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- 2005年04月27日(水) ∨前の日記--∧次の日記
- 『フタマタ女』

(創作エッセイ)


3月初旬の休日、男は新宿のCDショップの店内にある
試聴コーナーで、ヘッドフォンをつけてCDを聞いていた。


ふと、肩を叩かれる。
横を向くとそこにはショートカットの女が立っていて、
手を振りながら男に何か云っていた。


一瞬、見覚えがあるような無いような
確信が持てない躊躇の後、すぐに男は思い出した。
ヘッドフォンを外して女の方へ向く。




「さっきから声かけてたんだけど、全然気づかないんだもん!
 やだー、久しぶり〜、何年ぶり?4年?5年だっけ?!」





「久々に会っていきなり捲し立てんなよ!」





「だって〜久々じゃなーい、ビックリした〜、
 どこかで見たことあるな〜って、ナンカいーじゃない?
 こ〜いうのって、数年経って偶然に出逢うとかって!」





「よくねーよ!今こっちは完全に誰にも邪魔されたくない
 『ヒトリノセカイ』モードなんだから!出会い系モードには
 すぐには切り替わらないんだよ、男ってのは」






「あーあーあーうるさいうるさい、いーじゃないもうー
 ちょっとどっかで飲もうよ飲もうよ、せっかくだし!」






「あいかわらずだなー。ちょっと待て、まずCD買わせろ!」







******************************





男は4〜5年ぶりに会ったモトカノを連れて、
アジア風味の料理屋へ行くことにした。



席に座るなり、しゃべりまくる女。
お互いの近況からここ数年の出来事等を話した後、
話題は現在の女の彼氏の話になった。








「その彼とはもうどのくらいになるんだ?」





「ん〜と、3ヶ月かな?」






「ほう、じゃ〜これからじゃん」






「いや〜でもね〜カッコいいんだけど、ちょっとモノ足んなくてね〜、
 『ルックス君』ていうだけかも…他と比べるとさ〜頼りないってゆうか…」




細麺を絡ませている箸の先を
じっと見つめながら女はつぶやいた。




「他って何?他って?、友達か?」





「ん〜…友達っていえば友達だけど、
 一応そっちも彼氏ということになってる」




顔を上げない女の眉間のあたりを見ながら
男は問いかける。




「?…フタマタってことか?」




男の方を向いて、女は答えた。


「まー…そういうことかな」






「どっちにするんだよ。どっちかに決めるんだろ?」





「分かんないな〜、『ルックス君』はまだ3ヶ月だし…、
 『頼れる君』は10ヶ月ぐらいだけど、その彼と付き合うときは
 別に『ドリーム君』がいたんだよね。そいつは夢を語るだけの人だった」





「おまえまさか、常にフタマタ状態ってわけ?」





「ん〜そうね〜ここ4年、ずっとそうかも…男ころがしみたいな、ハハっ
 3マタの時もあったっけ。男を泣かすし自分も泣くし大変よ」







「・・・」
 


男はじっと女の顔を見つめた。
テーブルの上の空気がすぅっと引いていく感じがした。






「でもさ、このぐらい当たり前よ、女って。フツーよフツー」



サワーに口をつけながら女が云うと、
女の顔の向こうの壁を見つめながら
暫くして男が答えた。





「・・・そうだな、
 お前は『当たり前のフツーな女』に成り下がったみたいだな」





「なによそれ」


女は男の顔に視線を刺す。





「5年前、お前、服飾コーディネーターだっけ?
 それになりたいつって、色彩検定受けたり、
 夜間学校いったりしてたよな?、それどうした?」






「あれはダメね」






「…まあいいや、
 とにかく、そん時のお前は一生懸命で、
 キラキラしてて魅力的だったけど、
 今のお前には何もそそられない。何故だ?」





「別にあんたにそそられなくてもいいわよ!」






「あ〜別にいい。元からそんな気はない。それより、
 今の付き合ってる2人、どっちかに決めなきゃって思ってるか?」






「いつも思ってるよ。その2人に限らず、付き合う人皆一生懸命だし、
 でも、どっちも好きなのよ。これじゃいけないって思う」






「一番タチが悪いタイプだなお前は? 5年間何してたんだ?
 そんな奴だったっけ?俺と付き合ってた時だけか違ったのは?
 それともそん時からそうだったのか? 変わったなお前。」






「…なんなのよ?、今更あの時のことを疑うわけ?
 もう付き合ってる訳じゃないでしょ!何もなかったわよ!
 ていうか今そんなにあたし悪いわけ?
 フタマタしてるけど、向こうが好きだって云ってんのよ?」







「…あ〜あ、云ってるセリフが最悪のパターンだ。それ以上何も云うな!

 フタマタする奴って2タイプいるんだ。
 一つは『確信犯』タイプ。完全に2人と付き合いたいって思っているんだ。
 どっちかに決めなきゃ!とも思わない。でも、このタイプってのは、
 付き合う相手もそういうタイプの男だったりする。同時に2人と上手く
 やり繰りして付き合いたいから、面倒のない同じ恋愛観の相手にするんだ。
 だから、相手も確信犯なので、相手の気持ちを傷つけてはいない」





「ハイ、それで?」





「もう一つが『自己愛』タイプ。これが今のお前だ。
 基本的に『大好きな1人といつまでも一緒に居たい!』と思っているけど、
 相手に究極の理想を求めるが故に、ちょい『高め』程度の男では物足りないんだ。
 だから物足らない部分をもう一人の『高め』な男と付き合って補う。
 二人合わせて『完璧な男と付き合っている状態』にしておくわけだ。
 んで、それぞれの男には、それぞれに足らない部分を補うように求めて、
 1人の完璧な男にしようとするが、人間そうは上手くいかない。
 それを見切ると別れて、別の男を探すわけだ。それを繰り返していく。」





「・・・・」





「でも『これじゃいけない』とは思っている。
 『私は本当はフタマタするようなだらしない人間じゃない』と思っている。
 『想いが強すぎて決められないだけだ』と思っている。そうだろ?」






「まだ続くの、その説教」






「だから一番タチが悪い。相手について何ひとつ考えていない。
 あくまで『自分にとっての理想的な相手の姿は何?』であり、
 『自分の有るべき姿』について葛藤しているのであって、常に話題の中心は自分。
 つまり、自分が好きなだけなんだな。愛しているのは己だけ。
 男は自分の持ち物と一緒。バッグやサイフと同じ。ブランド品が欲しいわけだ。」







「もう私、帰るわ…会わなきゃよかった。」







「そうだな、会わなきゃよかったよ。そんなお前を見なくて済んだし。
 
 久々にあった奴が、人間として明らかに格が落ちたと気づいた時って、
 こんなにさびしいものなんだな…。
 
 それが昔好きだった女とくりゃ、なおさらだ…」







***********************************






テーブルで二人は別れた。

代金を置き、足早に去っていく女の姿を見ながら男は思った。



(決して云い過ぎだとは思わない。
 あのくらい云わないと、あいつはダメになる。
 
 フタマタは究極の1人を見つけるまでの過程ではない。
 その生き方そのものが到着点になってしまう。
 
 仮に「究極の男」が現れ、結婚したところで、フタマタは終わらない。
 その時点でその「究極」だったものは、すぐに標準化されて、
 次の「究極」が現れる。そして彼女は永遠にフタマタしていくんだ。)





早くどちらかに決めて、落ち着いてほしい。
そして、自分の本当の道を進んでいってほしい…。

そう願いつつ、男は一人店を出た。














050427
taichi

...
    

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