいの責任があるのだろうか?
まずは姉歯設計。これは云うまでもない。 そして木村建設(などゼネコン)とヒューザー(など事業主)。
報道では、建設会社はおろか、事業主、そして販売会社までもが、 悪意があった(=事情を知っていた)と云われているが、ちょっと待てと云いたい。
今日、意匠専門の設計士にも聞いたが、設計というのは最初に基本設計が行われ、 その過程で構造はそれを専門とする設計士に依頼する。すると、構造設計担当は 「これじゃ建確(=建築確認審査)は通らない。ここもっと柱を増やして」 などと指摘し、意匠設計担当が直していく…簡単に云うと、こういうやり取りで進むもの。 前述の意匠専門の設計士に、構造計算のことを聞いてみた。当然知識はあるものの、 詳細には殆ど答えられない。それくらい専門の専門分野なのだ。
私の感覚でいうと、元請の設計事務所は姉歯の悪意を把握していたはずである。 ゼネコンも疑問に思わなければおかしい。これぐらいの規模でこれぐらいの鉄筋が 必要なのに、この案件はコレだけで済む…という単純な疑問は必ずあるはず。 そもそも構造図面を見た時に、普通でないことに気づかなければ建設会社ではない。 ま〜こういう云い方をしなくとも今回の場合、木村建設が事業主に姉歯設計を 紹介していたというのだから、共謀していたのは明白なのだが…。
では、事業主が把握していたかどうか?。
ハラは「把握してなくちゃおかしい」ということは無いと思う。事業主の仕事は、 事業の収支、近隣交渉、商品企画、販促企画などをチェックし、全体を統括する。 図面に関しては、意匠設計についてはチェック出来るものの、構造図だけを見て 構造の瑕疵に気づけるかと云えば無理だと思う。事業担当にそんな知識は無い。 設計事務所に「とにかく建確が通るようにして」と云うだけであろう。
また、事業主は建設会社に対して、VE(バリューエンジニアリング)という 品質管理を行う。つまり住宅性能をそのままに工事費調整を行う作業である。 これは、あくまで建材や設備レベルで行われる。タイルの面積を減らしたり、 つかう建材を安価なものにしたり、予定していた最新設備を断念するなどである。 このVEを、構造の骨組レベルから行う話は聞いた事が無い。まずもって、 事業主がそういう指示をすることは考えられない。
そして当然、販売会社が気づけるわけが無い。販社は事業主から商品内容の オリエンを受けて、その内容に従って販売マニュアルを作って接客するのだ。 事業主が知らない事を知るはずが無い。
しかし、ヒューザーに関しては違う。 建設会社や設計会社またその下請け会社が行っている業務の詳細を、 小嶋社長は自ら知っていなければならなかったと思う。なぜならば、明らかに他と違う 「安くて広いマンション」をビジネスモデルとして事業を行っていたからだ。 何故他と違うことが出来るのか?それを実現させている業者はどういう業者か? その技術はどんなものか?何か問題はないのか?これらは社長自らチェックし、 知ってなければならない事だと思う。だって儲けのカラクリの秘密を社長が知らなくてどうする? 「社長が知らなかった」という責任がヒューザーにはある・・・と、ここまで書いてみると、 間違いなく、「知っていた」に違いないと思うのだが…如何に?。
そして、忘れてはならないのが、 姉歯設計の偽造構造計算書を何度となくスルーし続けた、 国交省公認の民間検査機関である「イーホームズ」である。
この会社のHPを見ると、まるで己が悪い事をしたとは思っておらず、 何度となく「一番先にこの事件を公表した…」と主張している。 「一番先に公表したから悪い訳が無い」とでも云ってるかのようである。
「検査は正しく行われている。それをすり抜けるような悪質な書類を作成した 姉歯設計がとにかく悪い。」というのが、イーホームズの見解だ。
云っておくが「一番最初に発表した」って、偽装の事実は検査機関でなければ 知り得ないんだから、一番最初に発表できるのは当たり前。 いわば犯人が「自首」したようなものだとハラは思うのだが?
法の番人役である以上、偽装をスルーした事実があるだけで結果責任があり、 それはイーホームズも認めているが、過失責任は断固として認めていない。 しかし十二分に過失があるのだ。検算が必要なのにしていなかったらしい。 しかも偽造書類の内容は検算をすれば、すぐでも矛盾が分かるものだという。 そして姉歯設計は、検査機関にイーホームズを指名していたらしい。 イ社が善意なのか悪意なのか(知らなかったか知っていたか)は分からないが、 どちらにしても、姉歯設計に「あそこは書類なんて見やしない」などと、 ずさんな検査機関としてリストアップされていた事実には間違いは無い。 大いなる過失責任があると思う。
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chapter 4 解決すべき問題の本質は何か?
倒れる危険性のある建物を早く立て替える事ではない。それは手段の話だ。
地震で倒壊危険性がある建物なんてゴマンとあるのだ。築十数年の建物に 暮らしている人がどのくらいいるだろうか?古い戸建てに住んでいる人が どのくらいいるだろうか?問題ある建物なんて山ほどあるのだ。 今報道されているマンションが地震でつぶれるなら、私が住む建物なんか イチコロだと思う。倒壊危険という報道をマスコミは過剰にしすぎだと思う。 それは、今回の事件がある前から存在している問題なのだ。
そうではなく、もっとメンタル的な問題だと思う。偽られた価値に ウン千万というお金を投資した人達のメンタルケアが問題なのだ。
その人達にとって、納得のいく解決策は、お金を全額返還してもらって、 今とは別の信頼に足る事業主と建設会社が手がけるマンションに移る事だろう。 しかしそれだって、全員にとって最高の解決ではない。引越とはエネルギー の要るイベントである。改めて選び直すのも苦痛である。マンション購入の 手続きたるや面倒臭い事この上ない。出来る事なら今の場所のまま、 別の会社に立て替えてもらうのが一番と考える人もいるだろう。もしくは、 金額に見合う納得として、格安の中古物件を購入したことと同等として 差額分を返還してもらえば、そのまま住み続ける人もいるかもしれない。
つまりは、投資してしまった金額に見合う 安心感と納得感を、与え直すことである。
どんなことが安心で納得なのかは、それぞれ違う。
だから、マスコミは不必要に倒壊危険を煽るな。
そうでなくたって、問題のマンションの住民すべてに、 解決策をもたらすことが出来るか否かが、全く見えないのだから。
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chapter 5 この行く末は、どうなるのか?
とにかく誰が悪かろうと、事業主はマンション購入者に対して、 瑕疵担保責任を負わなければならない。 しかし誰が考えてももはや、中小企業が一社で負える額ではない。 では悪の根源である木村建設や姉歯設計も負えばいいかといったら、 木村建設は今日の報道で破産申請をしたとのこと。 姉歯氏は当然社会から消えるだろうし、負える額だってたかが知れている。 イーホームズにも過失責任を負わせたって、やはり額は知れているのだ。
報道やブログで関係各社が叩かれ、その責任を追求しているが、 そんなことは、解決策の前に何の意味も無い。(私も前段で責任追及してしまってるが…苦笑)
全社まとめて有罪にして、可能な限り責任を負わせたとしても、 解決出来るか分からないのだ。
それでは、国から補填するのかといっても、多少は許されるだろうが、 やはりそこは国民の血税、多額の補填は無理ではないか?何より皆が納得しないだろう。
一筋の可能性としては、ヒューザーがとにかく国や銀行から借金をして、 建て替えるのか現金返済なのかはともかく補償を行い、誠心誠意償い、 企業ブランドを回復させながら、どこかのグループに合併していただく。 そして住宅事業を続けて、その利益で少しずつ返済していく…
…無理か…何年かかるんだ…。その前にもうヒューザーの物件は売れんし、 資金調達なんて夢のまた夢だろうな…。
今不安に怯える住民たちを、誰が助けるのか?
これほど手に負えない犯罪はない。 だからこそ、神の領域の犯罪なのだ。
ちなみに、それを尻目に、他のマンション会社は、広告代理店に 構造や建築会社の信頼性を大きく掲載する原稿の準備を始めさせている。
当然の流れだが、どこか殺伐とした業界の空気を感じてしまう。
051124 taichi
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