今日は1日冷たい雨が降っていた。 冷たい雨が降る時でもボクは元気に庭をうろうろするのだ。 てっぺん杉の近くの小さな杉の木に近づいた時だった。 ボクはセミの忘れ形見を見つけたのである。 この抜け殻は冷たい雨の中でも、まだ生きているようにしっかり枝に つかまっていた。
この抜け殻の主はもうこの世にはいないに違いないのに、こうして抜け 殻だけがしっかりと枝につかまってこの世に残っているというのはとて も不思議なものである。 たいていのセミの抜け殻はもう落ちて跡形もなくなっているというのに この抜け殻の主はよほど強情なセミだったのだろうか。
いや、きっとこれはこのセミがこの世に生きた証なのだろう。 枝にしっかりつかまってこんな寒い季節にまで残るくらいの抜け殻の主 だ、きっと一生懸命生きたセミに違いない。 久しぶりにセミの抜け殻を見つけたので食べてしまおうかとも思ったが、 こんな季節にまで残っているのを食べてしまうのは少し気がひけたので、 ボクはこのままセミの忘れ形見として抜け殻の力が尽きるまでここに残 しておくことにした。
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